亜空のゆるゆる大作戦〜黄門様と従者たちの商会繁盛記〜
女神に「不細工」の一言で勇者をクビになり、荒野にポイされた男・深澄真。彼が手にしたのは、腹の中に広がる異世界「亜空」と、ドワーフたちが作る魔法の絆創膏だった——ただし、魔力をじわじわ吸い取る欠陥品つき。商売人「クズノハ・ライドウ」として再出発を誓う真のもとに、時代劇オタクの竜娘・巴、料理上手の澪、冷静な不死の魔術師・識、外出禁止のオッドアイ少女・環が集まり、にぎやかな商会が開店。だがその夜、届いたのは女神からの脅迫状だった。「虫の分際で、生意気よ。お前の大事なもの、全部壊してあげる」——笑って商売、時に真面目に、果たして成り上がれるのか。異世界ゆるゆる商会コメディ、開店!
亜空のゆるゆる大作戦〜黄門様と従者たちの商会繁盛記〜 - 黄門様、広場へ還る——環の力と使徒の影
亜空の工房に、金属を打つ音が響いていた。
カンカンカン、という規則的な音。炉の火が赤々と燃えて、空気が熱い。肺に入る息が、喉の奥で乾く。
深澄真は、工房の入り口に立っていた。黒い布のマスク。深い茶色の瞳。短めの黒髪が、熱風に揺れる。
「若様」
銀白色の長い髪を後ろに流した男が、真の前に歩み出る。青白い光を宿す瞳。透き通るように白い肌。第三の従者、深澄識だ。リッチとしての膨大な知識を持つ、真の相談役である。
識の手には、小さな箱があった。
「赤いドラウプニルの破片を、完全に除去しました」
識は、穏やかな微笑みを浮かべた。
「この新配合の絆創膏は、魔力を吸収しません。何度、試しても、結果は同じでした」
真は、箱を受け取った。
中には、白い絆創膏が、きちんと並んでいる。
「……そうか」
真の声は、静かだった。
「識。もう一度、安全性の最終確認を頼む。前回の失敗は、二度と繰り返せない」
「承知しています。若様。この絆創膏には、もう、危険な要素はありません。私が、リッチとしての知識の全てを懸けて、保証します」
識の声は、静かで、力強かった。
真は、箱を閉じた。
「あの……」
か細い声がした。
水色のゆるふわなロングヘア。先端が淡いピンクに染まっている。左右で色が違うオッドアイ。第四の従者、環だ。
環は、おずおずと、真の前に立った。
「私も、お手伝いできますか?」
環の声は、小さく、震えていた。
「環」
真は、環の顔を見た。
「お前は、亜空の外に出ることを禁じられている」
「はい。でも、ここで、何かお手伝いできることがあれば」
環のオッドアイが、真をまっすぐ見つめている。
真は、少し驚いた。環が、こんなに強く意思を示すのは、珍しい。
「……わかった。何かあれば、頼む」
真は、静かに頷いた。
環は、嬉しそうに、小さく微笑んだ。
「ありがとうございます。真様」
その笑顔は、儚くて、どこか現実離れしていた。
真は、環から視線を外し、工房の奥を見た。
ドワーフたちが、汗を流しながら、絆創膏を量産している。身長百二十センチほどの、手先が器用な種族だ。
「巴と澪を呼べ。ツィーゲの街へ行く」
真は、静かに言った。
「御意」
識は、深く一礼した。
---
ツィーゲの街は、以前と変わらず、活気に満ちていた。
蜃気楼広場には、たくさんの露店が並び、商人たちの威勢のいい声が飛び交っている。潮の匂いが、街の真ん中まで届いていた。
しかし、広場の中央には、人だかりができていた。
真は、巴と澪を連れて、その人だかりに近づいた。
巴は、銀色の長い髪を後ろで束ね、腰に日本刀を差している。金色の瞳が、鋭く光っていた。
澪は、漆黒の長いストレートヘアを揺らし、真の後ろを三歩下がってついてくる。深紅の瞳が、冷たく人だかりを見つめていた。
「黄門様、あれを」
巴が、人だかりの中心を指さした。
白いローブを着た男たちが、三人。台の上に立ち、大声で何かを叫んでいる。
「聞け、ツィーゲの民よ!」
一人の男が、両手を広げた。
「クズノハ商会の商品は、女神の怒りに触れた! あの絆創膏は、呪われた品だ!」
真の足が、止まった。
「あの絆創膏を使った者は、女神の加護を失う! 魔力を吸い取られ、やがては死に至るのだ!」
住民たちが、ざわめいた。
「本当なのか?」
「クズノハ商会は、やっぱり悪徳商会だったんだ」
「あの爆発事故の後、店をたたんだはずだろ?」
不安そうな声が、あちこちから上がる。
「皆の者、落ち着け! 女神は、我々を見捨ててはおられぬ! この使徒たる我々が、呪われた品を浄化してやろう!」
男は、白いローブの胸元から、光る杖を取り出した。
「あれは、浄化教会の使徒か」
真は、静かに呟いた。
浄化教会。女神アウレリアを信仰する宗教組織だ。
「黄門様、あの者ども、好き勝手なことを申しておりますぞ」
巴の声が、低くなる。
「ああ。だが、ここで騒いでも仕方ない。行くぞ」
真は、人だかりの中へ、歩みを進めた。
「真様、お気をつけて」
澪が、真の袖を、そっと掴んだ。
「大丈夫だ。お前たちがいる」
真は、振り返らずに言った。
人だかりをかき分けて、真は、広場の中央へ歩み出た。
使徒たちの演説が、ぴたりと止んだ。
「お前が、クズノハ商会の店主か」
使徒の一人が、真をにらみつけた。
「そうだ」
真は、静かに答えた。
「今日は、この商品の安全性を証明しに来た」
真は、識から受け取った箱を掲げた。
「改良した、新しい絆創膏だ。もう、魔力を吸収することはない」
「はっ! そんなもの、信じる価値もない!」
使徒は、嘲笑った。
「お前の店の商品で、人が倒れたのは事実だ! 呪われた品に違いない!」
「試してから、言ってください」
真は、静かに言った。
そして、懐から小刀を取り出した。
「おい、何をする気だ!」
使徒の一人が、身構えた。
真は、自分の左腕の袖をまくり上げた。
そして、小刀で、自分の腕を切った。
ザシュッ。
鋭い痛み。赤い血が、腕から流れ落ちる。
「黄門様!」
巴が、悲鳴のような声を上げた。
「真様、何を!」
澪の顔が、青ざめる。
「大丈夫だ。見ていろ」
真は、箱から絆創膏を一枚取り出し、傷口に貼った。
瞬間。
傷が、塞がっていく。
みるみるうちに、赤い血が止まり、皮膚が再生していく。
数秒後。
そこには、傷跡すら残っていなかった。
「……なっ」
使徒の顔から、余裕が消えた。
住民たちが、どよめいた。
「傷が、消えたぞ!」
「すごい! 本当に治った!」
「しかも、あの店主、平然としてる!」
真は、腕を掲げた。
「見ての通りだ。この絆創膏は、傷を治す。そして、魔力を吸収しない。安全性は、私が保証する」
真の声は、広場に響き渡った。
「ふざけるな! インチキだ!」
使徒は、顔を真っ赤にして叫んだ。
「そんな魔法、この世にあるものか! お前は、悪魔の力を使っているんだ!」
使徒は、光る杖を、真に向けた。
「女神の名において、浄化してくれる!」
杖の先端が、まばゆい光を放った。
「危ない!」
住民の一人が、悲鳴を上げた。
光が、真に向かって、一直線に飛んでくる。
その時。
「真様を守ります!」
水色の髪が、風に舞った。
環が、真の前に、飛び出した。
「環!?」
真の目が、見開かれた。
環は、両手を前に突き出した。
その手のひらから、淡い光が溢れ出る。
使徒の放った光が、環の光に触れた瞬間。
かき消された。
音もなく、光が、消えた。
「な、なんだと!?」
使徒が、後ずさった。
「お前、何者だ!」
環は、ゆっくりと手を下ろした。
「私は、真様の従者です。真様を傷つける者は、誰であろうと、許しません」
環の声は、静かだった。
だが、そのオッドアイには、強い光が宿っていた。
「環……お前」
真は、環の背中を見つめた。
亜空の外に出ることを禁じられていた環が、ここにいる。
しかも、使徒の光魔法を、かき消した。
(環に、こんな力が……?)
真の胸の奥で、何かがざわついた。
「悪代官、ここまででござる!」
巴が、刀を抜いた。
銀色の刃が、陽光を弾く。
「黄門様に手を出すとは、いい度胸でござるな。この巴、成敗いたす!」
巴の金色の瞳が、鋭く光った。
「真様に手を出すなら、空間ごと喰らいますよ」
澪が、真の隣に並んだ。
深紅の瞳が、使徒たちを冷たく見据えている。
「ひっ……」
使徒の一人が、短い悲鳴を上げた。
「く、くそっ! 覚えていろ! 女神は、お前たちを見捨てない! いずれ、天罰が下る!」
使徒は、捨て台詞を残すと、仲間を連れて、逃げ去っていった。
白いローブが、人混みに消えていく。
広場に、静寂が訪れた。
真は、ゆっくりと、住民たちに向き直った。
そして、深く、頭を下げた。
「……もう一度、信じてください」
真の声は、震えていた。
「前回は、私の管理不足で、皆さんに迷惑をかけた。本当に、申し訳なかった」
真は、頭を下げ続けた。
「この絆創膏は、絶対に安全だ。私は、この街で、もう一度、商売をさせてほしい」
広場は、静まり返っていた。
誰も、何も言わない。
「私、もう一度、モニターになります!」
元気な声が、響いた。
焦げ茶色の短い髪に、勝ち気そうな吊り目。軽装の革鎧を身につけた、冒険者のトアだ。
「あの絆創膏、本当にすごいんだ! あたしの傷、跡形もなく治ったんだよ! 今度は、あたしの妹にも使わせてあげたい!」
トアは、真の隣に駆け寄ってきた。
「私も!」
トアの妹、リノンも、小さな手を挙げた。
「お姉ちゃんの魔力、まだ戻ってないけど……でも、あの絆創膏が、きっと何とかしてくれる! あたし、信じる!」
リノンの目は、涙で潤んでいたが、その声は、力強かった。
「……トア、リノン」
真は、二人の顔を見た。
「ありがとう」
真の声は、小さく、掠れていた。
すると、一人の住民が、拍手を始めた。
パチパチパチ。
その拍手が、二人、三人と、広がっていく。
やがて、広場全体が、大きな拍手に包まれた。
「クズノハ商会、頑張れよ!」
「今度こそ、信じてるぞ!」
「あんたの絆創膏、また使わせてくれ!」
住民たちの声が、真に降り注ぐ。
真は、マスクの下で、小さく息をついた。
(……よかった)
胸の奥で、何かが、ゆっくりと解けていく。
「黄門様」
巴が、真の耳元に、そっと囁いた。
「使徒の背後には、悪代官……いや、女神の影が、ちらついておりますぞ」
真は、顔を上げた。
使徒たちが逃げ去った方角を、じっと見つめる。
「……ああ。わかっている」
真の瞳が、冷たく光った。
「女神は、俺の大切なものを、全部壊すと言った。その言葉は、本気だ」
真は、拳を握りしめた。
「だが、俺も、負けるつもりはない。この街で、必ず、クズノハ商会を大きくしてみせる。そして、あんたとは、わかり合えないと、はっきりさせてやる」
真の声は、静かだった。
だが、その瞳には、強い決意が宿っていた。
「御意。この巴、黄門様と共に、どこまでもお供いたしまする」
巴は、刀を鞘に納めた。
「私も、真様のためなら、何でもいたしますわ」
澪は、真の腕に、そっと手を添えた。
「真様、私、嬉しいです。真様のお役に立てて」
環は、真の後ろで、小さく微笑んだ。
真は、環を振り返った。
「環。お前、どうして亜空の外に出られたんだ」
「……ごめんなさい。私、真様を守りたくて、気がついたら、ここにいました」
環は、申し訳なさそうに、うつむいた。
「……そうか」
真は、環の頭に、そっと手を置いた。
「助かった。ありがとう」
環は、顔を上げ、嬉しそうに笑った。
その笑顔は、夕日に照らされて、とても綺麗だった。
真は、広場を見渡した。
住民たちが、笑顔で、真たちを見ている。
(まだ、始まったばかりだ)
(これからだ)
真は、夕日が沈む空を見上げた。
空は、赤く染まっていた。
その赤は、まるで、女神の怒りのようでもあり、真の決意のようでもあった。Noveliaとは?
Noveliaは、AIでライトノベルや二次創作を「読んで・数タップで作って・キャラクターと会話できる」プラットフォームです。挿絵つきの新作が毎日届き、無料で始められます。