はじめの一歩 呪いの性別逆転騒動
『はじめの一歩』の世界に、まさかの性別逆転コメディが登場!
ある朝、目覚めた幕之内一歩は、自分の体が女の子になっていることに気づく。しかも、鴨川ジムの仲間たち——鷹村、青木、木村まで、全員が女体化していた。原因は、ジムの地下室に保管されていた古いトロフィーに込められた「性別逆転の呪い」。イタリアからやってきた呪い研究家・マリエは、その呪いを解くために奔走するが、タイムリミットが迫る中、一歩たちの関係にも少しずつ変化が訪れて……。
ボクシングの熱さはそのままに、女の子になった体での戸惑いや恥ずかしさ、そして仲間たちとの掛け合いが笑いを誘う。元に戻る日は来るのか? そして、一歩と宮田の関係にも思わぬ波紋が——?
性別逆転×呪い×ボクシングの異色コメディ、開幕!
はじめの一歩 呪いの性別逆転騒動 - 女の体でMVPを獲れ!逆転の一手は恋の予感!?
河川敷の風が、長い黒髪を揺らした。
一歩は、古びた廃倉庫の壁に背を預けて、小さく息を吐く。隣には、宮田が立っていた。
「……ここか」
一歩は、こくりと頷いた。
あの夜、ブローカーに呼び出された場所。結界の外へ連れ出されそうになった、あの場所。
トロフィーは、もうここにはない。でも、手がかりは残っているはずだ。
一歩は、ポケットから、筆談用のノートを取り出した。
『中を探そう。何か、残してるかもしれない』
宮田は、ノートを覗き込んで、短く「ああ」と返した。
二人は、錆びついた鉄の扉を、力を合わせて押し開けた。
ギィィ……
湿った空気が、顔に張りつく。
中は薄暗く、床には、ガラスの破片や、古い木材が散乱していた。
一歩は、足元に気をつけながら、奥へと進む。
(ここで、俺は……)
あの夜のことが、頭をよぎる。
ブローカーの、あの不気味な笑み。
結界の外へ、引きずり出されそうになった、あの恐怖。
一歩は、無意識に、自分の肩を、ぎゅっと掴んだ。
「……大丈夫か」
宮田が、一歩の顔を、覗き込む。
一歩は、慌てて、首を振った。
『大丈夫。探そう』
ノートに、そう書いて、宮田に見せる。
宮田は、一歩の顔を、じっと見つめてから、視線を外した。
「……無理はするな」
それだけ言って、宮田は、倉庫の隅へと、歩いていった。
一歩は、ほっと、胸をなでおろす。
(宮田には、心配かけてばかりだ)
一歩は、気を取り直して、床に落ちているものを、拾い上げた。
古い新聞紙。空き缶。折れた木の棒。
どれも、めぼしいものはない。
(一体、どこに……)
その時だった。
「一歩」
宮田の、低い声が、倉庫に響いた。
一歩は、顔を上げる。
宮田は、倉庫の一番奥、壁際に、しゃがみ込んでいた。
一歩は、小走りで、宮田の元へと向かう。
宮田は、床に落ちていた、一枚の紙切れを、指差した。
「……これ、見ろ」
一歩は、宮田の隣に、しゃがみ込んだ。
宮田が、紙切れを、拾い上げる。
それは、何かの、メモの切れ端のようだった。
宮田は、紙切れに書かれた文字を、読み上げる。
「……『JBCチャリティエキシビション、二週間後。女体化検体、リングにて公開。呪い研究家の信用失墜、その後、トロフィーを高値で売却』」
一歩は、目を見開いた。
(JBCチャリティエキシビション……)
日本ボクシングコミッション、通称JBC。プロボクシングの試合を管理する、統括団体だ。
そこで、女体化した俺を、リングに上げる……?
「……女体化検体、って、お前のことか」
一歩は、声が出ない代わりに、きつく、唇を噛んだ。
(俺を、見世物にするつもりか……!)
怒りで、体が、震える。
「……それだけじゃない」
宮田は、紙切れの、裏面を、一歩に見せた。
そこには、地図のようなものが、走り書きされていた。
「……この場所、分かるか。アジトだ。廃工場らしい」
一歩は、地図を、じっと見つめた。
それは、鴨川区の、北の方にある、廃工場地帯を、示していた。
(ここに、トロフィーが……)
一歩は、ノートに、震える手で、文字を書いた。
『行こう。トロフィーを、取り返す』
宮田は、一歩のノートを見た。
それから、一歩の目を、真っ直ぐに見て、言った。
「……ああ。行くぞ」
宮田の声は、静かだった。
でも、その瞳には、強い光が、宿っていた。
ジムに戻ると、久美が、玄関で、待っていた。
「一歩くん!」
久美は、一歩の姿を見つけると、ぱあっと、顔を輝かせて、駆け寄ってきた。
「おかえりなさい。……あ、宮田さんも」
久美は、宮田に、ぺこりと、お辞儀をした。
「……ああ」
宮田は、軽く、会釈を返す。
「ご飯、作ってあるの。お腹、空いたでしょ? 一緒に、食べよう?」
久美は、一歩の手を、取ろうとした。
一歩は、その手を、そっと、避けた。
(今は、それどころじゃない)
一歩は、ノートを取り出した。
『久美さん、ありがとう。でも、今は、話があるんだ』
久美は、ノートを読んで、首をかしげた。
「……お話?」
一歩は、頷いて、ジムの中へと、入っていった。
ジムの中央には、マリエと、鷹村、青木、木村が、集まっていた。
一歩は、皆の前に、宮田と共に、立った。
「おう、一歩。どうした、改まって」
鷹村が、腕を組みながら、一歩を見た。
一歩は、ノートに、見つけたメモの内容を、書き写した。
『ブローカーの狙いが分かった。JBCのチャリティエキシビションで、俺をリングに上げるつもりらしい』
一歩は、ノートを、皆に、見せた。
「な、なにぃ!?」
青木が、素っ頓狂な声を、上げた。
「JBCのチャリティエキシビションって、あの、有名なボクサーが集まるっていう……!?」
木村も、目を丸くしている。
「ええ。……そこで、一歩さんを、見世物にしようとしているのね」
マリエは、顔を青ざめさせた。
「……そして、私の信用を、失墜させる。……そうすれば、呪い研究家としての私の言葉なんて、誰も信じなくなる。……トロフィーを、誰にも邪魔されずに、売り払うために」
マリエは、ぎゅっと、スカートの裾を、握りしめた。
「……許せない」
久美が、震える声で、呟いた。
「一歩くんを、そんな風に、利用するなんて……絶対に、許せない……!」
久美の、大きな瞳から、涙が、こぼれ落ちた。
「……久美さん」
一歩は、声にならない声で、久美の名前を、呼んだ。
「……で、一歩。お前は、どうするつもりだ」
鷹村が、一歩を、じっと見た。
一歩は、ノートに、書いた。
『アジトに、乗り込む。トロフィーを、取り返す』
「……よし。話が早い」
鷹村は、にやりと、笑った。
「俺も、行くぞ」
「私も、行きます」
「俺たちも、行くぜ!」
「もちろん」
皆が、次々と、名乗りを上げる。
「……待って」
久美が、一歩の、袖を、引っ張った。
「私も、行く」
一歩は、驚いて、久美を見た。
『ダメだ。危ない』
一歩は、ノートに、そう書いた。
「危ないのは、一歩くんだって、同じでしょ!?」
久美が、声を、荒げた。
「私、もう、見てるだけは、嫌なの! 一歩くんが、苦しんでるのに、私だけ、安全な場所で、待ってるなんて、できない!」
久美の、涙が、止まらない。
「一歩くんを、守りたいの! 私にだって、何か、できるはず! お願い、連れて行って!」
久美は、一歩の手を、両手で、ぎゅっと、握った。
一歩は、久美の、震える手を、感じた。
(久美さん……)
一歩の、胸が、ぎゅっと、締めつけられる。
(俺は、久美さんに、こんな顔を、させてしまってる)
一歩は、ノートに、書いた。
『分かった。でも、絶対に、無茶はしないって、約束して』
久美は、一歩のノートを、読むと、何度も、頷いた。
「……うん! 約束する!」
久美は、涙を、ぬぐって、笑った。
その夜、久美は、ジムに、泊まり込んだ。
「一歩くん、お布団、ここで、いい?」
久美は、ジムの隅に、布団を、敷いてくれた。
『ありがとう。でも、久美さんは、帰った方が』
一歩は、ノートに、書いた。
「ダメ。一歩くんの、側にいるの」
久美は、首を、横に振った。
「何か、あったら、すぐに、助けられるように」
久美は、一歩の隣に、腰を下ろした。
「……それに」
久美は、一歩の顔を、ちらりと、見た。
「一歩くん、女の子になっちゃってから、すごく、綺麗で……。……あ、違うの! そうじゃなくて!」
久美は、顔を、真っ赤にして、手を、ばたばたと、振った。
一歩は、きょとん、とした。
(久美さん、どうしたんだ?)
「と、とにかく! 私、一歩くんの、側にいるから! 何か、食べたいもの、ある? 今度、作ってくるね!」
久美は、話題を、無理やり、変えた。
一歩は、ノートに、書いた。
『久美さんの、作ってくれた、卵焼きが、食べたい』
「卵焼き! うん、任せて! 明日の朝、作ってくる!」
久美は、嬉しそうに、笑った。
夜が、更けていく。
一歩は、布団に、横になっていた。
隣では、久美が、小さな寝息を、立てている。
(久美さん……)
一歩は、久美の、寝顔を見た。
長い、まつ毛。
柔らかそうな、頬。
(昔から、変わらないな)
一歩は、幼い頃の、久美を、思い出した。
いつも、一歩の、後ろを、ついてきていた。
泣き虫で、甘えん坊で。
でも、一歩が、いじめられていると、必ず、助けに来てくれた。
(今度は、俺が、久美さんを、守らないと)
一歩は、そう、心に、誓った。
その時だった。
「……一歩、くん」
久美が、寝言のように、一歩の名前を、呼んだ。
一歩は、久美の顔を見た。
久美は、まだ、眠っているようだった。
「……好き……」
久美の唇が、小さく、動いた。
一歩は、どきり、とした。
(……え?)
一歩は、自分の耳を、疑った。
(今、久美さん、なんて……?)
一歩の胸が、うるさく、鳴り始める。
(いや、寝言だ。寝言に、違いない)
一歩は、そう、自分に、言い聞かせた。
でも、久美の、その一言が、頭から、離れない。
一歩は、眠れないまま、朝を、迎えた。
翌朝。
ジムには、緊張感が、漂っていた。
「……よし。作戦を、確認するぞ」
鷹村が、皆を、見渡した。
「俺が、正面から、突っ込む。……青木、木村、お前らは、俺の援護だ」
「おう!」
「任せてください!」
「マリエは、呪い感知で、トロフィーの正確な位置を、探れ」
「ええ、分かってるわ」
マリエは、革製のバッグから、振り子を、取り出した。
「宮田は、一歩と一緒に、別ルートから、トロフィーを奪還しろ」
「……了解」
宮田は、静かに、頷いた。
「……久美」
鷹村が、久美を見た。
「はい!」
久美は、背筋を、伸ばした。
「お前は、マリエの護衛だ。……いいな、絶対に、無茶はするなよ」
「……分かってます」
久美は、小さく、頷いた。
「……一歩」
一歩は、鷹村を、見上げた。
「……お前が、一番、無茶をするな。……声が出ない分、周りを、よく見ろ」
一歩は、こくりと、頷いた。
『大丈夫。俺、やるよ』
一歩は、ノートに、そう書いた。
「……よし。行くぞ」
一行は、鴨川区の北にある、廃工場地帯へと、向かった。
廃工場は、高い、金網のフェンスに、囲まれていた。
「……ここね」
マリエが、振り子を、掲げる。
振り子が、ゆらゆらと、揺れ始めた。
「……トロフィーの反応があるわ。……間違いない。……中に、ある」
マリエの声が、震えている。
「……分かった。……行くぞ」
鷹村が、フェンスに手をかけた。
その時だった。
「……待ちな」
工場の入り口から、黒いコートの男が、現れた。
呪いブローカーだ。
「……よく来たな。……お前ら全員、まとめて、相手をしてやる」
ブローカーは、不気味に、笑った。
「……上等だ」
鷹村が、前に出る。
「……青木、木村! 行くぞ!」
「おう!」
「はい!」
三人が、工場の中へと、突入した。
「……私も、行きます!」
久美が、マリエの手を引いて、後に続く。
一歩と、宮田も、その後を追った。
工場の中は、薄暗く、かび臭い匂いが、充満していた。
「……どこだ! 出てこい!」
鷹村が、叫ぶ。
その声が、工場に、こだました。
「……ふふふ。……そんなに、慌てるな」
ブローカーの声が、あちこちから、聞こえてくる。
「……お前らの相手は、こいつらだ」
その瞬間、工場の奥から、数人の男たちが、現れた。
ブローカーの手下だ。
「……邪魔だ」
鷹村が、手下の一人に、殴りかかる。
ドガッ!
手下が、吹っ飛んだ。
「……さすが、元世界王者」
ブローカーが、拍手をした。
「……だが、それも、ここまでだ」
ブローカーが、懐から、何かを、取り出した。
それは、黒い粉の入った、小袋だった。
「……これは、呪い媒介粉。……浴びれば、体の自由が、利かなくなる」
ブローカーは、小袋を、鷹村に、投げつけた。
「……くっ!」
鷹村は、とっさに、腕で、顔をかばった。
だが、粉は、鷹村の全身に、降りかかった。
「……な、に……?」
鷹村の体が、突然、ぐらりと、傾いた。
「……体が、痺れ……る……」
鷹村は、その場に、膝をついた。
「……た、鷹村さん!」
青木が、叫んだ。
「……ふふ。……呪い媒介粉は、呪いの力に反応する。……お前らは皆、呪いにかかっているからな。……特に、お前は、強く反応するようだ」
ブローカーは、鷹村を、見下ろした。
「……くそ……!」
鷹村は、立ち上がろうと、もがく。
だが、体が、言うことを聞かない。
「……さて、邪魔者は片付いた」
ブローカーは、一歩の方を、向いた。
「……お前には、特別な舞台を、用意してある。……JBCのチャリティエキシビション。……女体化した、元プロボクサーの公開……。……世間は、面白がるだろうな」
ブローカーは、一歩に、近づいてくる。
一歩は、後ずさりした。
「……一歩!」
宮田が、一歩の前に、立ちはだかった。
「……お前は、下がってろ」
宮田は、ブローカーを、鋭く、睨んだ。
「……ほう。……お前が、あの時の」
ブローカーは、宮田を、値踏みするように見た。
「……だが、お前も、呪いの影響下にある。……無駄だ」
ブローカーが、もう一つの小袋を、取り出した。
「……させるか」
宮田が、ブローカーに、飛びかかる。
「……遅い」
ブローカーは、ひらりと、身をかわした。
そして、小袋を、宮田に、投げつける。
「……くっ!」
宮田も、粉を、浴びてしまった。
「……ぐ……!」
宮田が、その場に、崩れ落ちる。
「……宮田さん!」
久美が、悲鳴を上げた。
「……これで、終わりだ」
ブローカーが、一歩に、手を伸ばした。
その時だった。
「……きゃああああ!」
青木が、突然、女の子のような悲鳴を、上げた。
「……な、なに!?」
ブローカーが、驚いて、青木の方を、見た。
「……や、やめて! 乱暴しないで!」
木村も、甲高い声で、叫んだ。
「……お前ら、何を、やって……」
ブローカーが、手下たちに、指示を出そうとした。
「……今だ!」
青木が、叫んだ。
「……え?」
一歩は、その隙を、見逃さなかった。
(今だ!)
一歩は、低い姿勢から、一気に、飛び出した。
女の体の軽さを、活かして。
「……なに!?」
ブローカーが、一歩の動きに、反応する。
だが、一歩の動きは、変則的だった。
右に、左に、小さく、ステップを刻む。
ブローカーの視界から、消えるように。
「……小賢しい!」
ブローカーが、一歩を、掴もうと、手を伸ばす。
その手を、宮田が、阻んだ。
「……させるか」
宮田は、痺れる体で、それでも、ブローカーの腕を、封じた。
「……お前……!」
ブローカーが、宮田を、振り払おうとする。
その一瞬の隙に。
一歩は、ブローカーの脇を、すり抜けた。
(トロフィーは……!)
一歩は、マリエの方を、見た。
マリエは、振り子を掲げて、叫んだ。
「……一歩さん! あっち! あの、台座の上!」
一歩は、マリエの指差す方へ、走った。
工場の一番奥。
古い台座の上に、トロフィーが、置かれていた。
「……させない!」
ブローカーが、一歩の後を、追う。
だが、青木と、木村が、ブローカーの足に、しがみついた。
「……離せ!」
「……離すか!」
「……絶対に、離さない!」
一歩は、トロフィーに、手を伸ばした。
指先が、冷たい、ブロンズの表面に、触れる。
その瞬間だった。
ズキン!
激しい頭痛が、一歩を、襲った。
「……う、あ……!」
声にならない声が、漏れる。
視界が、真っ白に、染まった。
——そこは、ボクシングのリングの上だった。
歓声。
熱気。
男が一人、リングの中央で、拳を突き上げている。
(……勝った……!)
男の顔は、喜びに満ちていた。
場面が、変わる。
——病室。
白いベッドの上に、痩せ細った女が、横たわっている。
男は、女の手を、握っていた。
「……お願いだ。……目を、開けてくれ」
男の声は、震えていた。
「……私の愛しい人。……どうか、私を、一人に、しないでくれ」
女は、ゆっくりと、目を、開けた。
「……あなた……」
女の声は、か細く、消え入りそうだった。
「……私は、もう、長くは……」
「……そんなことを、言うな! ……お前は、必ず、良くなる! ……そして、また、二人で……」
「……ありがとう。……あなたと、過ごせて、幸せだった」
女は、微笑んだ。
「……だから、どうか、悲しまないで。……あなたは、強い人。……リングの上で、輝き続けて」
女の手から、力が、抜けていく。
「……おい、待ってくれ! ……頼む! ……目を、開けてくれ! ……お前がいないと、俺は……!」
男の、慟哭が、病室に、響き渡った。
——一歩は、トロフィーを、握りしめたまま、涙を、流していた。
(……この人は、愛する人を、失ったんだ)
(……その悲しみを、このトロフィーに、閉じ込めたんだ)
一歩の胸が、張り裂けそうに、痛む。
(……分かるよ。……俺にも、その気持ち、分かる)
一歩は、トロフィーを、胸に、抱きしめた。
(……あなたの悲しみは、俺が、受け止めるから)
一歩は、心の中で、そう、語りかけた。
その時だった。
トロフィーが、ぼうっと、光を放ち始めた。
「……な、なに!?」
ブローカーが、目を、見開いた。
「……トロフィーが、光って……!?」
マリエも、驚きの声を、上げた。
「……くそ! ……こうなれば、呪いを、暴走させて……!」
ブローカーが、最後の抵抗を、試みる。
だが、トロフィーの光は、強くなるばかりだった。
「……う、あああああ!?」
ブローカーが、光に、押し返される。
「……ぐ……! ……覚えてろ……!」
ブローカーは、手下たちと共に、工場から、逃げ出した。
光が、静かに、収まっていく。
一歩は、トロフィーを、抱きしめたまま、立ち尽くしていた。
「……一歩」
宮田が、一歩の肩に、手を、置いた。
一歩は、顔を、上げた。
涙で、ぐしゃぐしゃの、顔だった。
一歩は、ノートに、書いた。
『ありがとう。お前の、おかげだ』
宮田は、ノートを見て、小さく、笑った。
「……お前が、強かったからだ」
宮田は、一歩の頭を、ぽんと、叩いた。
「一歩くん!」
久美が、一歩に、駆け寄ってきた。
「……よかった……! 本当に、よかった……!」
久美は、一歩に、抱きついた。
「……一歩くん……! 一歩くん……!」
久美は、一歩の体を、ぎゅっと、抱きしめた。
一歩は、久美の温もりを、感じた。
(……ああ、安心した)
一歩は、久美の背中に、そっと、手を回した。
その時だった。
「……あっ」
久美が、小さく、声を上げた。
久美は、一歩の、女の子の体を、強く、意識してしまったのだ。
「……ご、ごめんなさい!」
久美は、顔を、真っ赤にして、一歩から、飛び退いた。
一歩は、きょとん、とした。
(……久美さん?)
「……な、なんでもない! ……本当に、なんでも、ないの!」
久美は、両手で、顔を、覆った。
「……一歩さん」
マリエが、一歩の前に、立った。
「……トロフィーを、見せてくれる?」
一歩は、こくりと、頷いて、トロフィーを、マリエに、渡した。
マリエは、トロフィーを、じっと、見つめた。
「……やっぱり。……このトロフィーには、強い悲しみが、込められているわ」
マリエは、振り子を、トロフィーに、かざした。
「……でも、さっきの光。……一歩さんが、悲しみを受け止めたことで、少しだけ、癒されたみたい」
マリエは、一歩を、見た。
「……悲しみを、完全に癒すには、まだ足りない。……でも、一歩さんが、このトロフィーの持ち主の、愛した人の名前を、知ることができれば……。……呪いを解く、大きな手がかりになるはずよ」
一歩は、マリエの言葉に、頷いた。
(……愛した人の、名前……)
一歩は、トロフィーを、見つめた。
(……必ず、見つける)
一歩は、声が出ないまま、心の中で、そう、強く、誓った。
工場の外に出ると、夕日が、空を、赤く、染めていた。
一歩は、トロフィーを、抱え直した。
(……これで、また、一歩、前に、進める)
一歩は、夕日を、見つめた。
長い、黒髪が、風に、揺れる。
女の子の影が、地面に、長く、伸びていた。
でも、その影は、もう、前だけを、向いていた。Noveliaとは?
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