戦闘員、学園に派遣されます!
悪の秘密結社の最下級戦闘員・六号、給料は月3000ポイント。命の値段が安すぎる彼に下された新たな任務は、なぜか平和すぎる高校への潜入だった。「魔王も勇者もいない。あるのは普通の高校生活だけ」——そんな世界で悪行ポイントを稼ぐ方法は、たったひとつ。生徒会長になって学園を支配すること。報酬は10万ポイント。薄給に喘ぐ戦闘員にとって、これは是が非でも勝ち取らねばならない大勝負だ。しかし、その学園はただの高校ではなかった。異世界勢力が跋扈する代理戦争の舞台であり、かつて六号が奪った魔導石が土に埋もれ、そして学園は謎の結界に閉ざされていく。風紀委員に追われ、見えない敵に狙われ、それでもめげない最下級戦闘員の、波乱に満ちた学園侵略ラブコメディ。魔王も勇者もいないけれど、なぜか女子にモテる未来が待っているなんて、彼はまだ知らない。
戦闘員、学園に派遣されます! - 魔導石の復讐者、学園を封鎖せよ
風紀委員室の空気は、古い紙とお茶の匂いが混ざっていた。
窓の外は、昨日からずっと薄紫色の空だ。太陽はぼんやりと白くにじんでいて、校庭の木々が不気味に影を落としている。
「ねえ、六号。この報告書、本当にこれでいいの?」
スノウは水色の長い髪を耳にかけながら、手元の書類をめくった。左胸には風紀委員長のバッジがきちんと光っている。腰には、元騎士団長の名残だという小さな剣。水色の瞳が、じっと六号を見つめていた。
「ああ、問題ねえだろ。不正調査の報告書なんて、どうせ誰も細かく読まねえよ」
六号は椅子にふんぞり返って、ペンを指で回した。黒い髪は少し跳ねていて、茶色の目は今日も悪巧みの光を宿している。
「そういう態度が、後で足をすくうのよ。この学園、書類仕事にうるさいんだから」
「へいへい。あんたの出世欲には敵わねえよ。手柄は全部あんたのもんだろ」
「あら、分かってるじゃない。この学園を仕切れば、私の将来も安泰よ」
スノウはにっこりと笑った。
六号は内心、舌を出した。
(こいつ、相変わらず食わせ者だな。俺の手柄を横取りする気満々じゃねえか)
だが、今はそれどころではない。
昨日の夜、裏庭で魔導石が明滅していた。あの不気味な光が、頭から離れない。
「なあ、スノウ。最近、学園の外の様子、どうなってる?」
「どうもこうも、相変わらずよ。校門から先へは一歩も出られない。空はあの色。携帯も圏外のまま。完全に閉じ込められてるわ」
スノウは窓の外を見た。
「まるで、誰かがこの学園を檻にしたみたい」
その言葉が終わるか終わらないかのうちに、
ドォォォォン!!!
天井が、揺れた。
いや、校舎全体が、揺れた。
「な、なんだ!?」
六号は立ち上がった。スノウも顔色を変えている。
窓の外——
空が、割れていた。
薄紫色の空に、真っ黒な亀裂が走っている。そこから、どす黒い雲が噴き出してくる。
「何あれ……!?」
スノウが叫んだ。
次の瞬間、校庭の真ん中に、黒い影が落ちてきた。
ドゴォッ!!
土煙が上がる。
その中から、ゆっくりと、人影が立ち上がった。
ローブをまとった、長身の男。フードの下から、赤く光る両目がのぞいている。
「見つけたぞ……」
声が、学園中に響き渡った。
「よくも俺の魔導石を奪いやがったな、キサラギの戦闘員……六号ォォォォ!!」
六号の全身に、鳥肌が立った。
(あいつ……四天王の魔術師か!? なんでここに!?)
「六号、あれ、あなたの知り合い!?」
スノウが六号の腕をつかんだ。
「知り合いってか……ちょっと前に、魔導石をちょろまかした相手だ」
「ちょろまかしたって、あんた何してるのよ!?」
「いや、悪行ポイントになるかと思ってよ……!」
「このバカ! だから変なのが来るんでしょ!」
魔術師が、両手を掲げた。
「この学園ごと、お前を潰してくれる。結界魔法、発動」
魔術師の足元から、紫色の光が波のように広がっていく。
光は校舎を飲み込み、校門を包み、空まで覆っていった。
バチバチバチッ!!
空気が震える。
窓の外が、紫色の膜で覆われていく。
「な、なにこれ……!」
「結界だ。学園全体が、完全に閉じ込められた」
六号は歯を食いしばった。
校舎のあちこちから、悲鳴が聞こえてくる。
「窓が開かない!」
「外に出られないよ!」
「先生! 助けて!」
廊下は、パニックになった生徒たちで溢れかえっていた。
「六号、あんた、あの魔術師を止めなさい! 私は生徒たちを避難させるわ!」
スノウはそう言うと、風紀委員室を飛び出していった。
「おい、スノウ! 待てよ!」
六号も廊下へ出た。
その瞬間、
ズガァァァン!!
廊下の壁が、吹き飛んだ。
瓦礫が飛び散り、六号は反射的に身をかわす。
「逃がさんぞ、六号」
魔術師が、校舎の外から、魔法を撃ち込んできた。
「くそっ! 狙い撃ちかよ!」
六号は走った。
魔法の弾が、六号のすぐ後ろの床をえぐる。
ドガッ! ドガッ! ドガッ!
「やばいやばいやばい!」
六号は階段を駆け下りた。
一階に降りたところで、金髪の少女が立っていた。
「六号、何してるのよ。校舎が大変なことになってるわよ」
アリスは、腕を組んで、碧眼で六号を睨んでいた。
「アリス! いいところに来た! 四天王の魔術師が来やがった!」
「四天王? あの、あんたが魔導石を盗んだ相手?」
「盗んだって言うな! 戦利品だ!」
「どっちでもいいわ。で、どうするの?」
「どうするもこうするも、やるしかねえだろ!」
六号は、首元のスイッチに手をやった。
戦闘服の安全装置解除スイッチ。
だが、まだだ。まだ早い。
「アリス、お前はスノウと一緒に生徒の避難を手伝え。俺が魔術師を引きつける」
「何言ってるのよ。あんた一人で勝てる相手じゃないでしょ。私も戦うわ」
「ダメだ。お前は戦闘用じゃねえ。それに、お前の動力炉は魔法干渉に弱いんだろ」
「……だからこそ、あんたの援護くらいはできるわよ」
アリスは、六号の目をまっすぐ見た。
六号は、少しだけ笑った。
「へへ、そうかよ。じゃあ、頼むぜ。ただし、無理はすんな」
「あんたこそ、死なないでよ」
二人は、校庭へ飛び出した。
校庭には、魔術師が浮かんでいた。
「来たか、害虫ども」
魔術師の周りに、紫色の魔法陣がいくつも浮かんでいる。
「害虫はてめえだ! この学園に何しに来やがった!」
六号は叫んだ。
「決まっているだろう。俺の魔導石を返してもらう。そして、お前を八つ裂きにして、その肉片を、お前の仲間たちの前に晒してやる」
魔術師の声は、冷たく、憎しみに満ちていた。
「あの石は、俺が十年かけて育てたものだ。それを、お前ごときが、盗んだ。その罪、死をもって償え」
魔術師が、手をかざした。
「死ね」
魔法陣から、無数の光の矢が放たれた。
「くっ!」
六号は、地面を蹴って横に跳んだ。
光の矢が、さっきまで六号がいた場所を貫く。
ドドドドドッ!!
土が爆ぜる。
「アリス! 援護しろ!」
「分かってるわよ!」
アリスは、ポケットから小さな機械を取り出した。
「これ、キサラギ製の簡易ジャミング装置。魔法の照準を狂わせられるわ。でも、効果は数十秒だけ」
アリスがスイッチを押すと、魔術師の魔法陣が、わずかに揺らいだ。
「なに……?」
「今だ!」
六号は、魔術師に向かって駆け出した。
拳を握りしめる。
「くらえやぁぁぁ!!」
六号の拳が、魔術師の顔面に——
届く直前、
「甘い」
魔術師の体が、すっと消えた。
「な!?」
次の瞬間、六号の背中に、強烈な衝撃。
ドゴォッ!!
「ぐあっ!?」
六号は、地面に叩きつけられた。
「お前の動きなど、全て見えている。私の魔力の前では、赤子も同然だ」
魔術師が、六号の頭を踏みつけた。
「く、くそ……!」
六号は、必死に起き上がろうとした。
だが、体が動かない。
「あんた! 六号から離れなさい!」
アリスが、魔術師に向かって何かを投げた。
小型の爆弾だ。
ドカァァン!!
爆発が、魔術師を包む。
「効かぬ」
煙の中から、魔術師は無傷で現れた。
「機械ごときが、私に傷をつけられると思うな」
魔術師が、アリスに手を向けた。
「アリス! 逃げろ!」
六号は叫んだ。
だが、遅かった。
魔術師の手から、紫色の光線が放たれた。
「きゃあっ!」
光線は、アリスの胸を貫いた。
いや、正確には、アリスの体内の動力炉に、干渉した。
「え……?」
アリスの体が、突然、震え始めた。
「な、なにこれ……体が……熱い……」
アリスの全身から、異常な高熱が噴き出した。
周囲の空気が、歪んで見える。
「アリス! どうした!?」
六号は、なんとか立ち上がり、アリスに駆け寄った。
「動力炉が……外部からの魔法干渉で、暴走を始めてる」
アリスの声は、無機質で、淡々としていた。
「自爆まで、あと10分」
六号の血の気が、引いた。
「ふざけんな! 止める方法は!?」
六号は、アリスの肩を掴んだ。
熱い。触れられないほど熱い。
「外部干渉を除去するか、私の体を冷却するしかないわ。でも、この結界の中で、私を冷やせるものなんて……」
アリスは、六号の目を見た。
「六号、私のことはいいから、あの魔術師を倒して。そうすれば、干渉も消える」
「バカ言え! お前を置いて行けるか!」
「私はアンドロイドよ。壊れても、リリスがまた作ってくれるわ」
「それでもダメだ! お前は俺の相棒だろ!」
六号は、叫んだ。
アリスの碧眼が、わずかに揺れた。
「……バカね、あんた」
アリスは、小さく笑った。
その時、
「六号! 私も戦うわ!」
スノウが、校舎から飛び出してきた。
手には、腰に下げていた小さな剣。
「風紀委員長として、この学園の平和を乱す者を、放ってはおけないわ!」
スノウは、魔術師に向かって走った。
「おや、人間の小娘が、私に挑むか。無謀だな」
魔術師が、スノウに手を向けた。
「スノウ! ダメだ! 逃げろ!」
だが、スノウは止まらなかった。
「はああっ!」
スノウは、剣を振り下ろした。
魔術師の結界が、剣を弾く。
キンッ!
「なっ……!?」
「私に剣が通じると思うな」
魔術師が、指を鳴らした。
スノウの足元に、魔法陣が浮かび上がる。
「きゃあっ!?」
魔法の檻が、スノウを閉じ込めた。
「大人しくしていろ。お前の相手は、後でたっぷりしてやる」
「くっ……! 離しなさい!」
スノウは、檻を叩いた。
だが、檻はびくともしない。
六号は、二人の仲間が、追い詰められていくのを、ただ見ているしかなかった。
アリスは、自爆まで、あと10分。
スノウは、魔法の檻に閉じ込められた。
そして、魔術師は、六号を、じわじわと嬲り殺しにしようとしている。
「さあ、どうする、六号。お前の仲間は、二人とも、私の手のひらの上だ。お前も、ここで死ね」
魔術師が、六号に歩み寄る。
六号は、歯を食いしばった。
(どうする……どうすれば……)
頭の中が、真っ白になる。
(アリスを助けるには、魔術師を倒すしかない。でも、俺の力じゃ、あいつには勝てない)
(スノウも、あの檻から出せない)
(くそ……くそ……!)
六号の手が、無意識に、首元へ伸びた。
戦闘服の安全装置解除スイッチ。
(これを押せば……1分間は、無敵になれる。攻撃力も、防御力も、速度も、3倍だ)
(でも、その後の3分間は、完全に無防備になる。指一本動かせなくなる)
(それでも……)
六号は、アリスを見た。
アリスは、苦しそうに、胸を押さえている。
自爆まで、あと10分。
六号は、スノウを見た。
スノウは、檻の中で、六号を見つめている。
「六号……あんた、何か、考えがあるんでしょ?」
スノウが、言った。
六号は、小さく笑った。
「ああ、あるぜ。……最後の手段だ」
六号は、首元のスイッチに、指をかけた。
「何をしている? 諦めたか?」
魔術師が、六号を見下ろす。
六号は、魔術師を睨みつけた。
「諦めるわけねえだろ。俺は、悪の秘密結社キサラギの戦闘員、六号だ。悪行ポイントを稼ぐためなら、どんな卑怯な手も使う。どんなに追い詰められても、絶対に、諦めねえ」
六号は、スイッチを押した。
「安全装置、解除……! 1分間の無敵を、今ここで使ってやる!」
六号の体から、赤い光が溢れ出した。
戦闘服が、膨張し、強化されていく。
「なに……!? その力は……!」
魔術師が、初めて、動揺した。
六号は、地面を蹴った。
「うおおおおおお!!」
六号の体が、消えた。
いや、速すぎて、見えない。
「どこだ……!?」
「ここだ!」
六号の拳が、魔術師の顔面に、突き刺さった。
ドゴォォォォン!!!
魔術師の体が、吹き飛んだ。
「ぐああああっ!?」
魔術師は、校舎の壁に叩きつけられた。
「まだまだ! これで終わりじゃねえぞ!」
六号は、魔術師に追い打ちをかけた。
拳、蹴り、頭突き。
六号の攻撃が、魔術師を、一方的に打ちのめす。
「ば、馬鹿な……この私が……!」
魔術師は、反撃しようと手をかざす。
「させるか!」
六号は、魔術師の腕を、へし折った。
バキッ!!
「ぎゃああああ!?」
魔術師の悲鳴が、校庭に響いた。
「どうした! さっきまでの威勢はどうした! 俺の魔導石を返せだの、八つ裂きにしろだの、ずいぶんと偉そうだったじゃねえか!」
六号は、魔術師の胸ぐらを掴み、何度も何度も、顔面に拳を叩き込んだ。
「お前が! アリスに! 何をしたか! 分かってんのか!」
「お前が! スノウを! 檻に閉じ込めた! その罪は! 重いんだよ!」
六号の拳が、魔術師の顔面を、肉塊に変えていく。
「や、やめ……たすけて……」
魔術師は、涙を流して、命乞いをした。
「ざまあみろ。お前が、今まで、どれだけの人間を、苦しめてきたと思ってる」
六号は、魔術師の体を、地面に叩きつけた。
ドゴッ!!
魔術師は、動かなくなった。
結界が、消えていく。
紫色の膜が、空から、剥がれ落ちていく。
「結界が……解けた……?」
スノウの檻も、消えていた。
「アリス!」
六号は、アリスに駆け寄った。
アリスは、地面に座り込んでいた。
「……大丈夫よ。魔術師が倒れたから、干渉も消えた。動力炉も、安定してきたわ」
アリスの体から、熱が引いていく。
六号は、安堵の息を吐いた。
「よかった……本当に、よかった……」
六号は、その場に、へたり込んだ。
「あんた、リミッター解除したのね。後で、3分間のクールタイムが来るわよ」
「ああ……分かってる。その前に、安全な場所に……」
六号の言葉が、途切れた。
全身から、力が抜けていく。
「やば……来た……」
六号は、倒れた。
「六号!」
アリスが、六号を支えようとした。
だが、六号の体は、重く、動かなかった。
「大丈夫よ。私が、側にいるわ」
アリスは、六号の頭を、そっと、膝の上に乗せた。
「……あんた、やっぱり、バカね。でも、ありがとう。私を、助けてくれて」
アリスは、六号の髪を、優しく撫でた。
六号は、意識が遠のきながらも、アリスの手の温もりを、感じていた。
(ああ……悪行ポイントは、稼げなかったけど……)
(まあ、これはこれで……悪くねえ……)
六号の意識は、そこで、途切れた。
―――
空は、まだ、薄紫色だった。
だが、さっきまでの、不気味な閉塞感は、消えていた。
風が、校庭を吹き抜けていく。
「……あなたたち、本当に、何者なの?」
スノウは、六号とアリスのそばに立ち、小さく呟いた。
「さあ、秘密よ。でも、今は、この学園の平和を守る、ただの学生よ」
アリスは、スノウを見上げて、そう言った。
「……そう。まあ、いいわ。今回の手柄は、私のものにさせてもらうわよ。風紀委員長として、学園の危機を救った、ってね」
スノウは、にっこりと笑った。
「相変わらず、食えない女ね」
「お互い様よ」
二人は、静かに、笑い合った。
校舎からは、生徒たちの歓声が聞こえてくる。
「やった! 助かった!」
「あの魔術師、やっつけたんだ!」
「すごい! 風紀委員長たち、かっこいい!」
スノウは、生徒たちの歓声を背に、水色の髪を、風になびかせた。
「この学園を仕切れば、私の将来も安泰よ。だから、私は、この学園を、誰にも壊させないわ」
スノウの水色の瞳が、夕日に照らされて、きらりと光った。
アリスは、六号の寝顔を見つめながら、小さく呟いた。
「……あんたも、もう少し、私の気持ちに、気づきなさいよ」
アリスの頬が、ほんの少し、赤く染まった。
夕日が、学園を、オレンジ色に染めていく。
静かな夜が、すぐそこまで、来ていた。Noveliaとは?
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