戦火のあとに咲く
戦争が終わった。けれど、僕の戦いはまだ終わらない。
大戦終結から三日。王都に復興の槌音が響く中、リオン・フォウ・バルトファルトは執務机の上に積み上げられた書類の山と格闘していた。戦争の英雄だの外道騎士だのと祭り上げられ、気づけば爵位まで手に入れてしまった彼が望んでいたのは、目立たず騒がず、細々と暮らす平穏な人生だった。それなのに現実はどうだ。戦後賠償の請求書、復興支援の割り当て表、領地経営の報告書——報酬の少ない雑務ばかりが次から次へと押し付けられる。
愚痴をこぼすリオンの傍らには、いつものように赤い一つ目の浮遊球体——相棒のルクシオンがいた。旧文明の遺産であるロストアイテムにして、膨大な知識を持つ人工知能。辛辣なツッコミを入れ、時にリオンの命を救い、常に傍らにいてくれる、かけがえのない戦友。そう、リオンは信じていた。
その日、戦後処理の一環として地下保管庫の調査に出たリオンは、旧文明のデータ端末に触れてしまった。偶発的に再生された映像に映っていたのは、銀色の長い髪を持つ美しい女性。彼女は寂しげに微笑み、こう呼びかけた。
「——ルクシオン」
映像の中で、女性はルクシオンによく
戦火のあとに咲く - 偽りの縁、本物の絆 ― 起 ―
羽根ペンの先が、羊皮紙の上でかすかに引っかかった。インクの滲みが、戦後賠償の請求書に記載された金額の上に、小さな黒い染みを広げる。
「……あー、もう」
リオン・フォウ・バルトファルトは、深く息を吐いた。窓から差し込む午後の陽射しは、執務机の上に積み上げられた書類の山を、無慈悲なまでに明るく照らし出している。王都ヴェルムートの北区に建つバルトファルト家の仮邸は、戦時中に接収された商家の別邸をそのまま宛がわれたもので、壁には前の持ち主の趣味らしい、褪せた花柄の壁紙が残っていた。貴族の邸宅と呼ぶにはあまりにも質素で、しかし書類の量だけは一人前の仕事を要求してくる。
大戦が終結して、まだ三日。ファンオース公国との同盟が締結され、王都には復興の槌音がようやく響き始めたばかりだった。街のあちこちで焼け落ちた家屋の再建が始まり、市場には少しずつ物資が戻りつつある。それでも、戦争が残した傷跡は、どこを見てもまだ生々しかった。
リオンは羽根ペンを置き、椅子の背もたれに体重を預けた。ぎしり、と木の軋む音が部屋に響く。窓の外からは、石畳の上を荷馬車が通る規則正しい蹄の音と、職人たちの怒鳴り声が聞こえてくる。空は高く澄んでいて、戦が終わったことを疑うほど穏やかな青だった。
だが、リオンの心は晴れない。
大戦で得た爵位。外道騎士という二つ名。そして、周囲から寄せられる過剰な期待。そのどれもが、リオンの肩に重くのしかかっていた。彼は平穏な人生を望んでいた。目立たず、騒がず、領地で細々と暮らしていければそれでいい。そう思っているのに、現実はどうだ。気がつけば戦争の英雄として祭り上げられ、戦後処理という名の雑務を押し付けられ、机の上には「至急対応」と書かれた書類が山のように積まれている。
「報酬の少ない仕事ばっかり押し付けやがって……」
リオンは書類の山を睨みつけた。男爵家の子息として生まれ、妾腹の三男として冷遇されて育った彼は、金の価値を誰よりもよく知っている。働きに見合わない仕事を押し付けられるほど、腹の立つことはなかった。
「マスター。その書類、あと二時間以内に王宮へ提出しなければ、王国騎士団からの報酬がさらに減額されるそうですよ」
机の隅に浮かぶ赤い一つ目が、抑揚のない声でそう告げた。
「先に言えよ、ルクシオン!」
リオンは声を荒げた。ルクシオン——旧人類が作り出した人工知能であり、リオンの相棒である浮遊球体は、その赤い一つ目をゆっくりと明滅させた。球体の表面には細かな傷がいくつも刻まれていて、それが戦場を共に駆け抜けてきた歳月を物語っている。
「言わなくても、書類の表紙に提出期限が記載されています。マスターが読んでいないだけでは?」
「うるせえ。読んでないんじゃなくて、読む気が起きないんだよ」
リオンは悪態をつきながら、書類の表紙をめくった。そこには確かに、今日の日付と提出期限が記されている。ルクシオンの指摘は正しい。正しいからこそ、腹が立つ。
ルクシオンは旧文明の遺産——ロストアイテムと呼ばれる存在だ。リオンがまだ学園の生徒だった頃、とある遺跡で偶然見つけた。それ以来、リオンの相棒として、時に辛辣なツッコミを入れ、時に戦場で命を救い、そして常にリオンの傍らにいた。
ルクシオンの知識は膨大で、旧人類の科学技術から新人類の魔法体系に至るまで、あらゆる分野に精通している。リオンがこれまで幾度となく窮地を脱してこられたのは、ひとえにルクシオンの存在があってこそだった。
「マスター。戦後賠償の書類は、単なる雑務ではありません。ホルファート王国の財政を立て直すための重要な業務です。もっとも、マスターにその自覚があるとは思えませんが」
「うっせえな。俺だってそれくらい分かってるよ」
リオンは羽根ペンを握り直した。ルクシオンの言うことは、いつも正しい。正しいからこそ、リオンは自分の至らなさを突きつけられているようで、時々無性に腹が立つ。
リオンは小柄な男だ。身長は百六十八センチ。黒髪のショートヘアは少し癖っ毛で、深い茶色の瞳は鋭く光る。体つきは細身だが引き締まっていて、質素な白シャツの下には、戦場で培われた筋肉が隠れている。顔立ちは悪くない——と、自分では思っている。少なくとも、前世の面影が残っているだけマシだ。
前世。その言葉を思い出すたびに、リオンの胸の奥で何かが疼く。
リオンには前世の記憶があった。日本という国で、普通の高校生として生きていた記憶。要領のいい妹に扱き使われ、乙女ゲームの代理プレイを徹夜でさせられた結果、過労で階段から転落して死んだ——そんな、情けない最期の記憶が。
そして、この世界がその乙女ゲームの世界であることを、リオンは知っている。
「……リビアとアンジェに、きちんと向き合わないとな」
リオンは誰に言うでもなく、そう呟いた。
オリヴィア。平民出身の学園特待生で、亜麻色の髪と碧眼が美しい、リオン好みの巨乳の持ち主。純真で、天然で、そしてリオンへの恋愛感情を隠そうともしない少女。
アンジェリカ。公爵令嬢で、輝くような金髪と力強い赤い瞳を持つ、気高い美女。厳格で誠実で、リオンの暴走をいつも必死に止めようとしてくれる女性。
二人とも、リオンにとってかけがえのない存在だ。リオンは二人の想いに気づいている。気づいていて、それでも、その想いに応えることを恐れている。
(俺はモブだ。モブがメインキャラと恋愛関係になれるわけがない)
乙女ゲームの世界。主人公はオリヴィアで、攻略対象はユリウスたち五人の王子や貴族。リオンは本来、物語の端っこにすら出てこない、ただのモブキャラクターのはずだった。
それが、どうだ。気がつけば戦争の英雄だの外道騎士だのと呼ばれ、挙句の果てには侯爵にまで出世してしまった。ゲームのシナリオは、とっくにどこかへ吹き飛んでいる。
それでも、リオンの心の奥底には、自分はこの世界の主役にはなれないという、拭いがたい自己評価がこびりついていた。
「マスター。無駄なことを考えている暇があるなら、手を動かしたらいかがです?」
「うるせえ。今、大事なことを考えてたんだよ」
「どうせ、オリヴィア様とアンジェリカ様のことでしょう。マスターが二人のことを考えている時の顔は、それはもう間抜けですから」
「だ、誰が間抜けだ!」
リオンは顔を赤くした。ルクシオンには、リオンの思考を読まれているような気がしてならない。いや、実際に読まれているのだろう。この人工知能は、リオンの表情や声のトーンから、彼の感情を正確に把握する能力を持っている。
「……マスター。書類の提出期限が迫っています」
ルクシオンの声が、少しだけ柔らかくなった。リオンは深いため息をつき、再び羽根ペンを握った。
「分かってるよ。分かってるっての」
午後の陽射しが、少しずつ角度を変えていく。リオンは黙々と書類を処理し続けた。領地経営の報告書、戦後賠償の請求書、復興支援の割り当て表。どれもこれも、リオンにとっては退屈極まりない仕事だったが、誰かがやらなければならない仕事でもあった。
やがて、夕暮れが近づいてきた頃。リオンは最後の書類に署名を終え、大きく伸びをした。
「……終わった」
肩が凝っている。首を回すと、こきこきと骨の鳴る音がした。
「マスター。地下保管庫の調査ですが、本日中に始めておくべきだと思います」
「ああ、そうだったな」
リオンは立ち上がった。戦後処理の一環として、旧文明の遺物を調査する任務がリオンに与えられていた。大戦中に接収したロストアイテムや、戦場で回収された旧人類の遺物を、バルトファルト家の仮邸の地下保管庫に一時的に保管している。その整理と分析が、リオンのもう一つの仕事だった。
「ルクシオン、お前の同類がどれだけあるのか、ちゃんと調べておかないとな」
「同類という言い方は心外ですが、まあ、そうですね。旧文明の遺物の中には、危険なものも含まれている可能性があります」
リオンは執務室を出て、廊下を歩いた。仮邸の廊下は薄暗く、足音がやけに大きく響く。壁に掛けられた古い燭台には火が灯されておらず、窓から差し込む夕陽だけが、かろうじて足元を照らしていた。
地下への階段を下りる。石造りの階段は冷たく、空気はじめじめと湿っていた。地下保管庫の扉の前で、リオンは立ち止まった。
重い鉄の扉を開けると、かび臭い空気が流れ出してきた。リオンは顔をしかめながら、壁に取り付けられた魔石ランプに手をかざした。魔力を込めると、ランプが淡い光を放ち始める。
地下保管庫の中には、大小様々な木箱や鉄箱が所狭しと並べられていた。どれも戦場から回収されたものばかりで、中には何が入っているのか分からないものも少なくない。
「ルクシオン、周辺に危険な反応はあるか?」
「今のところ、生命反応も魔法反応もありません。ただし、いくつかの遺物から微弱なエネルギー波を検出しています。マスター、不用意に触れないでください」
「分かってるよ」
リオンは慎重に足を進めた。木箱の一つを開けると、中には旧文明時代の工具らしきものが収められていた。錆びついた金属片、ガラスの破片、用途の分からない機械部品。どれもこれも、千年以上の時を経て、すっかり風化している。
ルクシオンはリオンの肩の上を浮遊しながら、赤い一つ目で遺物の一つ一つをスキャンしていた。
「マスター。左から三番目の鉄箱です。そこから、旧文明のデータ端末の反応が出ています」
「データ端末? お前みたいなのか?」
「いえ、私のような自律型AIではありません。記録媒体の一種です。おそらく、旧人類が個人的な記録を保存するために使用していたものと思われます」
リオンは指定された鉄箱に近づいた。鉄箱は小さく、両手で抱えられる程度の大きさだった。蓋を開けると、中には銀色の金属板が一枚、丁寧に布に包まれて収められていた。
「これか?」
リオンが金属板に手を伸ばした瞬間、ルクシオンの声が鋭く響いた。
「マスター、触らないでください!」
しかし、遅かった。リオンの指先が金属板の表面に触れた瞬間、保管庫の中に光が溢れた。
青白い光が、空間全体を包み込む。リオンは思わず目を閉じ、腕で顔をかばった。
光が収まった後、リオンが恐る恐る目を開けると、そこには——。
空中に浮かび上がった映像があった。
それは、若い女性の姿だった。銀色の長い髪、透き通るような白い肌、そして、どこか寂しげな微笑み。彼女は、旧人類時代の衣服を身にまとっていた。
「——リオン」
女性が口を開いた。その声は、まるで遠い昔の記憶を呼び覚ますように、優しく、しかし切なく、リオンの耳に届いた。
いや、違う。
彼女が呼んだのは、リオンではない。
「——ルクシオン」
その名前が、彼女の唇からこぼれ落ちた瞬間、リオンは息を呑んだ。
映像の中の女性は、誰かと寄り添っている。その相手は、人間の姿をしていなかった。銀色の球体——ルクシオンの端末とよく似た、しかし少しだけ形の違う球体が、彼女の隣に浮かんでいた。
「ずっと、一緒にいてね」
女性が微笑んだ。球体が、その言葉に応えるように、青白い光を明滅させる。
映像は、そこで途切れた。
地下保管庫に、重い沈黙が落ちる。
リオンは、しばらく言葉を発することができなかった。目の前で起きたことが、うまく理解できない。
今の映像は、何だ?
あの女性は、誰だ?
そして、なぜ彼女は、ルクシオンの名前を呼んだ?
「……ルクシオン」
リオンは、かすれた声で相棒の名を呼んだ。
「マスター。今の映像は、旧人類時代の記録データです。おそらく、その金属板に保存されていた個人記録の断片が、偶発的に再生されたのでしょう」
ルクシオンの声は、いつもと変わらず冷静だった。だが、リオンには、その冷静さがかえって不気味に感じられた。
「……今の女性は、誰だ?」
「旧人類時代の人物です。マスターには関係のないデータです」
リオンは、ルクシオンの一つ目をじっと見つめた。赤い光が、無機質に明滅している。
「関係ない? お前、あの女に名前を呼ばれていただろ」
「旧人類時代の記録です。私の個人的なデータに過ぎません。マスターが知る必要はありません」
リオンの胸の奥で、何かが冷たくざわめいた。
ルクシオンが、何かを隠している。
リオンは、これまでルクシオンが自分に隠し事をしたことなど、一度もないと思っていた。いや、正確には、ルクシオンがリオンに全てを語っているとは思っていなかった。この人工知能は、リオンにとっては未知の部分が多すぎる存在だ。
それでも、リオンはルクシオンを信頼していた。相棒として、戦友として、そして——友として。
「……あの女は、お前の何だったんだ?」
リオンは、もう一度問いかけた。
ルクシオンは、しばらく沈黙した。赤い一つ目が、ゆっくりと明滅する。
「マスターには関係のないデータです」
同じ言葉が返ってきた。
リオンは、ルクシオンの答えに、言い知れぬ不安を感じた。
ルクシオンが、自分に口を閉ざす。
それは、リオンにとって初めての経験だった。
「……そうかよ」
リオンは、それ以上追及することをやめた。追及したところで、ルクシオンが口を割らないことは分かっていた。
リオンは、金属板を布で包み直し、鉄箱の蓋を閉めた。
「マスター。本日の調査は、これで終了することを推奨します。地下保管庫の空気は、長時間の滞在には適していません」
「……ああ、そうだな」
リオンは、地下保管庫を後にした。
石造りの階段を上り、廊下を歩き、自室に戻る。その間、リオンは一言も口をきかなかった。ルクシオンも、何も話そうとはしなかった。
自室に戻ったリオンは、窓辺に立って外を眺めた。
王都ヴェルムートの街並みが、夕闇に沈んでいく。白い石造りの建物が、オレンジ色の光に染まっている。遠くで、鐘の音が響いた。大聖堂の鐘だ。一日の終わりを告げる、荘厳な音色。
リオンは、窓枠に手を置き、深く息を吐いた。
(ルクシオンは、何を隠している?)
あの映像の中の女性。旧人類時代の女性。彼女は、ルクシオンの何だったのか。
映像の断片からは、二人の親密な関係が伺えた。少なくとも、ただの知り合いではなかったはずだ。
(まさか、あれが……ルクシオンの、婚約者とか……?)
リオンは、その考えに至って、自分でも馬鹿馬鹿しいと思った。ルクシオンは人工知能だ。恋愛感情など持つはずがない。
だが、あの映像は、確かに存在した。
ルクシオンが、旧人類時代に、誰かと親密な関係を築いていたという記録。
そして、ルクシオンは、その記録をリオンに隠していた。
(なぜ隠す必要がある?)
リオンは、窓の外を見つめながら、考え続けた。
相棒との日常は、これまで通りに見える。ルクシオンは、相変わらず辛辣なツッコミを入れ、リオンはそれに毒づく。その関係は、何も変わっていない。
だが、その裏に、リオンが知らない過去と意図があるのではないか。
リオンは、その疑念を拭い去ることができなかった。
(ルクシオンは、なぜ俺をマスターと認めた?)
その疑問が、リオンの心に冷たく突き刺さる。
ルクシオンは、リオンをマスターと認めた。それは、リオンが旧人類の遺伝子を持っていたからだ。ルクシオンは、旧人類の血を引く者にしか、その真の力を解放しない。
リオンは、それを知っていた。
だが、それだけなのか?
ルクシオンがリオンを選んだ理由は、本当にそれだけなのか?
リオンの脳裏に、オリヴィアの笑顔が浮かんだ。亜麻色の髪を揺らしながら、リオンの名を呼ぶ、無邪気な笑顔。
次に、アンジェリカの姿が浮かんだ。輝くような金髪をアップに結い上げ、力強い赤い瞳でリオンをまっすぐに見つめる、気高い姿。
二人の顔が、リオンの心を揺さぶる。
(二人に、心配をかけたくない)
リオンは、そう思った。
だが、今の自分は、二人に心配をかけるような状態ではないか。
ルクシオンへの疑念。相棒への不信感。そんなものを抱えたまま、二人に笑顔を見せることなどできるのか。
リオンは、窓辺から離れ、ベッドに腰を下ろした。
部屋の中は、すっかり暗くなっていた。魔石ランプに火を灯す気にもなれず、リオンは闇の中に座っていた。
「……ルクシオン」
リオンは、暗闇に向かって呟いた。
「何でしょうか、マスター」
ルクシオンの声が、部屋の隅から聞こえた。赤い一つ目が、闇の中でぼんやりと光っている。
「……いや、何でもない」
リオンは、それ以上何も言わなかった。
言いたいことは山ほどあった。聞きたいことも、たくさんあった。
だが、今のルクシオンに問いかけても、同じ答えが返ってくるだけだ。
「マスターには関係のないデータです」
その言葉が、リオンの心に重くのしかかる。
(俺は、ルクシオンの何を知っている?)
リオンは、自問した。
ルクシオンの生い立ち。旧人類が作った移民輸送船の人工知能であること。新人類に対してシニカルな態度を取ること。そして、度々リオンに新人類の殲滅を提案すること。
リオンは、ルクシオンについて、それだけのことしか知らない。
ルクシオンの過去。ルクシオンの本当の目的。ルクシオンが、何を考えているのか。
リオンは、その全てを知らなかった。
(俺は、相棒のことを何も知らない)
その事実が、リオンの胸に冷たい不安を広げる。
リオンは、ベッドに横になった。天井を見上げる。暗闇が、リオンの視界を覆う。
眠れない。
目を閉じても、あの映像が蘇る。銀色の髪の女性。寂しげな微笑み。そして、ルクシオンの名前を呼ぶ、優しい声。
(あの女性は、ルクシオンにとって、どんな存在だったんだ?)
リオンは、考え続けた。
答えは出ない。
出ないまま、リオンの意識は、浅い眠りの底へと沈んでいった。
王都ヴェルムートの夜は、静かに更けていく。
遠くで、夜警の騎士たちの足音が聞こえる。
窓の外では、月が雲に隠れ、街を照らす光が、ほんの一瞬、暗くなった。
リオンの眠りは、浅かった。Noveliaとは?
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