アクタージュ・リビルド ~転生したら芸能一家のドタバタ恋愛劇!?~
給食費滞納のピンチを救うため、賞金100万円のオーディションに飛び込んだ夜凪景、16歳。演技経験ゼロ、特技は古い映画の真似だけ。なのに、即興演技で審査員を震撼させた彼女の“ある才能”とは——? 天才監督・黒山墨字に「君は怪物だ」と言わしめた景は、その日から芸能界の荒波へ。待っていたのは、業界最大手の天才女優・百城千世子、演劇界の怪物・明神阿良也、そして個性豊かなスタジオ大黒天の面々。さらに、届いた差出人不明の手紙——『あなたの父親を知っています』。失踪した父の謎、母の死の真相、そして景の中に眠る“化け物”の正体。ドタバタで危険で、ほんの少し切ない芸能一家の恋愛劇、開幕! 家族を守るため、景は今日も舞台に立つ。
アクタージュ・リビルド ~転生したら芸能一家のドタバタ恋愛劇!?~ - 突然の告白で現場は大修羅場!?そして届いた絶望の契約書
学園ドラマ『放課後シンフォニー』の撮影最終日。
調布の撮影所には、朝から慌ただしい空気が流れていた。最終カットの準備を進めるスタッフたちの声が、セットのあちこちで響く。
景は、木造の教室セットの隅で、台本を閉じた。
(これで……最後)
指先が、台本の端を、とん、とん、と叩く。
ここ数日、千世子とアキラに囲まれて過ごした撮影。最初は何もできなかった自分が、少しだけ、芝居の輪郭を掴めた気がする。
「夜凪さん、準備いいですか?」
「……はい」
景は立ち上がった。
最後のシーンは、卒業式の場面だった。主人公とクラスメイトたちが、校門の前で別れを惜しむ。景の役、水野結は、その輪の端で、小さく手を振るだけの役だった。
カメラが回る。
千世子演じる主人公が、涙を浮かべて笑う。
「みんな、ありがとう。私、このクラスでよかった」
千世子の声が、セットに響く。
その瞬間、景の胸の奥が、きゅっと締め付けられた。
(お母さん……)
母の葬式の日。
景は、親戚の人たちに囲まれながら、一人だけ、涙を流せなかった。
泣き崩れる弟と妹の手を握って、ただ、前だけを見ていた。
(あの時、私も、泣けばよかったのかな)
景の視界が、じわりと滲む。
カメラが、景の顔をアップで捉える。
水野結は、涙を流さない。
でも、その目に、確かな光が宿る。
「……元気で」
景の声は、小さく、震えていた。
でも、その震えは、涙の代わりに、役の感情そのものだった。
「カット! ……OK!」
監督の声が、静かに響いた。
「お疲れ様でした!」
スタッフたちの拍手が、セットを包む。
景は、深く息を吐いた。
(終わった……)
千世子が、景の隣に歩いてくる。
「景ちゃん、最後のあれ、すごくよかったわ。あなたの目、あの瞬間だけ、水野結そのものだった」
「……そう、かな」
景は、照れくさそうに、視線を落とした。
「ええ。私、あの目を見て、鳥肌が立ったもの」
千世子は、にこりと笑った。
その笑顔は、いつもの完璧な微笑みより、少しだけ、温度が高かった。
——
撮影が終わり、景が控え室に戻ろうと廊下を歩いていると、後ろから声がかかった。
「景ちゃん」
振り返ると、アキラが立っていた。
明るい茶髪のマッシュスタイル。琥珀色の優しい瞳が、真剣に景を見つめている。
「あ、アキラくん。お疲れ様」
「……少し、話したいことがあるんだ。時間、もらえるかな」
アキラの声は、いつもより少し、硬かった。
景は、首をかしげた。
「え、えっと……大丈夫だけど」
二人は、人気のない廊下の隅に移動した。
窓から差し込む夕日が、アキラの横顔をオレンジ色に染めている。
アキラは、景の目をじっと見た。
「景ちゃん」
「はい」
「俺、君のことが好きだ。付き合ってほしい」
景の頭が、真っ白になった。
(……え?)
(好き? 私を?)
(付き合う?)
景の顔が、一気に赤くなる。
「え、え、えぇっ!?」
景の声が、廊下に響く。
アキラは、景の反応を見て、少しだけ困ったように笑った。
「驚かせてごめん。でも、本気なんだ。撮影を通して、景ちゃんのまっすぐなところを見て、どんどん惹かれていった。返事は急がないから、考えてほしい」
景は、口をぱくぱくと動かした。
(ど、どうしよう。頭が回らない)
(こ、これは、いわゆる、告白ってやつで)
(私、生まれて初めて……)
景の心臓が、うるさいほど脈打っている。
「あ、あの……私、そういうの、全然わからなくて……」
景は、しどろもどろに言った。
「うん、知ってる。景ちゃんは、恋愛より演技が大事だって、そういう人だって思ってる。でも、俺は、それでも伝えたかったんだ」
アキラの声は、真剣だった。
「……アキラくん」
「返事、待ってるから」
アキラは、そう言って、優しく微笑んだ。
景は、何も言えずに、ただ、真っ赤な顔で俯いた。
——
その時だった。
「あら、あら。なんだか、面白いことになってるじゃない」
甘く柔らかな声が、廊下に響いた。
景とアキラが、同時に振り返る。
千世子が、壁に寄りかかって、二人を見ていた。
栗色のロングヘアが、夕日に照らされて、ふわりと輝いている。宝石のような紫がかった瞳が、楽しそうに細められていた。
「ち、千世子さん!?」
アキラの顔が、みるみる赤くなる。
「ごめんなさいね、盗み聞きするつもりはなかったんだけど。廊下に声が響いてたから、つい」
千世子は、くすくすと笑いながら、二人に近づいてきた。
「アキラ、ずるいんだから。私も景ちゃんのこと、好きなんだからね」
千世子は、にこりと笑ったまま、さらりと言った。
景の頭が、再び真っ白になる。
(え?)
(千世子さんも?)
(好き?)
「ちょ、千世子さん、なんでここで言うんですか!?」
アキラが、慌てた声を上げる。
「だって、景ちゃんがアキラに取られちゃいそうだったから。景ちゃんは、私が一番最初に興味を持ったんだから。横取りしないでくれる?」
千世子は、景の肩に、すっと手を回した。
景の体が、びくりと跳ねる。
千世子の体温が、肩から伝わってくる。
「ちょ、ちょっと待って! 私、そういうの全然わかんないんだけど!」
景は、悲鳴のような声を上げた。
「大丈夫よ、景ちゃん。私が、優しく教えてあげるから」
千世子は、景の耳元で、甘く囁いた。
「ち、近い! 近いから!」
景は、千世子の腕から逃れようと、もがいた。
「千世子さん、景ちゃんが困ってるだろ」
アキラが、景を助けようと、千世子と景の間に割って入る。
「あら、アキラこそ、景ちゃんが困ってるじゃない。告白なんかしちゃって」
千世子は、アキラを、挑発するように見た。
「俺は、本気で言ったんだ」
「私だって、本気よ」
二人の視線が、火花を散らす。
景は、二人の間に挟まれて、完全にパニックだった。
(なんで、こうなるの!?)
(私は、ただ、撮影が終わって、帰ろうとしてただけなのに!)
景は、二人から距離を取ろうと、一歩後ろに下がった。
「わ、私、恋愛より演技が大事なんだから!」
景は、声を張り上げた。
しかし、その心臓は、痛いくらいにドキドキしていた。
(う、うそ。私、こんなに動揺してる)
(なんで、二人の顔が、いつもより、すごく近く感じるの)
景は、自分の心臓の音が、二人に聞こえてしまうのではないかと、本気で心配になった。
遠巻きに、スタッフたちが、その修羅場を眺めていた。
「おい、あれ、三角関係か?」
「百城千世子と星アキラが、あの新人を取り合ってるぞ……」
「すごい現場だな……」
スタッフたちの、ひそひそ声が、廊下に響く。
景は、恥ずかしさで、消えてしまいたくなった。
——
その時だった。
「騒がしいな」
低い声が、廊下に響いた。
全員が、声のした方を見る。
黒山墨字が、腕を組んで立っていた。
スタジオ大黒天の主宰。景をこの世界に引き込んだ張本人。その鋭い眼光が、三人を順番に見据える。
「く、黒山さん……」
「撮影は終わったはずだ。何を揉めてる」
黒山は、不機嫌そうに言った。
「あら、黒山さん。私たち、景ちゃんの取り合いをしてたのよ。ね、アキラ?」
千世子は、悪びれもせずに笑った。
「千世子さん、そういう言い方は……」
アキラが、困ったように頭をかく。
黒山は、深いため息をついた。
「……まあいい。夜凪、お前に話がある」
「え? 私に?」
景は、告白の混乱から、ようやく我に返った。
「ああ。映画『羅刹女』の主演、お前に決めた」
黒山の言葉が、廊下に、静かに落ちた。
景の呼吸が、止まった。
(……え?)
(主演?)
(私が?)
「わ、私が……主演……?」
景は、呆然と呟いた。
「そうだ。オーディション番組で見せた、あの怒りの演技。あれを、もう一度、俺の映画で見せてみろ。覚悟しろよ」
黒山は、不敵に笑った。
景の胸の奥で、何かが、大きく脈打った。
(私が、主演)
(映画の、主役)
(お母さんが、大好きだった、映画の)
景の目が、じわりと熱くなる。
「……私、頑張る……! 絶対、いい演技する!」
景は、拳を握りしめた。
その声は、震えていた。
でも、その震えは、喜びの震えだった。
「へえ、景ちゃんが主演。じゃあ、私も出るわ。共演者としてね」
千世子が、すかさず言った。
「俺も、出たいです!」
アキラも、負けじと声を上げる。
「……勝手に決めるな。キャストは、これから決める」
黒山は、顔をしかめた。
「でも、景ちゃんが出るなら、私が出ない理由がないもの」
「俺も、景ちゃんと、もう一度芝居がしたいです」
千世子とアキラは、またしても、景を挟んで火花を散らし始めた。
景は、喜びと混乱が入り混じった気持ちで、その場に立ち尽くしていた。
(私、主演……)
(でも、なんで、二人は、また喧嘩してるの……)
景の心臓は、さっきから、ずっとドキドキしたままだった。
——
その夜。
景は、自宅のアパートに戻っていた。
「お姉ちゃん、おかえり! 今日は早かったね」
妹のレイが、玄関まで駆けてきた。
「ただいま。撮影、最終日だったから」
景は、レイの頭を、そっと撫でた。
「お姉ちゃん、疲れてるでしょ。ご飯、私が作るよ」
「大丈夫。私がやるから」
「お姉ちゃん、無理しないでよ」
レイは、心配そうに景を見た。
「無理なんてしてない。私、やるって言ったら、やるの」
景は、台所に立った。
冷蔵庫を開ける。中には、卵と、キャベツが少し。
景は、手早く、卵焼きと、キャベツの味噌汁を作った。
三人で、ちゃぶ台を囲む。
「お姉ちゃん、今日は、何の撮影だったの?」
「学園ドラマ。千世子さんと、アキラくんと」
「へえ、あの天使の千世子と、イケメンのアキラと!」
弟のルイが、身を乗り出した。
「姉ちゃん、モテモテじゃん!」
「モテてない。からかわないで」
景は、卵焼きを口に運んだ。
(モテてない……モテてないけど……)
アキラの告白と、千世子の宣言が、頭の中で繰り返される。
(私、恋愛より演技が大事なんだから)
景は、心の中で、もう一度、そう言い聞かせた。
でも、心臓は、まだ、少しだけ、ドキドキしていた。
——
食事が終わり、景が片付けをしていると、スマートフォンが震えた。
景は、手を拭いて、スマートフォンを手に取った。
画面に、知らない番号からのメッセージが表示されていた。
景は、そのメッセージを開いた。
『お前の父親のことをもっと知りたければ、明日一人で来い。来なければ、お前の弟と妹に何が起きても知らないぞ』
景の顔から、血の気が引いた。
(お父さんのこと……?)
(ルイと、レイに……?)
景の手が、震え始めた。
スマートフォンが、手から滑り落ちそうになる。
「お姉ちゃん、どうしたの?」
レイが、心配そうに声をかけてきた。
「……何でもない。ちょっと、メールが来ただけ」
景は、必死に平静を装った。
メッセージを消そうとした。
でも、震える指が、うまく動かない。
(消さなきゃ。ルイとレイに、見せられない)
景は、何度も、画面をタップした。
ようやく、メッセージは消えた。
でも、あの文字は、景の脳裏に、深く焼き付いていた。
『明日一人で来い』
『来なければ、お前の弟と妹に何が起きても知らないぞ』
景は、スマートフォンを、ぎゅっと握りしめた。
(お父さんのこと……)
(それに、ルイとレイ……)
景の心臓が、早鐘のように鳴っていた。
「お姉ちゃん、本当に大丈夫?」
レイが、景の顔を覗き込んだ。
「……大丈夫。明日、少し遅くなるから。二人で、先に寝てて」
景は、レイの頭を、そっと撫でた。
「分かった。お姉ちゃんも、無理しないでね」
レイは、心配そうにしながらも、頷いた。
景は、台所に立ち、窓の外を見た。
暗い空に、月が、細く浮かんでいた。
(明日、一人で行く)
景は、決意した。
(ルイとレイは、私が守る)
(お父さんのことも、確かめる)
景の右手の指先が、窓枠を、とん、とん、と叩いた。
その音だけが、静かな夜の台所に、小さく響いていた。
——
翌日の夜。
景は、指定された場所に来ていた。
東京郊外の、人気のない工業地帯。
古びた廃倉庫が、暗闇に沈んでいる。
風が、錆びたトタン板を、ガタガタと揺らしていた。
(ここ……)
景は、廃倉庫の前に立ち、深呼吸をした。
(怖い。でも、行かなきゃ)
景は、重い鉄の扉を、ゆっくりと押し開けた。
ギィィ……
錆びた蝶番が、不気味な音を立てる。
倉庫の中は、真っ暗だった。
かび臭い匂いが、鼻をつく。
「……来たか」
低い、男の声が、暗闇から響いた。
景の体が、びくりと跳ねる。
「誰……?」
景は、声のした方を見た。
暗闇の中から、一人の男が、ゆっくりと姿を現した。
黒いスーツ。黒い革靴。
短く刈り込んだ髪に、鋭い目つき。
口元には、薄い笑みが浮かんでいた。
「俺の名前は、ヨルカゲ。芸能界の裏で、色々とお世話をしている者だ」
男は、景を、じっと見た。
「……お父さんのことを、知ってるの?」
景は、震える声で尋ねた。
「ああ、知ってる。お前の父親、夜凪優は、多額の借金を残して、逃げたんだよ」
男の言葉に、景の頭が、真っ白になった。
(借金?)
(お父さんが?)
「そ、そんなの……お父さんが、そんなことするはずない!」
景は、声を張り上げた。
「するはずない? お前は、父親の何を知ってる? あの男は、お前たち家族を捨てて、借金から逃げたんだよ。そして、その借金の返済義務は、残された家族に引き継がれる。つまり、お前だ」
男は、懐から、一枚の書類を取り出した。
「これが、借金の契約書だ。ここに、お前の名前を書け。そうすれば、弟と妹の安全は、俺が保証してやる」
男は、書類とペンを、景の前に突きつけた。
景は、書類を見た。
そこには、見たこともない金額と、景の名前を書く欄があった。
「……いや」
景は、一歩、後ろに下がった。
「拒否すれば、どうなるか、分かってるな? お前の弟と妹、可愛い盛りだろう。あの子たちが、学校で、何をされても、知らないぞ」
男の声は、冷たく、恐ろしかった。
景の心臓が、凍りつく。
(ルイ……レイ……)
景の頭に、弟と妹の顔が浮かぶ。
(私が、守らなきゃ)
(でも、これは、おかしい)
(こんな契約、絶対に、おかしい)
景は、震える手で、ペンを握った。
男の目が、ぎらりと光る。
「そうだ、素直に書けばいい。お前の弟と妹は、無事に済む」
景は、ペン先を、書類に近づけた。
(……違う)
景の手が、止まる。
(これは、私が、書いちゃいけないものだ)
(お父さんが、借金をしたなんて、まだ、信じられない)
(それに、ルイとレイを、こんなことで、危険にさらすわけにはいかない)
景は、顔を上げた。
その瞳は、恐怖に震えながらも、強い光を宿していた。
「……私は、絶対に、サインしない!」
景は、叫んだ。
そして、ペンを、男に向かって投げつけた。
「何……!」
男が、一瞬、ひるんだ隙に、景は、駆け出した。
「待て!」
男の怒鳴り声が、倉庫に響く。
景は、全速力で、倉庫の外に飛び出した。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ……」
景は、暗い夜道を、走り続けた。
心臓が、破裂しそうだ。
足が、もつれそうになる。
でも、立ち止まるわけにはいかない。
(逃げなきゃ)
(ルイとレイのところに、帰らなきゃ)
景は、涙をこらえながら、走り続けた。
——
翌朝。
景は、スタジオ大黒天に呼び出されていた。
応接室に入ると、黒山が、難しい顔で、一枚の書類を見ていた。
「黒山さん……おはようございます」
景は、ぎこちなく挨拶をした。
「……夜凪。お前、こんな契約、どこで結んだ」
黒山は、書類を、景の前に突きつけた。
景は、書類を見た。
その瞬間、景の顔から、血の気が引いた。
それは、昨夜、ヨルカゲの男が、景に突きつけた契約書だった。
そして、その書類の署名欄には、確かに、『夜凪景』と書かれていた。
「ち、ちがう! これは、私が書いたんじゃない!」
景は、必死に訴えた。
「……筆跡は、お前のものだ。誰が見ても、そう判断する」
黒山の声は、冷たかった。
「そんな……! 私、昨夜、確かに、その契約書を突きつけられました。でも、サインは、絶対にしなかった! 拒否して、逃げたんです!」
景の声は、震えていた。
「……昨夜、何があった?」
黒山は、書類から目を離さずに、尋ねた。
「お父さんのことを知りたければ、一人で来いって、メッセージが届いて……指定された場所に行ったら、ヨルカゲって名乗る男がいて……お父さんが、借金を残して逃げたから、お前が返せって……」
景は、昨夜のことを、必死に説明した。
「……ヨルカゲ?」
黒山の眉が、ぴくりと動いた。
「はい。芸能界の裏で、色々とお世話をしているって……」
景は、震える声で、続けた。
「……分かった。一度、話を聞かせろ」
黒山は、低い声で言った。
景は、安堵して、涙がこぼれそうになった。
(黒山さんが、話を聞いてくれる)
(信じてくれる……?)
しかし、応接室の外では、スタッフたちが、ひそひそと噂をしていた。
「夜凪さん、裏で、あのヨルカゲと契約してたのか……」
「あの子、天然で空気が読めないって思ってたら、こんなことする子だったのね……」
「事務所に迷惑がかかるぞ。あの契約、違約金が、えげつないらしい」
冷たい視線と、陰口が、景の背中に突き刺さる。
景は、唇を噛みしめた。
(私を、信じて)
景は、心の中で、そう叫んだ。
でも、その声は、誰にも届かなかった。
黒山は、契約書を、じっと睨んだまま、沈黙していた。
応接室に、重い空気が流れる。
景の濡れ衣と、ヨルカゲの魔の手。
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