新妹魔王の日常契約
魔王の血を引く義妹との、甘くて危険な二重生活が始まる——。
母を亡くし、海外出張ばかりの父を持つ高校生・東城刃更。ある日突然、父から「お前には義理の妹ができる」と告げられる。しかも、相手は魔族で、一人は先代魔王の血を引いているという。戸惑いながらも、かつて自分も居場所を失った経験から、二人を迎え入れる決意をする刃更。
しかし、妹たちとの日常は、決して穏やかなものではなかった。魔族と勇者の血を引く者が出会うとき、運命の歯車が静かに動き出す。守りたいものと、封印してきた力の狭間で揺れる刃更。そして、義妹たちが抱える秘密とは——。
夕暮れの台所、交わされる契約、紫に輝く瞳。日常の裏側に潜む非日常が、いま幕を開ける。
新妹魔王の日常契約 - 逆転の腕輪~俺が守るって決めたんだ~
集中治療室の空気は、夜の底で凍りついていた。
心電図のモニターだけが、規則正しい緑の波を描いている。ピッ、ピッ、ピッ。無機質な電子音が、壁に吸い込まれて消えていく。
成瀬澪は、ベッドの横の丸椅子に座っていた。長い黒髪が背中に張り付き、紫色の瞳は腫れていた。何度も泣いて、乾いて、また泣いたからだ。
彼女の両手は、刃更の左手を包み込んでいた。白い指が、微かに震えている。
「お願い、起きてよ……」
声は掠れていた。もう何時間、この言葉を繰り返しただろう。
「私、ちゃんと謝りたいの。私のせいで、あんたが、こんなことになって……本当に、ごめんなさい」
涙が、また一粒、刃更の手の上に落ちた。
澪は、刃更の指を一本一本、確かめるように握り直した。冷たい。まるで、熱が少しずつ逃げていくようだった。
「私、あんたに言いたいことが、いっぱいあるの。あんたが作ってくれたご飯、美味しかったって。あんたが守ってくれて、嬉しかったって。あんたが、いてくれて、よかったって」
言葉が、喉の奥でつかえた。
「だから、お願い。目を開けて。私を、一人にしないで」
澪は刃更の手を、自分の額に押し当てた。祈るように。縋るように。
「……私、あんたに、甘えてばかりだった。あんたが優しいから。あんたが何でも許してくれるから。私、あんたに何も返せてない」
澪の肩が、小さく揺れる。
「だから、お願い。起きて。私に返させて。私に、あんたを守らせて。今度は私が、あんたを——」
その時だった。
澪の手の中で、刃更の指が、ぴくりと動いた。
澪は、はっと顔を上げた。
「……刃更?」
——光。
刃更の左腕に浮かぶ契約の腕輪。その紋様が、淡い青白い光を放ち始めた。
澪は目を見開いた。
「腕輪が……光ってる」
光は弱々しく、でも確かに脈打っていた。まるで、刃更の心臓の代わりのように。
澪の手の中で、刃更の指が、もう一度、今度は強く動いた。
「刃更!聞こえるの!?私の声が、聞こえるの!?」
澪は刃更の手を握りしめた。涙が、止めどなく溢れる。
「お願い、返事をして!刃更!」
澪の叫びに応えるように、刃更の重いまぶたが、ゆっくりと持ち上がった。
深い茶色の瞳が、ぼんやりと天井を見つめる。焦点が合わない。でも、確かに、開いた。
「……み、お……?」
声は、擦り切れた紙のように細かった。
「刃更!私よ!わかる!?」
澪が顔を覗き込む。涙が、刃更の頬に落ちた。
刃更は、ゆっくりと目を動かした。澪の顔を捉える。泣き腫らした目。ぐしゃぐしゃの頬。
「……泣いてるのか」
「泣いてない!」
澪は、袖で目を拭った。でも、涙は止まらない。
「泣いてないけど……あんたが、起きてくれて、嬉しくて……」
澪は、しゃくり上げながら言った。
「バカ……あんた、ほんと、バカなんだから……!私を庇うから、こんなことに……!」
澪の言葉は、涙でぐしゃぐしゃで、半分も聞き取れなかった。
でも、刃更には、ちゃんと伝わっていた。
刃更は、乾いた唇を、ほんの少し動かした。
「……お前は、悪くない」
澪が、びくっと肩を震わせた。
「……え?」
「俺が、守るって、決めたんだ」
刃更は、一音一音、確かめるように言った。
「お前を、守るって。だから、お前は、悪くない」
澪の瞳から、大粒の涙が、ぼろぼろとこぼれ落ちた。
「……っ、あんた、なんで、そんなこと言うのよ……!私のせいで、死にかけたのに……!」
澪は、刃更の手に縋りついた。
「私が、魔族だから!私が、狙われたから!私が、あんたのそばにいたから、あんたは——!」
「澪」
刃更の声が、澪の言葉を遮った。弱々しいのに、不思議と、はっきり聞こえた。
「お前が、そばにいてくれたから、俺は、お前を守りたいって、思えたんだ」
澪は、息を呑んだ。
「だから、謝るな。お前は、俺の、大切な……家族だ」
その瞬間だった。
刃更の左腕の契約の腕輪が、爆発するように輝いた。
青白い光が、病室を満たす。澪は、あまりの眩しさに目を閉じた。
「なに、これ……!」
光は、刃更の体を包み込み、そして澪の体にも流れ込んでいく。
澪の胸の奥で、自分の紋様が、熱を帯びた。心臓が、強く脈打つ。
「……あったかい」
澪は、目を閉じたまま呟いた。
刃更の腕輪から流れ込む力が、澪の荒れ狂っていた魔力を、ゆっくりと、でも確実に鎮めていく。
まるで、大きな手で、優しく抱きしめられているような感覚。
「これが……契約の、力……」
澪は、自分の胸に手を当てた。
暴走しかけていた魔力が、静かに、凪いでいく。
「刃更……あんた、やっぱり、すごいわ」
澪が目を開けると、刃更の瞳が、真っ直ぐに澪を見つめていた。
「……すごいのは、お前だろ。お前の魔力が、俺を呼んだんだ」
刃更は、ほんの少し、笑った。
「ありがとな、澪。お前のおかげで、目が覚めた」
澪は、また泣きそうになった。
「……ばか。お礼を言うのは、私の方よ」
澪は、刃更の手を、もう一度、強く握った。
■
病院の廊下。
消毒液の匂いが、夜の空気に混じって、鼻につく。
野中柚希は、壁にもたれて立っていた。水色のショートヘアが、蛍光灯の光を反射して、青白く見える。頭頂部のアホ毛は、ぐったりと垂れていた。
彼女の手の中の通信機が、小さく震えた。
着信。表示された名前は『ミスター・K』。
クレセント・ウォッチャー、霧ヶ丘支部。柚希の上司だ。
柚希は、一瞬、ためらった。
でも、出ないわけにはいかない。
「……もしもし」
『野中くん、状況を報告してくれ』
低い、感情のない声。
「……対象の容態は安定しています。意識は、まだありませんが」
『そうか。それで、例の件だが』
柚希の指が、通信機を握りしめた。
『監視対象の危険度は最大。抹殺許可は有効だ。次の接触があれば、実行せよ』
冷たい声が、柚希の耳に突き刺さる。
「……今、なんて?」
『聞こえなかったか?抹殺許可は有効。次の接触があれば——』
「なんで、今なんよ……」
柚希の声が、震えた。
『なに?』
「今、刃更は、瀕死の重傷で、集中治療室におるんやで。澪ちゃんは、自分のせいやって、泣き崩れて。そんな時に、抹殺なんて……!」
『野中くん、私情を挟むな。これは命令だ』
「私情やない。これは、正気かどうかの話や」
柚希は、通信機を握りしめた。指が、白くなる。
『……野中くん。君は、里の監視員だ。任務を遂行しろ』
「……わかってる。わかってるよ」
柚希は、目を閉じた。
里の命令。澪の抹殺。
幼い頃から、刃更を守りたかった。里の言いなりになって、強くなった。
でも、今、刃更が命を懸けて守ろうとしているのは、澪だ。
「……うちは」
柚希は、通信機を、耳から離した。
「うちは、刃更を守る」
小さく、でも、はっきりと呟いた。
そして、通信機の電源を、切った。
プツン、という無機質な音が、廊下に消えた。
柚希は、壁にもたれたまま、ずるずると座り込んだ。
「……ごめん、ミスター・K。うち、命令に背くわ」
柚希の目から、涙がこぼれた。
「でも、うちは、刃更の側におる。それが、うちの……本心やから」
柚希は、膝を抱えて、静かに泣いた。
■
病院の一階、自動販売機の前。
成瀬万理亜は、缶コーヒーを買おうとして、手を止めた。
ピンク色のツインテールが、蛍光灯の下で、くすんで見える。
彼女の手には、一枚の写真があった。
優しく微笑む、母の写真。
シェーラ。
万理亜は、写真を、そっと胸に抱いた。
「お母さん……」
声が、震える。
「あたし、お姉ちゃんを守るって、約束したのに。お兄ちゃんを、守れなかった」
万理亜のピンク色の瞳が、涙で揺れた。
「お姉ちゃん、あんなに泣いて。お兄ちゃん、あんなに血を流して。あたし、何もできなかった」
万理亜は、写真を握りしめた。
「でも、もう泣かない。あたし、本気でやる。お姉ちゃんを守る。お兄ちゃんも。もう、誰も失わない」
万理亜の瞳に、強い光が宿った。
その時だった。
「覚悟は、決まったか」
静かな声が、背後から聞こえた。
万理亜は、振り返った。
そこに立っていたのは、東城迅。
長身で、黒いコートを着た男。刃更の父親だ。
「……迅さん」
迅は、万理亜の手の中の写真を見た。
「シェーラか。お前の母だな」
「……うん」
万理亜は、小さく頷いた。
「あたし、お母さんと約束したの。お姉ちゃんを、絶対に守るって」
「そうか」
迅は、短く言った。
「なら、これを持っていけ」
迅は、コートの内ポケットから、小さな鍵を取り出した。
古びた、銀色の鍵。
「封印鍵の予備だ」
「……え?」
万理亜は、目を見開いた。
「お前の封印鍵は、もう限界が近い。これを使え。大人の姿になれる時間が、少し伸びる」
「でも、これ、迅さんの……」
「俺には必要ない。お前が持っていろ」
迅は、鍵を万理亜の手に握らせた。
「……迅さん、ありがとう」
万理亜は、鍵を、大切そうに両手で包んだ。
「あたし、本気でやるから。お姉ちゃんを、お兄ちゃんを、絶対に守るから」
「ああ。頼んだぞ、万理亜」
迅は、万理亜の頭を、軽く撫でた。
「俺は、明日にはまた来る。それまで、澪と刃更を頼む」
「うん!」
万理亜は、力強く頷いた。
■
夜明け前。
病院の非常階段に、影が落ちた。
黒いローブ。顔を覆うフード。
ヴァルグリンド派の刺客。
「……見つけたぞ」
低い声が、闇に溶ける。
刺客は、音もなく、病院の廊下へと侵入した。
集中治療室の前。
澪が、水を買いに部屋を出た瞬間だった。
「——!」
澪の目の前に、黒い影が立ちはだかった。
「だ、誰……!」
澪は、後ずさった。
「魔王の娘、成瀬澪。お前の命、もらい受ける」
刺客が、短剣を抜いた。毒々しい紫色の刃が、闇に光る。
「いや……!」
澪は、声を上げた。
その時だった。
「澪から、離れろ……!」
集中治療室の扉が、内側から開いた。
そこに立っていたのは、刃更だった。
病院着のまま。点滴の針を、無理やり抜いたのか、手の甲から血が滲んでいる。
「澪に、触るな……!」
刃更は、壁に手をつきながら、澪の前に立った。
「刃更!ダメよ、あんた、まだ動いちゃ——!」
「大丈夫だ」
刃更は、澪を背中に庇った。
足が、震えている。視界も、ぼやける。
でも、引くわけにはいかない。
「ほう。死にかけの人間が、何の真似だ」
刺客が、嗤った。
「邪魔をするなら、お前から殺してやる」
刺客が、短剣を構えた。
その瞬間——
「させるか」
水色の光が、廊下に走った。
柚希が、刃更と澪の前に飛び出した。右手に、青白い光の刀。
霊刀咲耶。
「柚希……!」
「下がって、刃更。澪ちゃんも」
柚希が、刀を構える。
「監視員か。邪魔をするな」
「邪魔をするのは、あんたの方や」
柚希の声が、冷たく響いた。
「この子らに、指一本触れさせへんで」
柚希が、床を蹴った。
ガキィン!!
短剣と霊刀が、激しくぶつかり合う。火花が散った。
「小娘が!」
刺客が、短剣を振り回す。柚希は、紙一重でかわし、反撃する。
でも、相手はヴァルグリンド派の刺客。実力者だ。
柚希は、徐々に押され始めた。
「くっ……!」
柚希の頬に、短剣がかすめた。赤い線が走る。
「柚希!」
刃更が、前に出ようとした。
「お兄ちゃんは下がってて!」
ピンク色の光が、廊下を駆け抜けた。
万理亜が、銀色の鍵を掲げていた。
「封印鍵、解放!」
鍵が、光を放つ。
万理亜の体が、光に包まれ、次の瞬間——
大人の姿になった万理亜が、刺客に飛びかかった。
「お姉ちゃんに、お兄ちゃんに、これ以上指一本触れさせないんだから!」
万理亜の拳が、刺客の脇腹を捉えた。
「ぐっ……!」
刺客が、よろめく。
でも、倒れない。
「サキュバスの小娘が……!」
刺客が、短剣を万理亜に向けて振り下ろす。
「危ない!」
柚希が、万理亜を突き飛ばした。
短剣が、柚希の腕を切り裂いた。
「柚希ちゃん!」
「大丈夫、この程度……!」
柚希は、血を流しながらも、刀を構え直した。
でも、二人の連携でも、刺客には届かない。
刺客は、二人を同時に相手にできる実力者だった。
「終わりだ」
刺客が、短剣を高く掲げた。
「くそ……まだ、力が……!」
刃更は、自分の体を呪った。
毒が、体を蝕んでいる。手足に力が入らない。
(守るって、決めたのに。澪を、みんなを、守るって——!)
刃更の左腕の腕輪が、再び、強く輝いた。
青白い光が、刃更の全身を駆け巡る。
「——これ、は……!」
力が、溢れてくる。
澪の魔力が、腕輪を通じて、刃更に流れ込んでくる。
「澪!」
刃更は、叫んだ。
「俺に、力を貸してくれ!」
澪は、一瞬、驚いた顔をした。
でも、すぐに、力強く頷いた。
「うん!あんたに、私の全部、あげる!」
澪が、両手を胸の前で組んだ。
澪の体から、朱色の魔力が溢れ出す。暴走しかけた魔力が、腕輪を通じて、刃更へと流れ込んでいく。
「うおおおおおお!!」
刃更の右手に、巨大な魔剣が具現化した。
黒く、重厚な刃。魔剣ブリュンヒルド。
「な、なに……!?」
刺客が、初めて動揺した。
「これが、俺と澪の——契約の力だ!」
刃更が、魔剣を振り下ろした。
ズドォォォン!!
廊下の空気が、爆発した。
刺客は、間一髪でかわしたが、壁が大きくえぐれた。
「ぐ……!小僧、お前、その力は——!」
「行くぞ、柚希!万理亜!」
「ええ!」
「うん!」
三人が、同時に動いた。
刃更の魔剣が、刺客の短剣を弾き飛ばす。
ガキィィン!!
柚希の霊刀が、刺客のローブを切り裂く。
ザシュッ!
万理亜の拳が、刺客の顔面を捉える。
ドゴォッ!
「があっ……!」
刺客が、壁に叩きつけられた。
「ぐ……これ以上の戦闘は、不利か……!」
刺客は、苦し紛れに煙幕を撒いた。
ボンッ!
白い煙が、廊下を覆う。
「逃がすか……!」
刃更が、煙を切り裂くように魔剣を振るった。
でも、煙が晴れた時、そこに刺客の姿はなかった。
非常階段の窓が、割れていた。
「……逃げたか」
刃更は、魔剣を消した。
そして、糸が切れたように、その場に座り込んだ。
「刃更!」
澪が、駆け寄ってきた。
「バカ!まだ動いちゃダメでしょ!傷が開いたらどうするの!」
澪は、怒りながらも、泣きそうな顔で刃更を支えた。
「……わるい。でも、澪が危なかったから」
「だからって……!あんた、また、私を庇って……!」
澪の瞳が、潤む。
「ほんま、無茶しすぎやで」
柚希が、腕の傷を押さえながら、刃更の隣にしゃがみ込んだ。
「うちの心臓、何個あっても足りへんわ」
「……すまん、柚希。助かった」
刃更は、柚希の腕の傷を見た。
「その傷、大丈夫か?」
「平気。これくらい、かすり傷や」
柚希は、微かに笑った。
「お兄ちゃん!かっこよかったよ!でも、心配したんだからね!」
万理亜が、大人の姿のまま、刃更に抱きついてきた。
「わっ、ちょ、万理亜!離れろって!」
刃更は、顔を真っ赤にした。
「えー、お兄ちゃんの精気、ちょっと分けてくれてもいいでしょ?」
「ダメに決まってるだろ!今はそれどころじゃない!」
「ちぇー」
万理亜は、名残惜しそうに離れた。
「……みんな、ありがとう」
刃更は、三人の顔を見渡した。
「俺、一人じゃなかったんだな」
刃更の言葉に、三人は、それぞれの表情で、小さく笑った。
■
病院の屋上。
夜明け前の空が、東の空から、ゆっくりと色を変え始めていた。
深い藍色が、薄紫色に溶けて、やがて、オレンジ色の光が、地平線を染めていく。
刃更、澪、柚希、万理亜の四人は、屋上のフェンスに寄りかかって、空を見上げていた。
万理亜は、元の姿に戻っていた。
「……きれい」
澪が、呟いた。
「ああ」
刃更は、夜明けの空を、じっと見つめた。
「これからも、ヤバいことがあるかもしれない。ヴァルグリンド派も、また来るだろう」
三人は、黙って刃更の言葉を聞いていた。
「でも、俺は、お前らを守る。絶対に」
刃更は、はっきりと言った。
「……私も」
澪が、口を開いた。
「私も、戦う。もう、守られるだけじゃ嫌なの」
澪の紫色の瞳が、朝日に輝いた。
「私も、あんたを守る。あんたが、私を守ってくれるなら、私も、あんたを守るわ」
「澪……」
「うちもやで」
柚希が、続いた。
「うちも、里の命令なんか関係なしに、刃更の側におる。ずっと、幼馴染としても、監視員としても、……うちの、気持ちとしても」
柚希は、少しだけ、頬を赤らめた。
「あたしは、お姉ちゃんの護衛だからね!お兄ちゃんも、ついでに守ってあげる!」
万理亜が、笑った。
「ついでかよ」
刃更は、苦笑した。
「……でも、ありがとう。みんな」
刃更は、もう一度、空を見上げた。
太陽が、ビルの向こうから、顔を出した。
金色の光が、四人の体を、優しく包み込んだ。
「……よし、行こう。まずは、俺の傷をちゃんと治してからだ」
刃更が、立ち上がろうとした。
「当たり前でしょ!あんた、まだ患者なんだからね!」
澪が、刃更の腕を取った。
「ほら、支えてあげるから。感謝しなさい」
「……はいはい、感謝してますよ」
刃更は、澪に支えられながら、ゆっくりと歩き出した。
「ずるい。うちも支える」
柚希が、反対側から刃更の腕を取った。
「あ、じゃああたしは、お兄ちゃんの背中に——」
「ダメ!」
「あかん」
澪と柚希の声が、ハモった。
「えー」
万理亜は、頬を膨らませた。
「ったく、しょうがねぇな……」
刃更は、二人に支えられながら、苦笑した。
四人の笑い声が、夜明けの空に、小さく響いた。
それは、長い夜が明けたことを、確かに告げる音だった。
——でも、これは終わりじゃない。
新しい戦いの、始まりに過ぎない。
ヴァルグリンド派の影は、まだ、消えていない。
クレセント・ウォッチャーの命令も、まだ、取り消されていない。
そして、刃更の左腕の腕輪に宿った、逆転契約の真の力も、まだ、その全貌を現してはいない。
四人の絆は、確かに深まった。
でも、それは、これから訪れる、もっと大きな嵐の、ほんの序章だった。
夜明けの光が、霧ヶ丘市の街を、ゆっくりと照らし出していく。
その光の下で、四人の影が、長く、長く、伸びていた。Noveliaとは?
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