戦闘員、学園に派遣されます!
悪の秘密結社の最下級戦闘員・六号、給料は月3000ポイント。命の値段が安すぎる彼に下された新たな任務は、なぜか平和すぎる高校への潜入だった。「魔王も勇者もいない。あるのは普通の高校生活だけ」——そんな世界で悪行ポイントを稼ぐ方法は、たったひとつ。生徒会長になって学園を支配すること。報酬は10万ポイント。薄給に喘ぐ戦闘員にとって、これは是が非でも勝ち取らねばならない大勝負だ。しかし、その学園はただの高校ではなかった。異世界勢力が跋扈する代理戦争の舞台であり、かつて六号が奪った魔導石が土に埋もれ、そして学園は謎の結界に閉ざされていく。風紀委員に追われ、見えない敵に狙われ、それでもめげない最下級戦闘員の、波乱に満ちた学園侵略ラブコメディ。魔王も勇者もいないけれど、なぜか女子にモテる未来が待っているなんて、彼はまだ知らない。
戦闘員、学園に派遣されます! - 相棒アリス登場!オカルト部の呪いを科学でぶっ潰せ!
廊下の空気が、妙に冷たく感じられた。
六号は学園の二階、渡り廊下の手前で足を止めた。昨日の夜、裏庭で魔導石が不気味に明滅していた光景が、まだ頭の隅にこびりついている。あの後、スノウに「何か知ってるんじゃない?」と問い詰められた時の、あの鋭い水色の瞳も。
(くそ……面倒なことになってきたな)
六号は首の後ろをガリガリと掻いた。黒髪の短い髪が、指の間に跳ねる。茶色の目は、いつものように悪巧みの光を宿していたが、今日は少しだけ、その光が鈍い。
「悪行ポイントが稼げねぇ……」
呟いた瞬間だった。
「あんた、何を暢気なことを言ってるのよ」
背筋が、ビクッと跳ねた。
振り返る。
そこに立っていたのは、金髪のロングヘアを風に揺らした少女だった。毛先がほんの少しカールしていて、陽の光を浴びると蜂蜜みたいにきらきら光る。碧眼は、感情豊かに動く。今は、明らかに「怒り」の色を浮かべていた。
身長は158センチ。六号より頭一つ分ほど低い。
だが、その存在感は、まるで台風の目だった。
「ア、アリス……!?」
六号は思わず、一歩後ずさった。
「遅刻よ。遅刻。あんた、私が何分待ったと思ってるの?」
アリスは、腕を組んで六号を睨みつけた。首の後ろに小さな充電ポートがあるのが、怒りのせいでほんの少しだけ赤く光っているように見える。
「いや、その、だな……朝のホームルームが長引いて……」
「嘘をつきなさい」
「な、なんで嘘って分かるんだよ!」
「あんたの瞳孔が0.3ミリ開いた。嘘をつく時の癖よ。それに、ホームルームは九時二十五分に終わってる。今は九時四十七分。二十二分も何をしていたの?」
六号は、口をパクパクさせた。
(こいつ、相変わらず無駄に高性能だな……!)
アリスは、ため息を一つついた。
「それから、あんたのポケット。購買のカレーパンの袋が見えてるわ。しかも二つ。朝から購買に寄って、一人で二つも食べたのね。太るわよ」
「う、うるせえ! これは非常食だ!」
「非常食を二つも朝から食べる非常事態って何? お腹が空いた、なんて非常事態じゃないでしょうね」
六号は、ぐうの音も出なかった。
(そうだ、こいつはこういう奴だった。可愛い顔して、口が悪くて、俺の粗探しばかりしやがる)
アリスは、腰に手を当てて、六号の顔を下から覗き込んだ。
「あんたのバカ行動のせいで、私の処理能力が無駄に消費されてるんだけど。あんたが昨日、学園の裏庭で何をしていたか、全部知ってるわよ」
「な、なんで……!」
「あんたの体内ナノマシン、私とリンクしてるの。忘れたの? 心拍数、発汗量、瞳孔径、全部モニタリングしてるわ。昨日の夜、裏庭で心拍数が一気に上がって、その後、水色の髪の女の子と会話した。違う?」
六号は、額に冷や汗が滲むのを感じた。
「お、お前、ストーカーかよ……」
「ストーカーじゃないわ。相棒よ。相棒の行動を把握して何が悪いの? それより、あんた、学園の支配権を握るって任務、ちゃんと進めてるの?」
「あ、ああ。まあな。生徒会長選挙のルールを調べて、署名を集めれば立候補できるってところまで分かった」
「それで? 署名は何名分集まったの?」
「……まだ、ゼロだ」
「あははっ。さすがね。任務開始から三日で、進捗ゼロ。あんた、戦闘以外の才能、本当にないのね」
「うるせえ! これから集めるんだよ! 購買で菓子でも配れば、馬鹿な生徒はすぐ署名するだろ!」
「あんた、それ、賄賂って言うのよ。学園の規則で禁止されてるわ。風紀委員会に捕まったら、それこそ退学よ」
「くそ……この平和な学園、悪行ポイントの欠片もありゃしねえ……」
六号は、その場にしゃがみ込んだ。
アリスは、そんな六号を冷ややかに見下ろした。
「あんたが悪行ポイントを稼げないのは、あんたが無能だからよ。私が来たからには、そうはいかないわ」
「……お前、手伝ってくれるのか?」
「手伝うんじゃないわ。あんたの監視よ。あんたを野放しにすると、ろくなことをしないから」
六号は、しゃがんだまま、アリスの顔を見上げた。
碧眼が、真っ直ぐに六号を見下ろしている。
(こいつ、口は悪いが、なんだかんだで俺のことを心配してくれてるんだよな)
六号は、小さく笑った。
「……へへ。まあ、相棒が来てくれて、心強いぜ」
アリスは、一瞬だけ、きょとんとした顔をした。
それから、ふいっと横を向いた。
「な、なに言ってるのよ。気持ち悪いわ。さっさと立って。今日は、学園の食堂に行くわよ」
「食堂? なんでだ?」
「あんた、学園の噂、何も知らないの?」
―――
ミナミサカエ学園の食堂は、昼休みを前にして、すでに人で溢れかえっていた。
名物の特製カレーパン(150円)の前には、長い行列ができている。油で揚げた香ばしい匂いが、食堂中に漂っていた。
六号とアリスは、入り口近くの柱の陰に並んで、中の様子を伺っていた。
「で、噂って何だよ」
「オカルト部の呪いで、生徒が倒れるっていう噂よ」
「呪い? なんだそりゃ」
「昨日から、数人の生徒が、教室で突然倒れたらしいわ。吐き気、めまい、頭痛。保健室に運ばれたけど、原因不明。それで、オカルト部の部長が『神ゼナリスの呪いだ』って言い出したの」
「神ゼナリス? また、胡散臭い名前だな」
「不死と災いを司る神ですって。オカルト部が、最近、妙な儀式を始めたらしいわ。それが原因で、神の怒りに触れたって」
六号は、鼻で笑った。
「呪いだあ? この平和な学園で、何言ってやがる。きっと、集団食中毒か何かだろ」
「あんたにしては、珍しくまともな意見ね。でも、その『まとも』を、オカルト部の連中は信じないのよ」
その時だった。
「あら、六号。あなたも食堂に来てたのね」
水色のロングヘアが、さらりと揺れた。
スノウが、いつの間にか六号の隣に立っていた。腰に小さな剣をぶら下げ、左胸には風紀委員長のバッジが光っている。意志の強そうな水色の瞳が、六号を捉えた。
「スノウ……あんたもか」
「ええ。風紀委員会の巡回よ。それより、隣の可愛い子は誰かしら?」
スノウの視線が、アリスに向けられた。
アリスは、スノウをじっと見返した。
「私はアリス。六号の相棒よ」
「相棒……? 六号、あなた、こんな可愛い子と知り合いだったの?」
「まあ、色々あってな」
スノウは、アリスを上から下まで、じっくりと観察した。
「……そのアンドロイド、どこの製品?」
六号の心臓が、ドクンと跳ねた。
アリスは、表情を変えなかった。
「ご冗談を。私がアンドロイドに見えるの? 失礼な人ね」
「冗談じゃないわ。あなたの肌、髪、瞳、全部、人間のものじゃない。私には分かるの。それに、首の後ろ、何かあるわね」
スノウの指が、アリスの首の後ろを指した。
アリスは、一瞬だけ、眉をひそめた。
「……あなた、目がいいのね。でも、これ以上詮索しないで。私のプライバシーよ」
「あら、怖い。分かったわ。でも、六号の協力者なら、私にとっても仲間ね。ちょうど良かったわ。二人に、頼みたいことがあるの」
「頼みたいこと?」
スノウは、にっこりと微笑んだ。
「オカルト部の呪いの調査よ。風紀委員会の仕事として、正式に依頼するわ。あなたたち、オカルト部室に行って、何をしているのか調べてきてくれない?」
「はあ!? なんで俺が、そんな面倒なことを!」
「あら、あなた、この学園の平和を守るために、協力してくれるんでしょう? それに、調査の手柄は、あなたにも分けてあげるわよ」
「手柄って……あんた、自分で調べればいいだろ」
「私は風紀委員長よ。雑用は、部下に任せるのが仕事なの。それに、あなたたち、オカルト部に興味があるんでしょう? ちょうどいいじゃない」
六号は、歯を食いしばった。
(こいつ、完全に俺を利用する気だ。手柄は横取り、面倒なことは押し付ける。そういう女だ)
だが、六号の頭の中には、別の考えも浮かんでいた。
(待てよ。オカルト部の呪い調査……これ、悪行ポイントになるんじゃねえか? 呪いの噂を広めてる奴を突き止めて、そいつを脅して……いや、待て、もっとシンプルに、オカルト部の連中を出し抜いてやれば、学園の信用を勝ち取れる。そうすれば、生徒会長選挙の署名も集めやすくなる)
六号の口元が、にやりと歪んだ。
「……いいぜ、引き受けてやる。ただし、調査の結果は、俺が報告する。あんたは口出しするな」
「あら、強気ね。でも、報告は風紀委員会の権限で行うわ。あなたは、調査だけしてくれればいいの」
「なに!? それじゃ、俺の手柄が……」
「手柄は、風紀委員会のもの。でも、あなたの協力は、私が覚えておくわ。それで十分でしょう?」
スノウは、そう言って、優雅に微笑んだ。
六号は、拳を握りしめた。
(この女……! やっぱり、食わせ者だ!)
―――
オカルト部の部室は、校舎の三階の端にあった。
「……暗いわね」
アリスが、部室の扉の前で足を止めた。
廊下の突き当り。他の教室からは、すでに人の気配が消えている。放課後の校舎は、静かで、不気味だった。
「おい、アリス。本当に入るのか? 呪いの儀式とか、してたらどうする?」
「あんた、怖いの? 戦闘員でしょ」
「怖くねえよ! ただ、面倒くせえって言ってるんだ!」
「面倒くさがってる暇はないわ。さっさと開けるわよ」
アリスは、扉に手をかけた。
ギィ……
古い蝶番が、軋む音を立てた。
中は、薄暗かった。
カーテンが閉め切られ、部屋の中は、異様な空気に包まれていた。古びた資料や怪しい道具が散乱している。壁には、見たこともない紋様が描かれた布がかけられていた。
そして、部屋の中央には、車椅子に座った女性がいた。
「……誰」
女性は、ゆっくりと顔を上げた。
黙っていれば幸薄そうな美女。だが、その目は、妙にぎらぎらと光っていた。
「あんたが、オカルト部の部長か?」
「そうよ。私が、グリム。不死と災いを司る神、ゼナリスに仕える者。あなたたち、何の用?」
「風紀委員会の依頼で、呪いの調査に来た」
「呪いの調査……?」
グリムは、怪訝な顔をした。
「呪いの調査なら、もう始まってるわ。ちょうど、儀式の準備ができたところよ。あなたたちも、参加する?」
「儀式!? おい、アリス、やっぱり、やばいんじゃ……」
「黙って。面白いじゃない。儀式とやらを見せてもらうわ」
アリスは、部室の中に、ずかずかと入っていった。
六号は、慌てて後を追った。
部室の奥には、数人の生徒が集まっていた。皆、暗い顔をして、中央の祭壇を見つめている。祭壇の上には、黒い蝋燭が何本も立てられ、怪しげな香が焚かれていた。
「これから、神ゼナリスの呪いの儀式を始めるわ。この学園に仇なす者に、神の裁きを」
グリムは、車椅子の上で、両手を広げた。
「オオ、ゼナリスよ。我らが祈りを聞き届け、不浄なる者どもに、災いを……」
「ちょっと待って」
アリスが、グリムの言葉を遮った。
「な、なによ、あなた。神聖な儀式の邪魔をしないで」
「神聖な儀式? 笑わせないで。これが、呪いの正体?」
アリスは、祭壇に近づくと、黒い蝋燭を一本、手に取った。
「この蝋燭、成分を分析したわ。パラフィンワックスに、微量の硫黄と鉛。それから、この香。これは、ベラドンナの葉を乾燥させたものね。燃やすと、幻覚作用のある煙が出る」
「な、なにを……」
「それから、倒れた生徒たちの症状。吐き気、めまい、頭痛。これは、一酸化炭素中毒の典型的な症状よ。この部屋、換気が悪いでしょう? 窓も閉め切って、蝋燭を何本も焚いて、香を燃やして。一酸化炭素が充満してるわ」
アリスは、窓の方を指さした。
「それに、あなたの『呪いの噂』。生徒たちは、あなたの言葉を信じて、自分は呪われたと思い込んでる。倒れた生徒も、最初は一人だけだった。でも、あなたが『呪いが広がってる』って言いふらしたから、不安になった他の生徒が、自分も呪われたと錯覚して、同じような症状を起こした。集団ヒステリーよ。全部、科学的に説明できるわ」
部室の中が、静まり返った。
グリムの顔が、真っ赤になった。
「な、なにを根拠に……! あなた、何者なの!? 機械人形のくせに、神の領域に踏み込むな!」
「機械人形? 私は、科学の結晶よ。神なんて、根拠のない空想に過ぎないわ。あなたの言う呪いも、全部、物理現象で説明できる。オカルトなんて、ただのエラーよ」
「エラーですって!? 私の信仰を、エラー扱いするの!?」
「ええ。だって、証拠がないもの。神がいるという証拠も、呪いが実在するという証拠も、どこにもないわ。あるのは、あなたの思い込みと、それに振り回される弱い人たちだけ」
グリムは、車椅子の肘掛けを、ぎりぎりと握りしめた。
「……よくも、よくも、神を冒涜したわね。覚えてなさい。私の呪いは、本物よ。あなたに、必ず、災いが降りかかるわ」
「はいはい。楽しみにしてるわ。でも、呪いをかけるなら、まず、部屋の換気をしてからにしたら? 一酸化炭素中毒で、自分が倒れるわよ」
アリスは、そう言って、部室の窓を開け放った。
新鮮な空気が、部屋の中に流れ込んだ。
「……さ、行くわよ、六号。調査は終わったわ」
「お、おい、もう終わりかよ」
「ええ。呪いの正体は、一酸化炭素中毒と集団ヒステリー。これで、風紀委員会に報告できるわ。さあ、行くわよ」
アリスは、六号の腕を引っ張って、部室を後にした。
後ろから、グリムの怒鳴り声が聞こえてきた。
「覚えてなさいよ、機械人形! 私の呪いを、思い知らせてやるんだから!」
―――
校舎の外に出ると、夕陽が、学園をオレンジ色に染めていた。
「いやー、お前、容赦ないな。あの女、顔真っ赤にして怒ってたぜ」
「当然よ。科学的に説明できることを、呪いだの神だの言うなんて、許せないわ」
「お前、なんでそんなにオカルト嫌いなんだ?」
六号は、アリスの横顔を見た。
夕陽の光が、金髪を透かして、きらきらと輝いていた。碧眼が、真っ直ぐに前を見つめている。
「科学の結晶である私にとって、根拠のないオカルトは、処理すべきエラーよ。エラーは、排除しなければならない。それだけよ」
「ふーん。でも、世の中には、科学で説明できないことだってあるんじゃねえか?」
「ないわ。科学で説明できないことは、まだ科学が追いついていないだけ。いつか、必ず説明できるようになる。私は、そう信じてる」
六号は、アリスの横顔を、じっと見つめた。
(こいつ、本当に、科学を信じてるんだな。真剣な顔しやがって)
その時、アリスの表情が、ほんの一瞬だけ、曇った。
「……それに、私の動力炉も、完璧じゃないわ」
「動力炉? どういうことだ?」
「私の動力炉は、通常は安定してる。でも、外部から強い魔法干渉を受けると、暴走する可能性があるの。暴走すると、自爆まで、10分しかないわ」
「じ、自爆!? お前、そんな危険なもの積んでんのかよ!」
「キサラギ製のアンドロイドは、みんなそうよ。戦闘で捕獲されるくらいなら、自爆して情報を守る。そういう設計なの」
「……物騒な設計だな」
「でも、この学園に、魔法干渉なんて、あるはずないわ。だから、大丈夫。……大丈夫、よ」
アリスの声が、最後だけ、ほんの少しだけ、小さくなった。
六号は、アリスの横顔を見た。
(こいつ、不安なのか? 自爆が怖いのか?)
夕陽の光の中で、アリスの顔は、いつもより少しだけ、幼く見えた。
ドキッ。
六号の胸の奥が、小さく跳ねた。
「……な、なんだ、今の」
「どうしたの? 六号」
「い、いや、なんでもねえ!」
六号は、慌てて前を向いた。
(なんだ、今の。アリスの顔を見て、ドキッとするとか、ありえねえだろ。俺は、悪の戦闘員だぞ)
六号は、自分の胸に手を当てた。
心臓が、まだ、少しだけ速く動いている。
―――
翌日。
オカルト部の呪いの正体が、一酸化炭素中毒と集団ヒステリーだったという報告が、学園中に広まった。
倒れていた生徒たちは、全員、回復した。
六号とアリスの調査が、学園の混乱を収めた。そのおかげで、二人は、校内で、ほんの少しだけ信用を得た。
「へへ、どうだ。俺たちの手柄だぜ」
六号は、教室で、得意げに笑った。
「手柄? あんた、何もしてないじゃない。調査をしたのは、全部私よ」
「なに!? 俺だって、部室に突入する勇気を見せたろ!」
「突入したのは私よ。あんたは、私の後ろで、ビクビクしてただけじゃない」
「う、うるせえ! それでも、結果的に、学園の平和を守ったんだ! これは、立派な悪行……じゃなくて、功績だ!」
その時だった。
「あら、六号。ちょうど良かったわ」
スノウが、教室の入り口に立っていた。
「スノウ……なんだよ」
「オカルト部の調査、ご苦労さま。おかげで、風紀委員会の評価が上がったわ。ありがとう」
「ああ!? ちょっと待て! あの調査は、俺とアリスがやったんだぞ! なのに、なんで風紀委員会の手柄になってるんだよ!」
「あら、当たり前でしょう? 調査を依頼したのは、風紀委員会の私よ。報告するのも、風紀委員会の権限よ。あなたたちは、風紀委員会の依頼で動いた外部協力者。手柄は、依頼主のものなの」
「ふざけんな! 俺が、あんな怪しい部室に突入して、命がけで調査したんだぞ!」
「命がけ? 一酸化炭素中毒の危険はあったわね。でも、あなた、戦闘員なんでしょう? それくらい、朝飯前じゃないの?」
「ぐっ……!」
六号は、反論できなかった。
スノウは、にっこりと微笑んだ。
「それに、あなた、悪行ポイントを稼ぎたいんでしょう? この調査で、学園の信用を得た。それは、あなたの将来に、きっと役立つわ。そうでしょう?」
「……あんた、どこまで知ってやがる」
「さあ、どうかしら。でも、私、あなたのことは、ちゃんと見てるわよ。あなたが、この学園で何をしようとしてるのかも、ね」
スノウは、そう言って、優雅に微笑んだ。
六号は、歯を食いしばった。
(この女、やっぱり食わせ者だ。俺のことを、全部、利用する気でいる)
だが、同時に、六号は思った。
(……でも、こいつの立ち回りは、見事だ。手柄を横取りして、自分の評価を上げて、俺の手柄も、学園の信用って形で、ちゃんと残してる。風紀委員長としての手腕は、本物だ)
六号は、スノウのことを、内心、認めざるを得なかった。
「……ちっ。まあいい。今回のところは、見逃してやる」
「あら、ありがとう。それじゃ、また何かあったら、頼むわね」
スノウは、そう言って、教室を去っていった。
―――
夜。
六号とアリスは、学園の近くにある、キサラギが用意した隠れ家のアパートに戻る途中だった。
街灯が、二人の影を、長く伸ばしていた。
「……くそ。結局、手柄はスノウに持っていかれた」
「仕方ないわ。あの女、頭が回るもの。あんたじゃ、敵わないわよ」
「うるせえ! 俺だって、やればできるんだよ!」
「やればできる? 今まで、やったことあるの?」
「ぐっ……!」
六号は、悔しそうに、うつむいた。
アリスは、そんな六号を、ちらりと見た。
「……でも、あんた、今日は、少しだけマシだったわよ」
「……は? なんだよ、急に」
「オカルト部に突入する時、ちゃんと、私のことを、かばおうとしてたでしょ。あんたなりに、相棒を守ろうとしてた。……少しだけ、見直したわ」
アリスは、前を向いたまま、小さく言った。
その横顔は、街灯の光に照らされて、ほんの少しだけ、赤く見えた。
六号は、自分の頬が、緩んでいることに気づかなかった。
「な、なんだよそれ。照れくせえな」
「うるさい。さっさと帰るわよ。明日も、任務があるんだから」
「……へへ。そうだな」
二人は、夜道を歩いた。
街灯の光が、二人の影を、一つに重ねていた。
―――
その夜。
学園の裏庭では、埋められた魔導石が、前よりも、さらに強い光を放っていた。
脈打つように、明滅を繰り返す。
まるで、何かの目覚めを、待っているかのように。Noveliaとは?
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