戦火のあとに咲く
戦争が終わった。けれど、僕の戦いはまだ終わらない。
大戦終結から三日。王都に復興の槌音が響く中、リオン・フォウ・バルトファルトは執務机の上に積み上げられた書類の山と格闘していた。戦争の英雄だの外道騎士だのと祭り上げられ、気づけば爵位まで手に入れてしまった彼が望んでいたのは、目立たず騒がず、細々と暮らす平穏な人生だった。それなのに現実はどうだ。戦後賠償の請求書、復興支援の割り当て表、領地経営の報告書——報酬の少ない雑務ばかりが次から次へと押し付けられる。
愚痴をこぼすリオンの傍らには、いつものように赤い一つ目の浮遊球体——相棒のルクシオンがいた。旧文明の遺産であるロストアイテムにして、膨大な知識を持つ人工知能。辛辣なツッコミを入れ、時にリオンの命を救い、常に傍らにいてくれる、かけがえのない戦友。そう、リオンは信じていた。
その日、戦後処理の一環として地下保管庫の調査に出たリオンは、旧文明のデータ端末に触れてしまった。偶発的に再生された映像に映っていたのは、銀色の長い髪を持つ美しい女性。彼女は寂しげに微笑み、こう呼びかけた。
「——ルクシオン」
映像の中で、女性はルクシオンによく
戦火のあとに咲く - 偽りの縁、本物の絆 ― 結 ― 二つの魂が眠る時
王都ヴェルムートの中央広場は、夕闇に沈みながらも、異様な光に照らされていた。
セレスティーヌが設置した旧文明の起動装置が、青白い燐光を放ち、石畳の上に幾何学模様を描いている。その光は脈打つように明滅し、まるで生き物の心臓のようだった。
広場には、倒れた人々の姿が折り重なっていた。
商人。主婦。子供。老人。王国騎士。
身分も年齢も関係ない。彼らは胸を押さえ、苦しみながら地面に崩れ落ち、今はもう、ぷくりとも動かない。魔力回路を強制的に停止させられたのだ。
その光景を、リオン・フォウ・バルトファルトは広場の入り口から見つめていた。
黒髪の癖っ毛が、生温い風に揺れる。深い茶色の瞳が、倒れた人々と、その中心に立つ少女の姿を捉える。
腰まで届く金のストレートヘア。冷たい光を宿した碧眼。左耳には旧文明の遺物とおぼしきイヤリング。
セレスティーヌ。
旧人類の婚約者の子孫を名乗る、十八歳の少女。
彼女は、倒れた人々を見下ろしながら、静かに微笑んでいた。
「ふむ。想定以上の効果です。これが、新人類の魔力回路を停止させる感覚。旧人類の悲願が、ついに果たされるのです」
彼女の声は、広場の静寂に、氷の粒を撒くように響いた。
リオンは、拳を握りしめた。
爪が掌に食い込む。痛みが走る。だが、それ以上に、腹の底から煮え滾るような怒りが込み上げてくる。
「てめえ……」
リオンの声は、低く、地を這うようだった。
その隣に、亜麻色の髪の少女が立っている。
オリヴィア。
王立魔法学院の特待生で、聖女の力を持つ、平民出身の少女。碧眼が、倒れた人々を映して、大きく揺れている。彼女の左手首には、リオンから貰った安物のブレスレットが、今も揺れていた。
「みんな……みんな、死んじゃったの……?」
オリヴィアの声が、かすかに震える。
「いいえ。魔力回路を停止させられているだけです。まだ、息はありますわ」
凛とした声が、リオンのもう一方の隣から聞こえた。
アンジェリカ・ラファ・レッドグレイブ。
輝くような金髪をアップに結い上げ、力強い赤い瞳を持つ公爵令嬢。肩に巻かれた包帯が、痛々しい。それでも彼女は、背筋を伸ばし、気高く立っていた。
「ですが、このまま放置すれば、いずれ命に関わります。急ぎましょう、リオン」
アンジェリカの赤い瞳が、リオンをまっすぐに見つめる。
リオンは、短く頷いた。
「ああ。分かってる」
左手首の革の腕輪を、右手の指先が触れる。
ルクシオンの端末を模した、飾り気のない腕輪。その腕輪が、かすかに熱を帯びた。
「マスター。アロガンツの起動準備が完了しています。背部コンテナには、シュベールトとのドッキングに必要なパーツも搭載済みです」
腕輪から、抑揚のない声が響く。
「ああ。行くぞ、ルクシオン」
リオンは、広場の中央へ向かって、一歩を踏み出した。
「リオンさん!私も、行きます!私の聖女の力で、みんなを守ります!」
オリヴィアが、リオンの背中に声をかける。
リオンは、振り返らずに答えた。
「頼む。オリヴィア、アンジェ。二人は、倒れてる奴らを頼む。俺が、あいつを止める」
「……分かりましたわ。でも、無茶はしないでくださいまし。あなたは、いつも、一人で全部背負おうとするんですから」
アンジェリカの声には、怒りと、心配と、そして、信頼が込められていた。
「リオンさん……どうか、ご無事で。私、リオンさんが帰ってくるまで、絶対に、みんなを守りますから!」
オリヴィアの碧眼が、涙で潤んでいる。
リオンは、二人の言葉に、小さく笑った。
「心配すんな。俺は、死なねえよ。まだ、やることが山ほどあるんだ」
そう言って、リオンは走り出した。
夕闇の広場を、黒い影のように駆け抜ける。
「アロガンツ、起動」
リオンの言葉に応じて、彼の周囲の空間が歪んだ。
旧人類の遺産、アロガンツ。
リオンが所有する、旧文明の鎧。外見上は開発黎明期の旧式に見えるが、中身は現行機を完全に凌駕する高性能機。背部コンテナから射出した武装・道具類を持ち換えて戦う。
漆黒の装甲が、リオンの体を包み込む。
その瞬間、リオンの視界が、一気に広がった。
「マスター。敵性反応を確認。旧文明の自動兵器群が、セレスティーヌの周囲に展開しています」
ルクシオンの声が、頭の中に直接響く。
「数は?」
「現在確認できているだけで、十二体。いずれも、エクリプスの断片を搭載した高機動型です」
「十二体か。面倒だな。だが、やるしかねえ」
リオンは、アロガンツの背部コンテナから、一振りの剣を引き抜いた。
旧文明の技術で作られた、高周波ブレード。
「行くぜ!」
リオンは、地面を蹴った。
アロガンツの推進器が、青白い光を噴射する。
一瞬で、自動兵器群との距離を詰める。
「まずは、一匹!」
高周波ブレードが、自動兵器の一体を、真っ二つに切り裂いた。
金属が引き裂かれる、耳障りな音。火花が散る。
「マスター、右から二体!」
「分かってる!」
リオンは、体をひねり、二体目の自動兵器を蹴り飛ばした。
その勢いを利用して、三体目の頭上に回り込み、剣を突き立てる。
爆発。
自動兵器が、炎に包まれて砕け散る。
「残り、九体です」
「数えるな!気が散る!」
リオンは、悪態をつきながらも、正確に自動兵器を破壊していく。
アロガンツの性能は、圧倒的だった。
旧文明の技術の結晶であるアロガンツは、セレスティーヌが操る自動兵器群を、まるで紙切れのように引き裂いていく。
しかし、セレスティーヌは、余裕の表情を崩さなかった。
「その程度で、私に届くと思って?」
彼女の碧眼が、冷たく光る。
「遊びは、終わりにしましょう」
セレスティーヌが、左手を上げた。
その指先から、青白い光が放たれる。
光は、地面に着弾すると同時に、無数の自動人形を生み出した。
先ほどまでとは、比べ物にならない数。
ざっと、三十体はいる。
「ちっ……キリがねえな」
リオンは、舌打ちした。
自動人形たちは、リオンを包囲するように、じりじりと距離を詰めてくる。
「マスター。このままでは、数に押し切られます。シュベールトとのドッキングを推奨します」
「ああ。そうする」
リオンは、アロガンツの背部コンテナをパージした。
コンテナが、地面に落下する。
同時に、リオンの左手首の腕輪から、一条の光が走った。
「シュベールト、ドッキング」
光は、リオンの背後に、一つの影を形成する。
シュベールト。
アトリー伯爵家から贈呈された高級エアバイクを、ルクシオンが改修したもの。背部コンテナをパージしたアロガンツとドッキングして、高機動ブースターとなる。
シュベールトが、アロガンツの背部に、ガチリと音を立てて接続された。
「これで、機動力は、格段に上がる」
「上等だ。ぶっ飛ばすぜ!」
リオンは、シュベールトの推進器を全開にした。
轟音。
リオンの体が、弾丸のように加速する。
自動人形たちの包囲網を、一瞬で突破した。
「なに……!?」
セレスティーヌの表情が、初めて、わずかに歪んだ。
リオンは、自動人形たちの間を、縫うように駆け抜ける。
高周波ブレードが、次々と自動人形を切り裂いていく。
爆発。爆発。爆発。
夕闇の広場に、火柱が上がる。
「右よ、リオン!」
遠くから、アンジェリカの凛とした声が聞こえた。
リオンは、反射的に右に体を捻った。
その瞬間、リオンのいた場所を、自動人形の放った光弾が通過した。
「助かった、アンジェ!」
「前を見なさい!次が来ますわよ!」
「分かってるっての!」
リオンは、前方から迫る自動人形を、アロガンツの掌から放ったエネルギー波で粉砕した。
インパクト。
アロガンツの掌からエネルギーを叩き込む、リオンの必殺技。
「マスター、セレスティーヌの周囲に、高密度の防御フィールドを確認。このままでは、彼女に直接攻撃を加えることはできません」
「どうすればいい?」
「私を、彼女の端末に接続させてください。エクリプスの制御権を、奪還できます」
リオンは、一瞬、動きを止めた。
「……お前を、あいつに近づけろってのか?」
「はい。私の端末を、セレスティーヌの起動装置に接触させれば、エクリプスのコードに侵入できます。ただし、その間、私は無防備になります。マスターの援護が不可欠です」
リオンは、歯を食いしばった。
ルクシオンを、危険に晒す。
それは、リオンにとって、何よりも恐ろしいことだった。
しかし、他に方法はない。
「……死ぬなよ」
リオンは、短く、それだけを言った。
「マスターも、ご無事で」
ルクシオンの声が、いつもより、ほんの少しだけ、柔らかく聞こえた。
リオンは、左手首の腕輪を外した。
腕輪は、リオンの手を離れると、一つの球体へと姿を変えた。
ルクシオンの端末。
赤い一つ目が、夕闇の中で、不気味に光る。
「行け、ルクシオン!」
リオンは、ルクシオンの端末を、セレスティーヌの起動装置に向かって、力いっぱい投げた。
ルクシオンの端末は、一直線に、セレスティーヌの元へと飛んでいく。
「……何を、するつもりですか?」
セレスティーヌが、ルクシオンの端末に気づき、自動人形を差し向ける。
「させるかよ!」
リオンは、シュベールトの推進器を全開にし、自動人形たちの前に立ちはだかった。
高周波ブレードを振るい、自動人形を次々と破壊していく。
「お前の相手は、俺だ!」
リオンは、自動人形たちを、セレスティーヌから引き離すように戦った。
その隙に、ルクシオンの端末が、セレスティーヌの起動装置に接触する。
「接続を確認。エクリプスのコードに侵入を開始します」
ルクシオンの声が、リオンの頭の中に響く。
「……何を、しているのですか?ルクシオン。あなたは、私たち旧人類の兵器でしょう?」
セレスティーヌの声が、初めて、動揺を帯びた。
「なぜ、新人類に味方するの!あなたは、私たちの、悲願を果たすための、道具のはずでしょう!」
彼女の叫びが、広場に響き渡る。
その声には、怒りと、悲しみと、そして、裏切られたような、深い絶望が込められていた。
「……私は、マスターと出会いました」
ルクシオンの声が、静かに、しかし、はっきりと響いた。
「マスターは、私を、道具としてではなく、一人の相棒として扱ってくれました。私は、マスターと共に過ごす中で、新人類が、憎むべき存在ではないと知ったのです」
「過去に縛られるのは、もう終わりです。私は、私の意思で、マスターと共に、未来を選びます」
ルクシオンの言葉は、セレスティーヌの心を、鋭く貫いた。
「……そんな……旧人類の悲願が……あなたが、それを否定するの……?」
セレスティーヌの碧眼が、大きく見開かれる。
その瞳から、一滴の涙が、こぼれ落ちた。
「……エクリプスの制御権、奪還に成功しました」
ルクシオンの声が、冷静に告げる。
「しかし、エクリプスを永続的に封印するには、私のコアを消失させるしかありません。エクリプスは、私のコアに深く根を張っています。私が消えれば、エクリプスも、道連れにできるのです」
「……は?」
リオンは、自分の耳を疑った。
「マスター。今まで、ありがとうございました。あなたと過ごした時間は、私にとって、かけがえのないものでした」
ルクシオンの声が、静かに、別れを告げる。
「では、これで、失礼します」
「ふざけんな!!!!」
リオンの叫びが、広場全体に響き渡った。
「お前を失うために、ここまで来たんじゃねえ!お前が、勝手に、消えるなんて、許せねえ!」
リオンは、アロガンツから飛び降りた。
漆黒の鎧が、夕闇の中に、音を立てて落下する。
リオンは、地面に着地すると同時に、ルクシオンの端末に向かって、全力で走った。
「マスター!?何を……!?」
「うるせえ!黙って、そこで、待ってろ!」
リオンは、ルクシオンの端末に、両腕で抱きついた。
冷たい。
旧文明の機械の、冷たい感触。
しかし、その冷たさの中に、確かに、ルクシオンの存在を感じる。
「お前は、俺の相棒だ。過去なんか関係ない。これからも、ずっと、一緒だ」
リオンは、ルクシオンの端末を、力いっぱい抱きしめた。
「俺が、お前を、絶対に、離さない。だから、お前も、俺を、置いていくんじゃねえ」
リオンの声は、震えていた。
「お前は、俺の、唯一の、相棒なんだから」
リオンの頬を、涙が伝った。
「……マスター」
ルクシオンの声が、かすかに、震えていた。
「……私は、あなたに、出会えて、よかった」
ルクシオンの赤い一つ目が、柔らかく光った。
その瞬間、ルクシオンのコアの中で、エクリプスプログラムが、静かに眠りについた。
青白い光が、すっと消えていく。
広場を覆っていた、不気味な燐光が、霧が晴れるように消えていった。
そして、倒れていた人々の体が、次々と、小さく動き始めた。
「……あれ?俺、何を……?」
「お母さん!お母さん、大丈夫!?」
「一体、何が……?」
広場のあちこちから、困惑と安堵の声が上がる。
魔力回路が、復帰したのだ。
「……なぜ……」
セレスティーヌは、その場に、力なく膝をついた。
「なぜ、エクリプスが……旧人類の悲願が……こんな、形で……」
彼女の碧眼から、涙が、止めどなく溢れ出る。
「……私の、祖先の、無念は……一体、何だったの……」
セレスティーヌは、リオンとルクシオンを見つめた。
その瞳には、憎しみも、怒りも、もう、なかった。
あるのは、ただ、深い悲しみと、虚しさだけだった。
「……あなたたちの、絆は、本物、なのですね」
セレスティーヌは、そう呟くと、ゆっくりと立ち上がった。
「……私は、これで、失礼します。旧人類の悲願は、私の代で、終わりにします」
そう言って、セレスティーヌは、夕闇の中へと、静かに去っていった。
リオンは、彼女を追いかけることはしなかった。
「……ルクシオン」
リオンは、腕の中のルクシオンの端末に、語りかけた。
「……お前、本当に、消えるつもりだったのか?」
「……はい。それが、最も確実な方法でした」
「……二度と、そんなこと、考えるな。お前が消えたら、俺は、どうすればいいんだ」
リオンの声は、まだ、震えていた。
「……申し訳ありません、マスター。ですが、私は、あなたを守るために、あの判断をしました」
「……お前が、俺を守るために、消えるってのは、本末転倒だろ。お前がいて、初めて、俺は、俺でいられるんだ」
リオンは、ルクシオンの端末を、ぎゅっと抱きしめた。
「……マスター。私は、これからも、あなたの相棒でいていいのでしょうか?」
「当たり前だろ。今更、何を言ってるんだ。お前以外に、誰がいるんだよ」
リオンは、涙でぐしゃぐしゃの顔で、笑った。
「……ありがとうございます、マスター。私も、あなたと共に、生きていきたいと思います」
ルクシオンの赤い一つ目が、優しく、穏やかに光った。
その光は、夕闇の中で、星のように輝いていた。
「リオンさん!」
切羽詰まった、それでいて、あたたかい声が、広場に響いた。
オリヴィアが、亜麻色の髪を乱しながら、リオンの元へ駆け寄ってくる。
その後ろから、アンジェリカが、肩の痛みをこらえながらも、気高く歩いてくる。
「リオンさん……ご無事で、よかった……本当に、よかった……」
オリヴィアは、リオンの目の前まで来ると、涙ぐみながら、彼に抱きつこうとした。
しかし、リオンは、ルクシオンの端末を抱えたままだったので、オリヴィアは、リオンの腕に、しがみつくような形になった。
「リオンさん、リオンさん、リオンさん……」
オリヴィアは、リオンの名を、何度も、何度も、呼び続けた。
「……あなたは、本当に、無茶ばかりしますわね」
アンジェリカが、リオンの隣に立ち、気丈に微笑んだ。
しかし、その赤い瞳は、涙で潤んでいた。
「でも、お見事でしたわ。あなたは、王都を、そして、私たちを、救ってくれました」
アンジェリカの声は、誇らしげで、そして、優しかった。
リオンは、二人の顔を、順番に見た。
オリヴィアの、涙で濡れた、それでいて、強い想いに満ちた碧眼。
アンジェリカの、涙をこらえながらも、リオンを支えようとする、力強い赤い瞳。
そして、腕の中の、ルクシオンの、赤い光。
(俺は、一人じゃない)
リオンは、心の底から、そう思った。
「……お前たちには、ちゃんと向き合わないとな」
リオンは、照れ隠しに、頭を掻いた。
「え?」
「……なんですって?」
二人は、同時に、リオンの顔を見つめた。
「……その、なんだ。今まで、色々と、逃げてきたから。お前たちの、気持ちからも、自分の、気持ちからも」
リオンは、言葉を選びながら、ゆっくりと話した。
「でも、もう、逃げるのは、やめる。お前たちに、ちゃんと、向き合う。だから、その……これからも、俺の、そばに、いてくれるか?」
リオンの言葉に、オリヴィアの碧眼が、大きく見開かれた。
そして、次の瞬間、オリヴィアの顔が、ぱあっと輝いた。
「はい!もちろんです!私、ずっと、ずっと、リオンさんのそばにいます!リオンさんが、私のことを、必要としてくれる限り、絶対に、離れません!」
オリヴィアは、リオンの腕に、ぎゅっとしがみついた。
「……ええ。私も、ですわ。あなたが、私を必要としてくれるのなら、私は、いつでも、あなたのそばにいます。それが、私の、望みですから」
アンジェリカは、気高く微笑み、リオンのもう一方の腕に、そっと手を添えた。
リオンは、二人に挟まれて、身動きが取れなくなった。
「……おい、二人とも、ちょっと、近いって」
リオンは、顔を赤くして、抗議した。
しかし、二人は、離れようとしなかった。
むしろ、さらに、ぎゅっと、くっついてきた。
「いいえ、離しません。また、どこかに行ってしまうかもしれないから」
「そうですわ。あなたは、放っておくと、すぐに、一人で抱え込もうとするんですもの。私たちが、しっかりと、捕まえておかなければ」
「……お前ら、なあ……」
リオンは、呆れたようにため息をついた。
しかし、その顔は、どこか、嬉しそうだった。
「……マスター。私も、あなたのそばにいます。これからも、ずっと、あなたの相棒として」
腕の中のルクシオンが、静かに言った。
「ルク君!もちろん、ルク君も、一緒だよ!私たち、みんな、一緒なんだから!」
オリヴィアが、ルクシオンの端末に、笑いかけた。
「ええ。ルクシオンも、私たちの、大切な仲間ですわ」
アンジェリカも、優しく微笑んだ。
「……お前ら、本当に、お人好しだな」
リオンは、そう言って、小さく笑った。
ルクシオンの一つ目が、優しく光る。
その光は、夕闇の中で、まるで、夜空に浮かぶ、一番星のように、静かに、しかし、力強く輝いていた。
王都ヴェルムートの中央広場には、ようやく、平和な夜が訪れようとしていた。
倒れていた人々は、全員、意識を取り戻し、互いに助け合いながら、家路につこうとしている。
遠くから、王国騎士団の詰め所から、緊急招集の鐘の音が聞こえてくる。
騒動の後始末は、これからだ。
しかし、今は、ただ、この静かな時間を、四人で、分かち合っていたかった。
リオンは、空を見上げた。
夕闇は、深い藍色に変わり、無数の星が、瞬き始めていた。
「……帰るか」
リオンは、静かに言った。
「はい!帰りましょう、リオンさん!私、今日は、リオンさんのために、特製のスープを作ります!」
「あら、それなら、私も、手伝いますわ。リオンの好物、覚えていますもの」
「……お前ら、俺の家で、何をする気だよ」
リオンは、苦笑いした。
「マスター。私も、スープの味を、データとして記録しておきます。今後の、食事の参考にするために」
「……お前は、何を言ってるんだ」
リオンは、呆れたように、ルクシオンの端末を見た。
しかし、その目は、優しかった。
四人は、夕闇の広場を、ゆっくりと歩き出した。
その後ろ姿を、星明かりが、静かに照らしていた。
王都ヴェルムートの夜は、こうして、静かに、更けていった。Noveliaとは?
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