アクタージュ・リビルド ~転生したら芸能一家のドタバタ恋愛劇!?~
給食費滞納のピンチを救うため、賞金100万円のオーディションに飛び込んだ夜凪景、16歳。演技経験ゼロ、特技は古い映画の真似だけ。なのに、即興演技で審査員を震撼させた彼女の“ある才能”とは——? 天才監督・黒山墨字に「君は怪物だ」と言わしめた景は、その日から芸能界の荒波へ。待っていたのは、業界最大手の天才女優・百城千世子、演劇界の怪物・明神阿良也、そして個性豊かなスタジオ大黒天の面々。さらに、届いた差出人不明の手紙——『あなたの父親を知っています』。失踪した父の謎、母の死の真相、そして景の中に眠る“化け物”の正体。ドタバタで危険で、ほんの少し切ない芸能一家の恋愛劇、開幕! 家族を守るため、景は今日も舞台に立つ。
アクタージュ・リビルド ~転生したら芸能一家のドタバタ恋愛劇!?~ - 天使が私に興味津々なんて聞いてないんですけど!?
「それで、次の仕事は何をすればいいの?」
景は、目の前に座る男を見つめた。
スタジオ大黒天の応接室。渋谷の雑居ビル三階にある、古いけれどきちんと掃除の行き届いた部屋。窓からは午後の日差しが差し込んでいて、テーブルの上には二人分の紙コップが置かれていた。
黒山墨字は、景の問いかけに、ゆっくりとコーヒーを一口飲んだ。
「……まずは、学園ドラマのオーディションだ」
「オーディション?」
景は首をかしげた。
「『放課後シンフォニー』。東都テレビの新番組だ。来月から撮影が始まる。役は、主人公のクラスメイト。台詞は少ないが、重要な役どころだ」
黒山は、テーブルの上に一枚の紙を置いた。オーディションの詳細が書かれた書類だった。
景は、書類を手に取る。
「……あの、賞金は?」
「ない」
「ないの?」
「ない」
景は、書類から顔を上げて、黒山をじっと見た。
「……賞金がなかったら、私、何のために出るの?」
「仕事だからだ」
「仕事……」
「ああ。役者として食っていくなら、仕事を取れ。オーディション番組の賞金は、もう終わった話だ。あれは、お前がこの世界に入るための切符だったんだよ」
黒山の声は、落ち着いていて、有無を言わせない響きがあった。
景は、右手の指先を、膝の上でとん、とん、と動かした。
(仕事、か)
頭に浮かぶのは、家のちゃぶ台の上に置かれた、給食費の滞納通知。
「……分かった。受ける」
景は、小さく頷いた。
「ただし、条件がある」
「条件?」
「このオーディションには、スターズからも一人、天才が来るらしい」
黒山は、窓の外に目をやった。
「百城千世子。『スターズの天使』と呼ばれている女優だ。あいつも同じ役を受けに来る。つまり、お前は、あの百城千世子と競うことになる」
「百城、千世子……」
景は、その名前を、口の中で転がすように呟いた。
「天才……」
「ああ。本物の天才だ。お前とは、全く違うタイプのな」
黒山は、紙コップをテーブルに置いた。
「オーディションは、明後日。調布の撮影所だ。遅れるなよ」
「……分かった」
景は、書類を折りたたんで、ポケットにしまった。
(百城千世子、か)
胸の奥で、何かが、ちくりと小さく痛んだ。
それが何なのか、景には、まだ分からなかった。
———
オーディション当日。
調布の撮影所は、思っていたよりずっと広くて、たくさんの人が行き交っていた。
大きな機材を運ぶスタッフ。台本を手に歩く役者たち。どこかで誰かが叫ぶ声。
景は、撮影所の入り口で、しばらく立ち尽くしていた。
(ここで、オーディションを受けるのか)
緊張で、指先が冷たい。
景は、深呼吸をして、受付に向かった。
「夜凪景です。オーディションを受けに来ました」
「はい、夜凪さんですね。控え室はあちらになります。開始まで、そこでお待ちください」
景は、案内された控え室に向かった。
控え室には、すでに何人かの参加者がいた。みんな、台本を読んだり、鏡を見たりしている。
景は、隅っこの椅子に座って、台本を開いた。
役柄は、主人公のクラスメイトの「水野結」。母親を亡くしたばかりの女子高生で、感情を表に出せない、静かな少女。
(母親を亡くした……)
景の指が、台本の文字の上で止まる。
(私と同じだ)
胸の奥が、ぎゅっと締め付けられる。
その時だった。
「ねえ、あなたが夜凪景ちゃん?」
突然、後ろから声をかけられた。
景が振り返ると、そこに立っていたのは——
栗色の髪をゆるく巻いて、宝石のような紫がかった大きな瞳。完璧な微笑みを浮かべた、一人の少女だった。
「え、えっと……」
景は、言葉に詰まった。
(誰? この人、すごく綺麗……)
「やっぱり。私、百城千世子。スターズ所属なの。オーディション番組で、黒山さんがあなたのこと、『怪物』って言ったって聞いたわ」
千世子は、景の隣の椅子に、するりと座った。
距離が、近い。
「それで、あなたの演技、すごく変わってるって。私、興味があるの」
千世子は、景の手を、そっと両手で包み込んだ。
「え、えっと……どうしてここに?」
景は、顔が一気に熱くなるのを感じた。
(なんで手を握ってるの!?)
「私も、このオーディション受けるのよ。同じ役で。だから、ライバルってことになるわね」
千世子は、にこりと笑った。
その笑顔は、あまりにも完璧で、作り物のように美しかった。
「ライバル……」
「ええ。でも、私は、あなたの演技が見たいの。あなたがどんな風に演じるのか、すごく気になるのよ」
千世子の紫の瞳が、景をじっと見つめる。
景は、その視線から逃れられずに、ただ、黙っていた。
「ふふ、面白い反応ね」
千世子は、景の手を離して、立ち上がった。
「じゃあ、後でね。夜凪景ちゃん」
千世子は、そう言って、控え室を出て行った。
景は、しばらくの間、その場に固まっていた。
「……なんだったの」
景は、握られた手を見た。
千世子の手の温もりが、まだ残っている。
(あの人、私に何しに来たの?)
景の心臓は、しばらく、どきどきと鳴り続けていた。
———
オーディションが始まった。
実技審査。参加者は一人ずつ、部屋の中央で、指定された場面を演じる。
景の番が来た。
景は、部屋の中央に立った。
審査員が、数人、景を見ている。
景は、台本に書かれた場面を思い浮かべた。
水野結。母親を亡くしたばかりの女子高生。
教室で、友達から「大丈夫?」と声をかけられる場面。
結は、平気なふりをして、笑おうとする。
でも、笑えない。
(お母さん……)
景の頭の中に、母の顔が浮かんだ。
優しかった母。病院のベッドで、痩せ細っていった母。
「結、大丈夫?」
審査員が、台本のセリフを読んだ。
景は、口を開いた。
「……うん、大丈夫」
笑おうとした。
でも、口元が、震える。
(お母さん、ごめん。私、まだ、あなたの死を、受け入れられない)
景の視界が、滲んでいく。
「ごめん……私、やっぱり、大丈夫じゃない……」
景は、台本にない言葉を口にしていた。
「お母さん……お母さんがいないと、私、何もできない……」
涙が、止まらなかった。
景は、その場に、崩れ落ちるようにしゃがみ込んだ。
「お母さん……お母さん……」
景の声は、泣き声に変わっていた。
部屋の中が、静まり返る。
審査員たちが、困惑した表情で、景を見ている。
「……どうしたんだ、彼女」
「台本と違うぞ。何をやってるんだ」
ざわざわと、部屋の空気が揺れる。
景は、自分が今、何をしているのか、分からなくなっていた。
ただ、母のことを思い出して、悲しくて、苦しくて、涙が止まらない。
(違う。私は、こんなはずじゃ……)
でも、体が動かない。
その時だった。
「——大丈夫だよ、結」
突然、千世子が、景の前に現れた。
千世子は、しゃがみ込んでいる景を、そっと抱きしめた。
「私がそばにいるよ。一人じゃないよ」
千世子の声は、優しくて、温かかった。
景は、千世子の腕の中で、泣き続けた。
「お母さん……お母さん……」
「うん、泣いていいのよ。私が、ここにいるから」
千世子は、景の背中を、優しく叩いた。
その仕草は、あまりにも自然で、まるで、本当の姉のように見えた。
部屋の中の空気が、変わった。
さっきまでの困惑が、消えていく。
審査員たちは、千世子と景の二人の姿を、息をのんで見つめていた。
「……すごい」
「あの百城千世子が、即興で合わせたのか」
「あの子の演技に、引きずり込まれたな」
景は、千世子の腕の中で、ようやく涙が止まってきた。
顔を上げると、千世子が、にこりと笑った。
「大丈夫?」
「……ごめんなさい」
景は、千世子の腕から離れて、立ち上がった。
足が、震えている。
「私、台本通りに、できなかった」
景は、うつむいた。
「いいのよ。あなたの演技、すごく良かったわ」
千世子は、景の目をまっすぐに見た。
「あなたの涙、本物だった。私、あんな演技、初めて見た」
千世子の紫の瞳が、きらきらと輝いている。
景は、その視線に、何も言えなかった。
———
オーディションの結果は、翌日、黒山から連絡が来た。
「合格だ。それも、二人そろってな」
「二人?」
「ああ。お前と、百城千世子。二人で、このドラマに出ることになった。主演は百城。お前は、その親友役だ」
「親友役……」
景は、電話を握りしめた。
(百城千世子と、共演)
胸の奥が、ざわざわする。
「撮影初日は、来週の月曜日だ。台本は、事務所に届けてある。しっかり読んでおけ」
「……分かった」
景は、電話を切った。
———
撮影初日。
景は、撮影所のセットの隅で、台本を握りしめていた。
「……緊張する」
心臓が、ばくばくと音を立てている。
周りでは、スタッフが慌ただしく動いている。
「よし、本番いくぞ!」
景は、セットの中央に向かった。
千世子が、すでに立っていた。
「おはよう、景ちゃん。緊張してる?」
千世子は、いつもの完璧な笑顔で、景に話しかけた。
「……少し」
「大丈夫よ。あなたなら、できるわ」
千世子は、景の肩を、ぽんと叩いた。
「本番!」
撮影が始まった。
景は、台本のセリフを言おうとした。
「水野さん、今日も一緒に帰らない?」
「……あ、うん」
千世子の演技は、完璧だった。
声のトーン、表情、間の取り方。全てが、役そのものだった。
「じゃあ、放課後、正門で待ってるね」
「うん、分かった」
「……あれ?」
景は、次のセリフが出てこなかった。
「カット!」
「夜凪さん、セリフが飛んでますよ。もう一度、お願いします」
「……すみません」
景は、頭を下げた。
(なんで、セリフが出てこないの?)
「本番!」
もう一度、撮影が始まる。
「水野さん、今日も一緒に帰らない?」
「……あ、うん」
「じゃあ、放課後、正門で待ってるね」
「うん、分かった」
「それで、その……あの……」
景は、また、セリフを噛んだ。
「カット!」
「夜凪さん、落ち着いて。台本の三ページ目、二行目です」
「……すみません」
景は、台本を見た。
セリフは、ちゃんと書いてある。
でも、頭に入ってこない。
(私は、何をやってるの?)
周りのスタッフが、ざわざわと話し始めた。
「あの子、大丈夫か?」
「台本、ちゃんと読んできたのか?」
「百城さんと共演できるのに、もったいないな」
景は、唇を噛んだ。
(悔しい)
「カット、カット! 一旦休憩!」
景は、セットの隅に移動して、しゃがみ込んだ。
「……私、何やってるんだろ」
景は、台本を、ぎゅっと握りしめた。
「景ちゃん」
千世子が、景の前に立っていた。
「大丈夫?」
「……大丈夫じゃない」
景は、顔を上げずに答えた。
「私、セリフも言えない。みんなに迷惑かけてる」
「そうね。今のあなたは、全然ダメだわ」
千世子の言葉に、景は、顔を上げた。
千世子は、いつもの笑顔ではなく、真剣な表情で、景を見ていた。
「でも、私は、あなたと芝居がしたいの。あなたのその、まっすぐなところ。あのオーディションで見せた、あの涙。あれは、あなたにしかできないものだわ」
千世子は、景の手を取った。
「私は、あなたに負けたくないの。だから、あなたも、私に負けないで」
千世子の紫の瞳が、景を真っ直ぐに見つめる。
景は、その視線に、心臓が、どきりと跳ねるのを感じた。
「……私、演技、下手くそなのに」
景は、うつむいた。
「下手くそなんかじゃないわ。ただ、あなたの演技は、あなたにしかできないのよ」
千世子は、景の手を、ぎゅっと握った。
「だから、私と一緒に、芝居をしましょう。あなたの、そのまっすぐな心で」
景の胸の奥で、何かが、熱くなった。
(悔しい。でも、それ以上に——)
景は、千世子の手を、握り返した。
「……私、負けないから」
景は、千世子の目を見て、はっきりと言った。
「絶対に、あなたに負けない。私、もっと上手くなる」
千世子は、一瞬驚いた顔をして、それから、ふわりと笑った。
「ええ、楽しみにしてるわ」
その笑顔は、今まで見たどんな笑顔よりも、本物に見えた。
———
撮影は、なんとか終わった。
景は、何度もNGを出したけれど、最後のシーンは、なんとか形になった。
(まだまだ、全然ダメだ)
景は、撮影所の廊下を歩いていた。
疲れていた。
でも、心は、不思議と軽かった。
(千世子さん……)
景は、千世子の言葉を思い出した。
『あなたの演技は、あなたにしかできないのよ』
(私にしかできない演技、か)
景は、右手の指先を、無意識に動かした。
その時だった。
「——あの子の演技、危ないかもしれない」
黒山の声が、廊下の角から聞こえた。
景は、足を止めた。
「メソッド演技は、いつか彼女を壊す」
(え?)
景は、壁に張り付くようにして、息をひそめた。
「……黒山さん、景ちゃんのことを、そんな風に思ってるの?」
千世子の声も聞こえた。
「ああ。あの子の演技は、自分自身を削っている。役の感情を、自分の過去の傷と結びつけて、無理やり引き出しているんだ。そんなことを続けていたら、いつか、心が壊れる」
黒山の声は、真剣だった。
「……でも、私は、それでも彼女と芝居がしたいの」
千世子の声は、静かだった。
「あの子の芝居は、私に、何かを思い出させる。私が、ずっと探していたもの。だから、私は、彼女と一緒に、舞台に立ちたい」
「……千世子」
「分かってるわ。危険だって。でも、私は、彼女を止めない。むしろ、もっと、彼女の芝居を見たい。彼女が、どこまで行けるのか、見てみたいの」
景は、壁にもたれかかった。
(私の演技は、危ない?)
(私を、壊す?)
景の胸が、ずきずきと痛んだ。
(でも、千世子さんは、私と芝居がしたいって……)
景は、その場から、静かに立ち去った。
———
帰り道。
空は、オレンジ色に染まっていた。
景は、駅までの道を、とぼとぼと歩いていた。
(黒山さんの言う通りなのかな)
(私の演技は、私を壊すの?)
景は、自分の手のひらを見た。
千世子に握られた、右手。
まだ、温もりが残っている気がした。
(でも、私は、演技をやめられない)
景は、手を、ぎゅっと握りしめた。
(だって、私には、演技しかないから)
(お母さんを失って、お父さんもいなくなって、私に残ったのは、映画と、演技だけだった)
(だから、私は、負けない)
景は、顔を上げた。
夕焼けが、目にしみた。
「……私、負けないから」
景は、小さく呟いた。
その声は、夕暮れの街に、静かに溶けていった。
でも、景の胸の中には、千世子の言葉と、黒山の警告が、いつまでも、消えない熱のように、残っていた。
そして、景は、知らなかった。
明日、彼女の前に、星アリサという、かつてメソッド演技で壊れた元女優が現れることを。Noveliaとは?
Noveliaは、AIでライトノベルや二次創作を「読んで・数タップで作って・キャラクターと会話できる」プラットフォームです。挿絵つきの新作が毎日届き、無料で始められます。