時をかける猫 全10話 ―時間の隙間を、猫だけが知っている― - 修理:修理したのは、ベルだけではなかった
達也からの返信は、二日後に来た。
「まだいるのか、あの猫」
それだけだった。涼太は何度も読み返して、結局「いる」とだけ返した。それ以上、何を書けばいいのか分からなかった。
ベルは、机の上に置いたままだった。錆びていて、音は鳴るが、軸が固い。涼太はそれを持って、坂下サイクルへ行った。
「これ、直せますか」
坂下は涼太の手の中のベルを見て、しばらく黙っていた。
「古いな、これ。今は部品もないぞ」
「直らなくてもいいです。鳴ればいいので」
坂下はベルを受け取って、作業台に置いた。油を差して、軸を回す。チリン、と小さな音が鳴った。
「これでいい?」
「はい」
涼太がそう言った瞬間、店の匂いが変わった。油の匂いが濃くなり、奥から、ラジオの音が聞こえてきた。
***
店の中が、今より狭い。棚に並んでいる自転車の型が、古い。作業台の前に立っているのは、坂下――今より若い坂下だった。
「お前、また来たのか」
坂下が振り返って言った。涼太は黙って頷いた。
「親父のこと、聞きに来たんだろ。残念だけど、もういない」
涼太は黙っていた。坂下が言っているのが、いつの話なのか分からなかった。
「店、継ぐかどうか、まだ決めてないんだ。お前、どう思う?」
「俺に聞かれても、分かりません」
「そうだよな」
坂下は作業台の引き出しを開けて、古いベルを取り出した。今、涼太が持ってきたのと同じ型だった。
「これ、親父が最後に修理してたやつだ。客が取りに来なかった」
「誰のですか」
「分からん。名前も書いてない」
坂下はそのベルを、棚の隅に置いた。
「いつか取りに来るかもしれないし、来ないかもしれない。とりあえず、置いとくことにした」
ラジオの音が、すっと遠ざかった。油の匂いも、いつの間にか薄くなっていた。
***
涼太は坂下サイクルの店内に立っていた。今の坂下が、修理し終えたベルを差し出していた。
「ほら、直ったぞ。完全じゃないけど」
涼太はベルを受け取った。軽く振ると、前よりはっきりした音が鳴った。
「坂下さん、店の奥に、古いベル、置いてないですか。誰のものか分からないって」
坂下は手を止めて、涼太を見た。
「なんでそれ知ってるんだ」
涼太は答えなかった。坂下は棚の隅を見て、引き出しを開けた。中から、古いベルが出てきた。錆びかたが、涼太の持っているものとよく似ていた。
「親父が、最後に直してたやつだ。客、取りに来なかったんだよな」
坂下はそのベルを手に取って、しばらく見ていた。
「捨てるべきなんだろうけど、なんか、捨てられなくてな」
涼太は何も言わなかった。坂下も、それ以上は言わなかった。
店を出るとき、涼太は自分のベルを自転車に取り付けた。鳴らしてみると、錆びた音の中に、少しだけ澄んだ音が混ざっていた。Noveliaとは?
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