亜空のゆるゆる大作戦〜黄門様と従者たちの商会繁盛記〜
女神に「不細工」の一言で勇者をクビになり、荒野にポイされた男・深澄真。彼が手にしたのは、腹の中に広がる異世界「亜空」と、ドワーフたちが作る魔法の絆創膏だった——ただし、魔力をじわじわ吸い取る欠陥品つき。商売人「クズノハ・ライドウ」として再出発を誓う真のもとに、時代劇オタクの竜娘・巴、料理上手の澪、冷静な不死の魔術師・識、外出禁止のオッドアイ少女・環が集まり、にぎやかな商会が開店。だがその夜、届いたのは女神からの脅迫状だった。「虫の分際で、生意気よ。お前の大事なもの、全部壊してあげる」——笑って商売、時に真面目に、果たして成り上がれるのか。異世界ゆるゆる商会コメディ、開店!
亜空のゆるゆる大作戦〜黄門様と従者たちの商会繁盛記〜 - 絆創膏、破裂——黄門様、窮地に立つ
朝の蜃気楼広場は、いつもより少しだけ静かだった。
空は高く、雲が薄く流れている。遠くでカモメの声が聞こえた。潮の匂いが、街の真ん中まで届いている。
深澄真は露店の台の前に立ち、白い布に包まれた小さな箱を眺めていた。
中には、亜空のドワーフたちが作った魔法の絆創膏が入っている。
昨日、冒険者のトアがモニターを志願してくれた。その効果は本物だった。傷は一瞬で塞がり、彼女は大喜びだった。
(評判は、少しずつ広がっている)
真は、マスクの位置を直した。黒い布のマスク。素顔を隠すためのものだ。
「黄門様、本日も良い天気でございますな」
銀色の長い髪を後ろで束ねた女が、露店の横から顔を出す。金色の瞳が、朝日に輝いていた。
深澄巴。真の第一の従者で、正体は「無敵」の二つ名を持つ上位竜だ。
腰には日本刀。時代劇の格さんを気取った、困った竜でもある。
「ああ。商売日和だな」
真は、短く答えた。
「左様! この巴、今日も気合を入れて客引きに励みまする!」
巴は、すっくと立ち上がり、刀の柄に手を置いた。
「頼む。……ただし、あまり大げさにやるなよ。昨日、衛兵に睨まれた」
「はっはっは! 衛兵ごときが何でございましょう。黄門様の商売を邪魔するなら、この巴が成敗いたしまする!」
「だから、そういうのをやめろ」
真は、深くため息をついた。
巴の大げさな物言いには、いつも呆れさせられる。
だが、巴の忠誠心だけは、本物だ。
この竜は、真のために、命を懸けることを惜しまない。
(……ありがたい)
心の中で、そう呟く。
「おーい、クズノハの旦那!」
人混みの中から、元気な声が飛んできた。
焦げ茶色の短い髪に、勝ち気そうな吊り目。軽装の革鎧を身につけ、腰には短剣を差している。
冒険者のトアだ。
「トア。今日も来たのか」
真は、事務的な口調で言った。
「当たり前だろ! あんたの絆創膏、すっごく調子いいんだよ。昨日、ちょっと深く切っちまった傷も、一晩で跡形もなくなった!」
トアは、嬉しそうに自分の腕を差し出した。
そこには、昨日まで深い傷があったはずの場所に、きれいな肌が戻っている。
「……そうか。良かった」
真の口調は、相変わらず淡々としていた。
だが、その瞳の奥に、ほんの少しだけ、安堵の色が浮かんだ。
(商品に、問題はない。今のところは)
「なあ、旦那。追加で何枚か分けてもらえないか? あたしの妹、リノンって言うんだけど、そいつもよく転んで怪我するから、持たせてやりたくて」
トアは、少し照れくさそうに頭をかいた。
「妹がいるのか」
「ああ。あたしと違って、おっとりしてるっていうか……まあ、要するに、どんくさいんだよ」
トアの口調は軽いが、その表情は、妹を思う優しさで満ちていた。
「……いいだろう。何枚必要だ」
「マジで!? じゃあ、三枚頼む!」
トアは、銀貨を九枚、台の上に置いた。
真は、白い布から、絆創膏を三枚取り出して、トアに手渡す。
「ありがとう、旦那! リノンもきっと喜ぶよ!」
トアは、絆創膏を大事そうに胸に抱えて、笑顔で去っていった。
その背中を見送りながら、真は、静かに目を細めた。
(これが、最後の安全な使用になるとは、思わなかった)
「黄門様、良いお客様でございましたな」
巴が、真の隣に並んで、にこにこと笑った。
「ああ。……巴、今日は少し早めに店じまいにするかもしれない。何か、嫌な予感がする」
真は、広場の向こうを見つめたまま、静かに言った。
「……御意。この巴、何があっても黄門様をお守りいたしまする」
巴の金色の瞳が、真剣な色に変わった。
その時だった。
「お姉ちゃん! お姉ちゃん!」
甲高い、泣き叫ぶような声が、広場に響き渡った。
真と巴は、同時に声のした方を見た。
人混みをかき分けて、一人の少女が走ってくる。
年の頃は、十歳前後。焦げ茶色の髪を、二つに結んでいる。
涙でぐしゃぐしゃになった顔で、真の露店に駆け込んできた。
「あんたが、クズノハの店主!?」
少女は、真をまっすぐ見上げた。
「そうだ。君は……」
「あたし、リノン! トアの妹! お姉ちゃんが、お姉ちゃんが……!」
リノンは、息を切らしながら、言葉を続けた。
「お姉ちゃんが、倒れたの! 朝から体がだるいって言ってて、それで、路上で急に……! あんたの絆創膏のせいだ! お姉ちゃんを返して!」
リノンは、真の胸に、小さな拳を叩きつけた。
「……落ち着け。トアは今、どこにいる」
真は、リノンの肩を、静かに押さえた。
その声は、驚くほど冷静だった。
だが、真の胸の内では、嫌な予感が、急速に膨らんでいた。
(絆創膏のせい……? まさか、あの欠陥が……)
「宿屋の『眠れる獅子』に……! お姉ちゃん、全然起きなくて……!」
リノンは、真の服を握りしめたまま、泣きじゃくった。
「巴、店を頼む。俺はトアの様子を見てくる」
真は、巴に短く告げた。
「黄門様、この巴もご一緒に」
「いや、お前は店に残れ。何かあれば、俺を呼べ」
真は、有無を言わせない口調で言った。
「……御意」
巴は、悔しそうに、しかし素直に頷いた。
真は、リノンの手を引いて、駆け出した。
宿屋「眠れる獅子」は、広場から東へ少し行った場所にある。
古びた木造の建物で、冒険者たちがよく利用する宿だ。
真は、リノンに案内され、二階の一室に入った。
薄暗い部屋の中。
ベッドの上に、トアが横たわっていた。
顔は青白く、額には脂汗が浮かんでいる。
呼吸は浅く、時折、苦しそうに眉をひそめる。
「トア!」
真は、ベッドの横に駆け寄り、トアの手を取った。
その手は、氷のように冷たかった。
「……魔力が、吸い取られている」
真は、トアの状態を探り、静かに呟いた。
トアの体内から、魔力が、少しずつ、しかし確実に、失われていっている。
まるで、何かに、吸い尽くされているかのように。
「やっぱり、あんたの絆創膏のせいじゃないか! お姉ちゃん、昨日まで元気だったのに! あんたが、あんたが……!」
リノンは、真の背中に、何度も拳を叩きつけた。
「……違う。絆創膏が、トアの魔力を吸っているんだ」
真は、リノンの拳を受け止めながら、静かに言った。
「え……?」
リノンは、涙で濡れた顔を上げた。
「俺の商品に、欠陥があった。……すまない。必ず、トアを助ける」
真は、リノンの目を、まっすぐ見つめた。
深い茶色の瞳。
そこには、冷たい光ではなく、強い決意が宿っていた。
「……本当に? お姉ちゃん、助かるの?」
リノンは、震える声で尋ねた。
「ああ。必ず」
真は、力強く頷いた。
(俺の商品のせいで、誰かが傷つくのは、絶対に許さない)
真は、立ち上がった。
「リノン、ここでトアを見ていてくれ。俺は、原因を調べてくる」
「……うん」
リノンは、こくりと頷き、トアの手を握りしめた。
真は、部屋を出ると、足早に店へと戻った。
店に戻ると、巴が、心配そうな顔で待っていた。
「黄門様、トア殿の様子は……」
「まずい。絆創膏が、トアの魔力を吸い取っている。おそらく、商品に何かが混入した」
真は、台の上に並べられた絆創膏の箱を、じっと見つめた。
「な、なんと……! では、この店の在庫も、全て危険な状態でございますか!?」
巴の顔色が変わった。
「ああ。すぐに、識を呼ぶ。巴、お前は、店の在庫を、人気のない場所に移してくれ」
真は、素早く指示を出した。
「承知いたしました! この巴、火急の事態と心得、早速取り掛かりまする!」
巴は、刀を握りしめ、在庫の木箱を持ち上げた。
真は、目を閉じ、意識を集中する。
(識、来てくれ)
心の中で、第三の従者の名を呼ぶ。
すると、数秒も経たないうちに、真の背後に、一人の男が現れた。
銀白色の長い髪を後ろに流し、青白い光を宿す瞳。肌は透き通るように白く、常に穏やかな微笑みを浮かべている。
深澄識。真の第三の従者で、リッチという不死の魔術師だ。
「お呼びですか、真様」
識は、静かに一礼した。
「識、これを見てくれ。絆創膏に、何か混ざっているはずだ」
真は、絆創膏を一枚、識に手渡した。
「承知しました。少々お待ちを」
識は、絆創膏を手に取り、青白い光を宿す瞳で、じっと観察した。
「……これは」
識の表情が、一瞬で真剣なものに変わった。
「どうした。何か分かったか」
真は、識の顔を覗き込んだ。
「はい。この絆創膏の材料に、極微量ですが、赤いドラウプニルの破片が混入しています。この破片が、使用者の魔力を吸い取っているのです」
識は、静かに、しかし確信を持って言った。
「赤いドラウプニル……あの、魔力を吸い取る結晶か」
真の顔に、緊張が走った。
ドラウプニル。
元は古代の魔力結晶が、魔素を吸収して変異した魔物だ。
その赤い破片は、傷口に入ると、魔力を吸い続ける危険な物質。
真自身も、その指輪を、両手の五本指全てに装備している。
「はい。しかも、この破片は、吸収した魔力を、不安定な形で蓄積しています。もし、この状態で、破片に何らかの衝撃が加われば……」
識は、言葉を切った。
「……爆発する、か」
真は、識の言葉を引き継いだ。
「はい。おそらく、大規模な魔力の奔流が発生するでしょう」
識は、重々しく頷いた。
「くそ……! 巴! 在庫はどこに運んだ!?」
真は、広場の向こうに向かって叫んだ。
その時だった。
ドォォォン!!!
巨大な爆発音が、蜃気楼広場に響き渡った。
真は、反射的に、音のした方を見た。
店の裏手。
巴が在庫を運ぼうとしていた場所から、赤い光が、空に向かって噴き上がっていた。
「巴!」
真は、全速力で駆け出した。
店の裏手に着くと、そこには、信じられない光景が広がっていた。
木箱が、粉々に砕け散っている。
その破片から、赤い光の柱が、何本も立ち上っていた。
光の柱は、うねり、膨れ上がり、周囲の建物を、音を立てて破壊していく。
「黄門様! お下がりください! この巴が、なんとかいたしまする!」
巴は、日本刀を抜き、赤い光の柱に向かって、斬りかかった。
ザンッ!
刀が、光の柱を斬り裂く。
だが、斬り裂かれた光は、すぐにまた、別の場所から噴き出してくる。
「くっ……! 数が多すぎまする!」
巴は、刀を縦横に振るい、光の奔流を、必死に斬り払っていた。
「巴、無理をするな! 俺が、なんとかする!」
真は、両手を前に突き出した。
(魔力体、展開!)
真の体から、濃密な魔力が、一気に溢れ出した。
その魔力は、真の周囲に、半透明の膜を作り出す。
膜は、みるみるうちに広がり、蜃気楼広場全体を、包み込んでいった。
「……真様、無理をなさっては。あの量の魔力を、一人で抑え込むのは……」
識が、真の背後で、心配そうに言った。
「大丈夫だ。……俺の商品のせいで、この街を、これ以上傷つけるわけにはいかない」
真は、歯を食いしばり、魔力体の展開を続けた。
赤い光の柱が、真の魔力体に、何度も激突する。
ガガガガガッ!!!
激しい衝撃音。
真の体が、大きく揺れた。
「真様!」
「黄門様!」
「……まだだ。まだ、抑えられる」
真は、両足を踏ん張り、魔力体を維持した。
額から、汗が流れ落ちる。
(この程度の魔力で、俺が負けるわけにはいかない)
真の体の奥底から、さらに強力な魔力が、溢れ出してくる。
その魔力は、赤い光の奔流を、少しずつ、しかし確実に、押し返していった。
「黄門様……! この巴も、お手伝いいたしまする!」
巴は、真の隣に並び、刀を構えた。
「拙者の霧で、光の勢いを削ぎまする!」
巴が刀を一振りすると、周囲に、白い霧が立ち込めた。
巴の能力。霧と幻を操る、上位竜の力だ。
霧は、赤い光の柱を包み込み、その勢いを、少しずつ弱めていく。
「……助かる、巴」
真は、短く言った。
「黄門様のためなら、この命、惜しくはございませぬ!」
巴は、力強く言い放った。
真と巴、二人の力で、赤い光の奔流は、徐々に、その勢いを失っていった。
そして。
パァンッ!
最後の光の柱が、はじけるように消え去った。
蜃気楼広場に、静寂が戻る。
「……終わった、か」
真は、魔力体を解除し、大きく息をついた。
「黄門様、ご無事でございますか!?」
巴が、真に駆け寄った。
「ああ、大丈夫だ。……だが、店は」
真は、店の方を振り返った。
露店の台は、半分以上が吹き飛んでいた。
看板は、地面に落ち、真っ二つに割れている。
周囲の建物も、壁が崩れ、窓ガラスが割れていた。
「……すまない、巴。お前の働きがあったのに、店を守れなかった」
真は、静かに言った。
「何をおっしゃいますか! 黄門様がご無事なら、それで十分でございます! 店など、また建て直せばよろしいのです!」
巴は、真の肩を、ポンと叩いた。
「……そうだな」
真は、小さく笑った。
「真様、負傷者がいます。私が、手当てをいたしましょう」
識が、真の隣に来て、静かに言った。
「ああ、頼む。俺も、手伝う」
真は、頷き、負傷者のもとへと向かった。
幸い、死者は出なかった。
だが、近くにいた住民数人が、飛び散った破片で、軽い怪我を負っていた。
真は、識と共に、負傷者の手当てを行った。
「……すまない。俺の商品のせいで、こんなことになって」
真は、手当てをしながら、何度も謝った。
「気にするな。お前さんが悪いわけじゃない。あの光の柱、お前さんが抑えてくれたんだろ? ありがとうよ」
怪我をした男は、真の肩を叩いて、笑った。
「……いや、俺の責任だ。すまない」
真は、深く頭を下げた。
(俺は、何をやっているんだ)
(商品の安全性も確認せずに、売ってしまった)
(その結果が、これだ)
真の胸に、重い後悔が、のしかかってきた。
日が沈み、蜃気楼広場に、夜の帳が下りた。
真は、半壊した店の前に、一人、立っていた。
街の明かりが、ぼんやりと、真の影を照らしている。
「……はあ」
真は、深くため息をついた。
その時だった。
「真様」
背後から、鈴を転がすような、美しい声が聞こえた。
真は、振り返った。
そこには、一人の女性が立っていた。
漆黒の長いストレートヘア。艶やかで、絹のように滑らかだ。
深紅の瞳。
その瞳は、真を捉えると、まるで獲物を見つけた蜘蛛のように、妖しく輝いた。
深澄澪。
真の第二の従者で、「災厄の黒蜘蛛」と呼ばれる魔獣だ。
「澪……。お前、どうしてここに」
真は、少し驚いたように言った。
「真様の、お力になりたくて。……私、ずっと、真様のことを、見ていましたわ」
澪は、真の前に、ゆっくりと歩み寄った。
そして、真の目の前で、静かに、片膝をついた。
「真様」
澪は、真を見上げ、そっと、真の手を取った。
その手は、驚くほど、温かかった。
「私は、嬉しかったんですのよ。真様と一緒に、何かを作れて。……この絆創膏は、真様と、私たち従者の、最初の共同作業でしたわ」
澪の深紅の瞳が、うるりと潤んだ。
「澪……」
「ですから、真様が、あんなに悲しそうなお顔をなさるのは、私、辛いんですの。……真様は、何も悪くありませんわ。悪いのは、あの赤い破片を混入させた、誰かですのよ」
澪は、真の手を、ぎゅっと握りしめた。
「……ああ。分かってる。だが、俺は、商品の責任者だ。どんな理由があっても、俺の責任だ」
真は、静かに言った。
「真様……」
澪は、真の手を、自分の頬に、そっと当てた。
「真様が、そうおっしゃるなら、私、何も言いませんわ。……でも、これだけは、覚えていてくださいませ。私は、いつでも、真様の味方ですのよ。例え、世界中が真様を敵に回しても、私だけは、絶対に、真様の側にいますわ」
澪は、真の目を、まっすぐ見つめた。
その深紅の瞳には、狂おしいほどの、深い愛情が宿っていた。
「……ありがとう、澪」
真は、澪の頭に、そっと手を置いた。
澪は、嬉しそうに、目を細めた。
「黄門様!」
巴が、広場の向こうから、駆けてきた。
「黄門様、大変でございます! 広場の掲示板に、こんな張り紙が!」
巴は、真の前に、一枚の紙を差し出した。
真は、その紙を受け取り、月明かりの下で、内容を確認した。
そこには、乱暴な字で、こう書かれていた。
『クズノハ商会は人を食い物にする悪徳商会。あの絆創膏は、人の魔力を吸い取る呪いの品だ。この街から、今すぐ出て行け』
「……なるほどな」
真は、張り紙を、静かに握りしめた。
「黄門様、これは、何者かの計略でございますな。この巴、必ずや、悪代官の正体を暴いてみせまする!」
巴は、刀の柄に手を置き、怒りに震えていた。
「……ああ。だが、今は、まず、トアの回復が先だ。それと、この街の信用を取り戻すこと。……やることは、山積みだな」
真は、張り紙を、胸ポケットにしまった。
「真様、私にも、何かお手伝いできることはありますか?」
澪が、真の隣に来て、尋ねた。
「……そうだな。澪、お前は、トアの様子を見てきてくれ。もし、容態が急変したら、すぐに知らせてほしい」
真は、澪に言った。
「承知いたしましたわ。真様のご命令なら、どこへでも参りますのよ」
澪は、嬉しそうに笑い、音もなく、夜の闇に消えていった。
「……さて」
真は、空を見上げた。
星が、ぽつりぽつりと瞬いている。
(俺は、この街で、商売を始めた)
(まだ、始まったばかりだ)
(この程度のことで、諦めてたまるか)
真の瞳に、強い光が宿った。
「巴、明日から、また、立て直すぞ。……俺は、この街で、クズノハ商会を、必ず、大きくしてみせる」
真は、静かに、しかし力強く言った。
「御意! この巴、黄門様と共に、どこまでもお供いたしまする!」
巴は、真の前に片膝をつき、深く頭を下げた。
夜風が、二人の間を、静かに吹き抜けていった。
その風は、まだ、ほんの少し、焦げた匂いを運んでいた。Noveliaとは?
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