女体化呪いで婚約者候補が全員男に!? 暗殺貴族ルーグの地獄のラブコメ
トウアハーデ家の次期当主にして、前世が暗殺者の少年ルーグ。彼には幼い頃から共に育ってきた、3歳年上の幼馴染・ディアがいた。魔術の師匠であり、姉のような存在。そんな平穏な日々は、ある朝、突如として終わりを告げる。
「ルーグ……私、私ね、朝起きたら、胸が……胸が平らになっているの」
そう言って現れたディアは、なぜか男の体になっていた。しかも、領内では同じ現象が多発。村の女将が男に、鍛冶屋の親方が女に——領全体を巻き込む性別入れ替わりが発生していたのだ。
そして、謎の手紙にはこう書かれていた。「たまたま起こったことよ。元に戻りたければ、本物の愛の告白をなさいな」差出人は、ルーグをこの世界に転生させたあの女神。つまり、この呪いを解く鍵は「愛の告白」——それも、対象はおそらくルーグただ一人。
元は女だったのに今は男。しかも、そんな婚約者候補たちが、ルーグの心を奪おうと次々と動き出す。極端に恋愛ごとに不器用なルーグは、果たしてこの地獄のラブコメを生き抜けるのか。
笑いと恋の嵐が、今、幕を開ける。
女体化呪いで婚約者候補が全員男に!? 暗殺貴族ルーグの地獄のラブコメ - 雷速のメイド、男になってもスカートを穿く
王都アルヴェインの朝は、いつもよりずっと騒がしかった。
石畳の道を、性別の入れ替わった人々が右往左往している。女物の服を着た男たち、男物の服を着た女たち。誰もが自分の体を確かめるように、お互いの顔を見合わせては、ため息をついていた。
ルーグ・トウアハーデは、そんな通りを一人で歩いていた。黒髪のショートヘア、深い茶色の瞳。身長172センチの、18歳の男の体。右手の甲にはトウアハーデ家の暗殺者紋、左耳には小さな銀のピアス。いつも通りの自分だ。
(……昨日は、結局、何も分からなかった)
昨日、ルーグはディアと共に王立魔術学院アルカディアへ行った。星詠みの羅針盤は反応せず、性別攪乱魔法の記録も見つからなかった。学院内も大混乱で、性別の入れ替わった生徒たちが廊下をうろうろしていた。
そして、学院の教授から聞いた。
この現象は、王都全体、そして王国中に広がっていると。
(勇者エポナまで巻き込まれているらしい)
ルーグは、小さく息をついた。
(……そうか。面倒なことになった)
これは、ルーグの口癖だった。前世の記憶——地球という世界で、組織の暗殺者として生きていた頃の記憶が、いつも冷静さを保つための呪文のように頭の中に浮かぶ。
現状を整理する。
性別の入れ替わり現象。原因不明。女神の手紙には「本物の愛の告白をしなさい」とあった。だが、それが何を意味するのかは、まだ分からない。
(とにかく、今日は屋敷に戻る)
ルーグは、ヴェルミナ男爵領のトウアハーデ家屋敷へ向かうため、王都の北門へと足を向けた。領内の混乱を収める必要がある。それに、屋敷にはタルトがいるはずだ。
タルト。
トウアハーデ家専属メイド兼暗殺助手。ルーグと同い年の18歳。栗色の髪を後ろで一つに束ねて、明るい茶色の瞳でいつもキビキビと動いている。スカートの中に槍と拳銃を携帯している、頼りになる助手だ。
(タルトも、呪いの影響を受けているのだろうか)
ルーグは、足を速めた。
———
ヴェルミナ男爵領に戻ると、領内はやはり大混乱だった。
小麦畑の向こうで、男になった女将さんが叫んでいる。葡萄園のそばでは、女になった鍛冶屋の親方が、自分の腕を見つめて固まっていた。
「ルーグ様! お戻りになられたのですね!」
屋敷の門をくぐると、従僕が駆け寄ってきた。
「ああ。領内の様子はどうだ」
「それが……もう、てんやわんやでして。皆、自分の体が変わってしまって、仕事どころではないというか……」
「そうか。タルトはどこにいる」
「タルトさんは……あの、それが……」
従僕は、言いにくそうに口ごもった。
「何かあったのか」
「いえ、何かあったというか……とにかく、広間の方にいらっしゃいます。見ていただければ、分かるかと……」
ルーグは、首をかしげながら屋敷の中へ入った。
石造りの廊下を歩く。窓から差し込む朝日が、細長く伸びている。
広間の扉を開けた。
「——ご主人様!」
声が聞こえた。
ルーグは、一瞬、自分の目を疑った。
広間の中央に、立っていた人物。
栗色の髪を後ろで一つに束ねている。明るい茶色の瞳。いつものメイド服。白いエプロンに、長いスカート。
だが、おかしい。
身長は、明らかに以前より高い。155センチだったはずの体は、170センチ近くある。肩幅は広く、胸は平らで、喉には喉仏があった。顔の輪郭も、記憶にあるものよりずっと鋭く、男らしい。
「……タルト、なのか」
「はい。ご主人様。私です。タルトです」
タルトは、にこりと笑った。男の体で。
ルーグは、言葉を失った。
(タルトまで……)
ディアと同じだ。タルトも、男の体になっている。
「ご主人様、おかえりなさいませ。王都での調査、お疲れ様でした」
タルトは、いつも通りの敬語で、いつも通りの笑顔で言った。
「……ああ、ただいま。タルト、その体は……」
「はい。呪いの影響で、男の体になってしまいました。ですが、ご主人様。この体なら、むしろお側でお守りしやすくなりました。身体強化の相性も良さそうです」
タルトは、そう言って、自分の腕を軽く曲げてみせた。
「……お前、自分の体が男になったことを、気にしていないのか」
「ご主人様をお守りできるなら、体の形など些細なことです。それに、男の体の方が、力仕事も楽ですから」
タルトは、にこにこと笑っている。
だが、ルーグには分かった。
タルトの拳が、微かに震えている。
(……感情を、押し殺している)
タルトは、呪いで男になったことを、恥じるよりも、ルーグの役に立てることを優先しようとしている。それは、タルトらしい選択だった。
「……そうか。お前がそう言うなら、俺は何も言わない」
「ありがとうございます、ご主人様」
タルトは、深々と頭を下げた。
「それで、ご主人様。本日は、どちらへ?」
「王立魔術学院の大図書館だ。星暦798年の性別攪乱事件の記録を探す」
「星暦798年の……ああ、約30年前に王都で起きたという、性別が一時的に入れ替わった事件ですね」
「知っているのか」
「はい。トウアハーデ家の資料室で、以前、目にしたことがあります。原因不明のまま自然解決したと」
「そうだ。今回の呪いと関係があるかもしれない。調べる価値はある」
「分かりました。私もご一緒させてください。ご主人様のお役に立てるように、精一杯お手伝いします」
タルトは、嬉しそうに言った。
ルーグは、小さく頷いた。
「……ああ。頼む」
———
王都アルヴェインへ戻る馬車の中。
ルーグとタルトは、向かい合って座っていた。
タルトは、男の体になっても、スカートを穿いていた。しかも、いつものように、スカートの中に愛用の槍と拳銃を携帯している。
「……タルト、その服は」
「ご主人様、これは私の戦装束です。男になったからとて、装備の位置を変える理由はありません」
タルトは、真顔で答えた。
「……そうか。だが、その体でスカートを穿いていると、周囲の目が……」
「ご主人様をお守りするためなら、周囲の目など気にしません。それに、スカートの方が、いざという時に武器を取り出しやすいのです」
タルトは、スカートの裾を少しだけ持ち上げて、中に携帯している槍と拳銃をちらりと見せた。
ルーグは、ため息をついた。
(……タルトは、昔からこうだ)
タルトは、貧乏な村の出身で、10歳の頃に口減らしとして村を追い出された。飢え死にしかけたところを、ルーグに救われた。それ以来、タルトはルーグに絶対の忠誠を誓っている。
その忠誠心は、呪いで男になっても、全く揺るがない。
(……ありがたいが、複雑だ)
ルーグは、窓の外を見た。
王都アルヴェインの街並みが、近づいてくる。
———
王立魔術学院アルカディア。
石造りの本館、図書館、実験棟、寮。生徒数約800名。星詠み魔術の最高研究機関。
ルーグとタルトが学院の門をくぐると、すぐに異変に気づいた。
「……何だ、あれ」
学院の廊下に、人だかりができていた。
性別の入れ替わった生徒たちが、何かを指さして、ひそひそと話している。
「ねえ、見てよ、あの人……」
「男の人が、スカート穿いてる……」
「しかも、なんか、スカートの中に物騒なものが……」
生徒たちの視線の先にいたのは、タルトだった。
タルトは、男の体で、メイド服を着て、スカートの中に槍と拳銃を携帯したまま、平然と廊下を歩いていた。
「ご主人様、図書館はどちらでしょうか」
タルトは、周囲の視線を全く気にしていない様子で、ルーグに尋ねた。
「……あっちだ。というか、タルト、やっぱりその格好はまずい」
「何がまずいのでしょうか。ご主人様をお守りするためには、常に戦える状態でいる必要があります」
「いや、そういう問題じゃなくてだな……」
ルーグが言いかけた時だった。
「きゃああああ!?」
女子生徒の悲鳴が上がった。
タルトが歩くたびに、スカートの裾がふわりと揺れて、中の槍と拳銃がちらりと見える。それを見た女子生徒が、悲鳴を上げたのだ。
「な、なにあれ……スカートの中に、槍が……」
「拳銃も見えたぞ……」
「ていうか、あの人、男だよね? なんでメイド服着てるの?」
「呪いの影響で性別が入れ替わったんだろ。でも、なんでスカート穿いてるんだ……」
生徒たちは、ざわざわと騒ぎ始めた。
「タルト、早く行くぞ」
ルーグは、タルトの手を引いて、早足で廊下を進んだ。
「ご主人様、お手を煩わせて申し訳ありません。ですが、私はご主人様の隣を歩けるだけで幸せです」
タルトは、ルーグに手を引かれながら、嬉しそうに言った。
ルーグは、何も言わずに歩き続けた。
(……タルトは、本当に、俺のことを……)
ルーグは、タルトの忠誠心の深さを、改めて感じていた。
———
学院の大図書館。
蔵書2万冊を誇る、石造りの大きな建物。高い天井から、ステンドグラスを通した光が差し込んでいる。本の匂いと、古い紙の匂いが混ざり合って、独特の雰囲気を作っていた。
「ここが、大図書館ですか」
タルトは、目を輝かせて、あたりを見回した。
「ああ。星暦798年の記録は、書庫の奥にあるはずだ」
「分かりました。私が書庫の奥を探してきます。ご主人様は、こちらで記録の目録を確認していてください」
「いや、俺も一緒に探す」
「ご主人様、書庫は埃っぽいですから。私にお任せください」
タルトは、そう言うと、書庫の奥へと入っていった。
ルーグは、図書館の目録台で、星暦798年の記録を探し始めた。
(星暦798年……約30年前か)
ルーグは、前世の記憶を思い出していた。地球という世界で、組織の暗殺者として生きていた頃。どんなに理不尽な依頼でも、どんなに異常な状況でも、まずは現状を把握し、最善手を打つ。それが暗殺者としての鉄則だった。
(今回の呪いも、何かしらの意図があるはずだ)
女神の手紙には「たまたま起こったことよ」と書かれていた。
だが、ルーグは信じていなかった。
(たまたま、で済む規模じゃない)
王国中で性別が入れ替わっている。これは、何者かの計画的な犯行だ。
(……だが、誰が、何のために)
ルーグが考え込んでいると、書庫の奥から、タルトの声が聞こえた。
「ご主人様! 見つけました!」
ルーグは、声のした方へ向かった。
書庫の奥。高い本棚が並ぶ、薄暗い場所。タルトは、埃を被った古い文書を手に持っていた。
「これです。星暦798年、性別攪乱事件の記録です」
タルトは、文書をルーグに差し出した。
ルーグは、文書を受け取り、ページをめくった。
古い紙に、達筆な文字で、当時の記録が綴られていた。
「……原因不明、自然解決。被害者は数名。全員、数週間で元の性別に戻った。……やはり、これだけか」
ルーグは、記録を読み進めた。
すると、記録の最後に、当時の関係者名簿が添付されていた。
ルーグは、その名簿を見て、動きを止めた。
「……これは」
「ご主人様? どうかされましたか」
タルトが、ルーグの顔を覗き込んだ。
ルーグは、名簿の一点を指さした。
そこには、こう書かれていた。
『トウアハーデ家当主』
「ご主人様のご実家が……?」
タルトが、息を呑んだ。
「……ああ。30年前の性別攪乱事件の関係者に、トウアハーデ家の当主がいた」
ルーグの声は、冷静だった。
だが、心の中は、激しく動揺していた。
(トウアハーデ家が、性別攪乱事件に関わっていた……?)
(それは、つまり……今回の呪いにも、俺の家系が関わっている可能性がある、ということか)
ルーグは、文書をじっと見つめた。
「ご主人様……大丈夫ですか」
タルトが、心配そうにルーグの顔を見た。
「……ああ。大丈夫だ」
ルーグは、文書を閉じた。
「タルト、この記録は、借りられるか」
「確認してきます。司書の方に聞いてみますね」
タルトは、書庫を出て、司書の元へ向かった。
ルーグは、一人、書庫の奥に残った。
(トウアハーデ家の祖先が、性別攪乱事件に関わっていた)
(そして、今回の呪い。これは、偶然なのか)
(……いや、偶然のはずがない)
ルーグは、拳を握りしめた。
———
「ご主人様、司書の方に聞いてきました」
タルトが、戻ってきた。
「記録の貸し出しはできませんが、館内での閲覧は可能だそうです。それと、司書の方から、気になる情報を聞きました」
「何だ」
「星詠み評議会が、今回の件で、独自調査を進めているそうです」
「星詠み評議会……星詠み魔術師の互助組織か」
「はい。魔術研究の倫理規定を定めている組織です。性別に関する魔術の無断研究は、倫理規定違反になるはずですから、評議会が動くのは当然かもしれませんが……」
タルトは、少し言いにくそうにした。
「何か、引っかかるのか」
「はい。司書の方の話では、評議会の調査は、学院の調査とは別に、極秘裏に進められているそうです。学院上層部の動きと並行して、別の思惑が動いている、と」
「……なるほど」
ルーグは、顎に手を当てて考えた。
(学院上層部は、呪いを国家的な管理対象として動いている)
(星詠み評議会は、独自に調査を進めている)
(そして、トウアハーデ家は、30年前の事件に関わっていた)
(……事態は、思ったより複雑だ)
「ご主人様、もう一つ、気になる情報があります」
タルトが、声を潜めた。
「学院の掲示板で見たのですが……勇者エポナ様の性別が入れ替わったという噂が、王都中に広がっているそうです。王国中が、大混乱に陥っていると」
「……勇者エポナの噂か」
ルーグは、眉をひそめた。
勇者エポナ。魔王を倒すと予言された、王国の希望。その勇者の性別が入れ替わったとなれば、王国の政治情勢は、さらに不安定になる。
(勇者が呪いに巻き込まれた……これは、まずい)
ルーグは、前世の記憶を思い出した。
女神から依頼された任務。それは「勇者を暗殺する」ことだった。ただし、条件がある。「勇者が魔王を倒すまでは、勇者を暗殺してはならない」。
(今はまだ、勇者を暗殺する時ではない)
(だが、勇者の性別が入れ替わったことで、状況が変わるかもしれない)
ルーグは、複雑な思いで、窓の外を見た。
「ご主人様、ディア様のことが心配です」
タルトが、真剣な表情で言った。
「学院の上層部が動いているのなら、早く手を打たねばなりません。ディア様は、学院の非常勤講師です。性別攪乱の呪いの研究対象として、目をつけられる可能性があります」
「……ああ。俺も、同じことを考えていた」
ルーグは、頷いた。
「タルト、今日はここまでだ。屋敷に戻って、対策を協議しよう」
「はい、ご主人様」
二人は、図書館を出た。
———
夕暮れの王都アルヴェイン。
石畳の道を、ルーグとタルトは並んで歩いていた。
「……タルト、今日はありがとう。お前がいてくれて、助かった」
ルーグは、前を向いたまま言った。
「とんでもないです。ご主人様のお役に立てて、私も嬉しいです」
タルトは、ルーグの隣を歩きながら、にこりと笑った。
「……なあ、タルト。お前は、自分の体が男になったことを、本当に気にしていないのか」
ルーグは、ふと、そう尋ねた。
タルトは、少しだけ歩く速度を落とした。
「……正直に申し上げますと、最初は、とても戸惑いました」
タルトは、静かに言った。
「鏡を見るたびに、これが本当に私なのかと、不安になりました。女の子だった私が、男の体になっている。それは、とても奇妙な感覚でした」
「……そうか」
「でも、ご主人様。私は、ご主人様に拾われた命です。ご主人様がいなければ、私はとっくに飢え死にしていました。だから、私の体が男になろうが女になろうが、ご主人様をお守りできるなら、それでいいのです」
タルトの声は、震えていた。
「ご主人様は、一人で背負い込みすぎです。私も、ディア様も、マーハ様も、ご主人様のそばにいるのですから」
タルトは、ルーグの顔をまっすぐ見て言った。
ルーグは、タルトの真剣な表情に、心を打たれた。
(……タルトは、こんなにも、俺のことを思ってくれている)
(なのに、俺は、家系の秘密を追う危険を、彼女に負わせまいとしていた)
「……タルト、お前の気持ちは、ありがたい。だが、家系の秘密を追うのは危険だ。お前を巻き込みたくない」
ルーグは、正直な気持ちを言った。
「ご主人様。私は、ご主人様に拾われた命です。危険だからと離れる理由にはなりません。むしろ、危険だからこそ、私がご主人様のそばにいるべきです」
タルトは、一歩も引かなかった。
「ご主人様が何と言おうと、私はご主人様のそばを離れません。ご主人様をお守りするのが、私の役目ですから」
タルトの瞳は、真剣そのものだった。
ルーグは、タルトの強い意志に、押された。
「……分かった。お前の協力を、認める」
ルーグは、そう言って、小さく息をついた。
「ありがとうございます、ご主人様」
タルトは、嬉しそうに笑った。
だが、ルーグの心の中には、まだ不安が渦巻いていた。
(自分の家系が、呪いに関わっているかもしれない)
(もし、そうだとしたら……)
ルーグは、夕日に染まる王都の街並みを見つめた。
———
トウアハーデ家屋敷に戻ると、ルーグは、自分の執務室にこもった。
机の上に、一通の手紙が置かれていた。
「……これは」
ルーグは、手紙を手に取った。
差出人は、父キアン。トウアハーデ家当主だ。
だが、手紙の内容は、普通の文章ではなかった。
トウアハーデ家に伝わる、暗号文だった。
ルーグは、暗号を解読した。
「……学院上層部が、ディアを性別攪乱の呪いの主要研究対象として確保しようと動いている」
ルーグは、手紙を握りしめた。
「星詠み評議会の調査と、学院上層部の思惑が絡み合って、事態は複雑化している。ディアを守れ」
(ディアの身に、危険が迫っている——)
ルーグは、立ち上がった。
「……そうか。面倒なことになった」
ルーグは、暗号文を暖炉で燃やした。
炎が、紙を包み込み、灰に変えていく。
「タルト」
ルーグは、部屋の外にいるタルトを呼んだ。
「はい、ご主人様」
タルトが、すぐに姿を見せた。
「ディアの身に、危険が迫っている。学院上層部が、ディアを研究対象として確保しようと動いている」
「……何ですって」
タルトの表情が、引き締まった。
「ご主人様、私にお任せください。ディア様をお守りするのが、私の役目です」
タルトは、力強く言った。
「ああ。頼む。……そして、俺も、ディアを守る」
ルーグは、窓の外を見た。
夜の闇が、トウアハーデ家屋敷を包み込んでいた。
星が、一つ、また一つと、空に輝き始める。
(ディア……)
ルーグは、幼馴染で、魔術の師匠であるディアの顔を思い浮かべた。
銀色の長い髪。藤色の瞳。笑うとえくぼができる、優しい顔。
(絶対に、守る)
ルーグは、心の中で、そう誓った。
だが、その誓いの裏で、別の不安も、静かに燃えていた。
(トウアハーデ家は、30年前の事件に、どう関わっていたのか)
(そして、今回の呪いは……)
ルーグは、暗い夜空を見上げた。
星々は、何も語らず、ただ静かに輝いていた。Noveliaとは?
Noveliaは、AIでライトノベルや二次創作を「読んで・数タップで作って・キャラクターと会話できる」プラットフォームです。挿絵つきの新作が毎日届き、無料で始められます。