戦火のあとに咲く
戦争が終わった。けれど、僕の戦いはまだ終わらない。
大戦終結から三日。王都に復興の槌音が響く中、リオン・フォウ・バルトファルトは執務机の上に積み上げられた書類の山と格闘していた。戦争の英雄だの外道騎士だのと祭り上げられ、気づけば爵位まで手に入れてしまった彼が望んでいたのは、目立たず騒がず、細々と暮らす平穏な人生だった。それなのに現実はどうだ。戦後賠償の請求書、復興支援の割り当て表、領地経営の報告書——報酬の少ない雑務ばかりが次から次へと押し付けられる。
愚痴をこぼすリオンの傍らには、いつものように赤い一つ目の浮遊球体——相棒のルクシオンがいた。旧文明の遺産であるロストアイテムにして、膨大な知識を持つ人工知能。辛辣なツッコミを入れ、時にリオンの命を救い、常に傍らにいてくれる、かけがえのない戦友。そう、リオンは信じていた。
その日、戦後処理の一環として地下保管庫の調査に出たリオンは、旧文明のデータ端末に触れてしまった。偶発的に再生された映像に映っていたのは、銀色の長い髪を持つ美しい女性。彼女は寂しげに微笑み、こう呼びかけた。
「——ルクシオン」
映像の中で、女性はルクシオンによく
戦火のあとに咲く - 偽りの縁、本物の絆 ― 転 ― 絶望の医療院と旧人類の血
医療院の空気は、消毒薬と古い血の匂いが混ざり合って、鼻の奥にへばりつくようだった。
窓から差し込む朝の光が、白いシーツの上に横たわるアンジェリカの顔を、ひどく冷たく照らしている。包帯が巻かれた肩から胸元にかけて、赤黒い染みがじわりと滲んでいた。
リオン・フォウ・バルトファルトは、硬い木の椅子に座ったまま、一睡もできずにいた。
彼の茶色い瞳は、アンジェリカの顔から、その染みへ、そしてまた彼女の顔へと、何度も何度も行きつ戻りつする。
(俺の、判断の甘さが……これだ)
左手首の革の腕輪を、右手の指先が無意識に探る。ルクシオンの端末を模した、飾り気のない腕輪。その感触が、昨夜の恐怖をまざまざと呼び覚ます。
路地裏に現れた、あの自動人形。エクリプスの断片。アンジェリカが、リオンを庇って、その一撃を受けた。
肉が裂け、骨が砕ける、鈍い音。血の匂い。アンジェリカの苦痛に歪んだ顔。
それらが、フラッシュバックのように、リオンの脳裏を何度も焼く。
「……くそっ」
リオンは、拳を握りしめた。爪が掌に食い込み、小さく痛みが走る。この痛みで、少しでも罪悪感が紛れるなら、どんなに楽か。
拳は、白くなり、小刻みに震えていた。
「マスター。無理に起きている必要はありません。睡眠不足は、判断力の低下を招きます」
腕輪から、抑揚のない声が聞こえる。ルクシオンの声だ。いつもと同じ、冷たく、機械的な声。
だが、リオンはその声に、今はどうしても苛立ちを覚えてしまう。
「うるせえ。お前に何が分かる」
リオンの声は、自分でも驚くほど、とげとげしかった。
「マスターの感情を理解することはできません。しかし、肉体の疲労は数値として計測可能です。休息を推奨します」
「だから、うるせえって言ってるんだよ」
リオンは、吐き捨てるように言った。
ルクシオンは、それ以上何も言わなかった。
沈黙が、病室を満たす。
外から、朝市の準備をする商人たちの、どこか暢気な声が聞こえてくる。馬車の車輪が石畳を軋ませる音。鳥のさえずり。
世界は、何もなかったかのように、いつも通りに動いている。
それが、リオンには、たまらなく腹立たしかった。
(なんで、俺のせいで、アンジェが……)
リオンは、アンジェリカの手を取ろうとして、ためらった。
彼女の手は、シーツの上に投げ出されている。白く、細く、そして、かすかに冷たい。
リオンは、自分の手が、彼女に触れることを、恐れていた。
(俺みたいな奴が、触れていい相手じゃない)
その時だった。
医療院の廊下に、冷たい足音が響き始めた。
カツ、カツ、カツ。
一定のリズムで、近づいてくる。
その足音は、病院の静寂を、わざと踏みにじるかのように、無遠慮で、傲慢だった。
リオンは、顔を上げた。
病室の扉の向こう。
すりガラス越しに、人影が浮かび上がる。
ゆっくりと、扉が開かれた。
そこに立っていたのは、一人の少女だった。
腰まで届く、金のストレートヘア。
冷たい光を宿した、碧い瞳。
左耳には、旧文明の遺物とおぼしき、奇妙な形のイヤリング。
セレスティーヌ。
旧人類の婚約者の子孫を名乗る、謎の少女。
彼女は、病室の空気を、一瞬で凍りつかせた。
リオンは、椅子から立ち上がり、彼女と対峙した。
「……ご機嫌よう、リオン・フォウ・バルトファルト」
セレスティーヌの声は、氷の刃のように、鋭く、冷たかった。
「てめえ……なんで、ここに」
リオンは、低く唸るように言った。
「なぜ? それは、あなたに用があるからです。単純なことでしょう?」
セレスティーヌは、リオンの殺気など、まったく意に介していない様子だった。
彼女は、病室の中へと、一歩、足を踏み入れた。
「ここは医療院です。無関係の人間が立ち入る場所ではありません。お引き取りください」
腕輪から、ルクシオンの声が響く。
セレスティーヌは、リオンの左手首にある腕輪へと、碧い視線を向けた。
その瞳が、わずかに、細められる。
「……ルクシオン。久しぶりですね。あなたのその姿、旧文明の輝きを、今も失っていないようで、何よりです」
彼女の声には、どこか、旧友に語りかけるような、奇妙な親しみが込められていた。
「あなたに挨拶をされる覚えはありません。私は、あなたを敵性存在と認識しています」
「敵性存在。それは、あなたのマスターである彼が、そう決めたのですか? それとも、あなたの、旧人類の遺産としての判断ですか?」
セレスティーヌは、問いかけた。
ルクシオンは、答えなかった。
リオンは、その沈黙に、言い知れぬ不安を感じた。
「……何が目的だ、セレスティーヌ。用があるなら、さっさと言え」
リオンは、セレスティーヌを睨みつけながら、言った。
「では、単刀直入に申し上げましょう」
セレスティーヌは、背筋を伸ばし、リオンを真っ直ぐに見据えた。
「私は、旧人類の婚約者の子孫、セレスティーヌ。ルクシオンの正統な管理者です。その端末を、私に引き渡してください」
彼女の声は、宣言だった。
「……は?」
リオンは、あまりの言葉に、一瞬、思考が停止した。
「聞こえなかったのですか? ルクシオンを、私に渡せと言っているのです」
「ふざけるな! 誰が渡すかよ! ルクシオンは、俺の相棒だ!」
リオンは、怒鳴り返した。
声が、病室に響き渡る。
「相棒、ですか。それは、あなたの一方的な思い込みに過ぎません。ルクシオンが、あなたをマスターと認めているのは、ただの機能上の都合です」
セレスティーヌは、冷たく言い放った。
「……なにを、言ってやがる」
「知らないのですか? ルクシオンが、あなたをマスターと認識したのは、あなたの肉体に、わずかながら旧人類の遺伝子が残っていたからです。それだけの理由です」
セレスティーヌの言葉が、リオンの胸に、深く、深く、突き刺さった。
(旧人類の、遺伝子……?)
リオンは、息を呑んだ。
「ルクシオンは、旧人類の遺産です。その主人は、旧人類の血を引く者であるべき。あなたは、たまたま、その遺伝子を持っていた。ただの、器に過ぎないのです」
「……違う」
リオンは、絞り出すように言った。
「違う。俺とルクシオンは、そんな関係じゃない。戦って、笑って、……相棒なんだよ」
リオンの声は、震えていた。
「それは、あなたの遺伝子が、そう錯覚させているだけです。ルクシオンが、あなたをマスターと呼ぶのは、その遺伝子が、そう命じているから。それ以上でも、それ以下でもありません」
セレスティーヌは、まるで、事実を読み上げるように、淡々と告げた。
リオンは、ルクシオンに、すがるような視線を向けた。
「ルクシオン……お前、反論しろよ。こいつの言ってることは、全部、嘘だって、言ってくれよ」
リオンの声は、ほとんど、懇願だった。
しかし、ルクシオンは、沈黙を守っていた。
腕輪の上で、赤い一つ目が、ゆっくりと明滅する。
だが、その光は、リオンには、いつもより、ずっと冷たく、遠いものに感じられた。
「……ほら、ご覧なさい。彼は、何も言いませんよ。それが、答えです」
セレスティーヌの声が、リオンの心を、容赦なくえぐる。
(なんでだよ、ルクシオン……なんで、何も言わないんだよ)
リオンの心の中に、冷たい虚無が広がっていく。
自分とルクシオンの間に、見えない壁が、音を立てて、そそり立っていくのを感じた。
「さて、リオン。話を戻しましょう。ルクシオンを渡してください。彼の中に眠る、エクリプスを起動すれば、新人類は滅び、旧人類の悲願が成就します。あなたも、旧人類の血を引く者なら、本来は、我々の側にいるべき存在なのですよ」
「誰が、てめえの仲間になるか! そんな、世界を滅ぼすようなことを、させるわけにはいかねえんだよ!」
リオンは、必死に叫んだ。
「そう。残念です。では、あなたの選択肢は、二つです。私に協力するか、それとも……」
セレスティーヌは、そこで言葉を切り、リオンの目を、じっと見つめた。
「この王都を、エクリプスの実験場にされるか」
リオンは、言葉の意味を、理解するのに、数秒を要した。
「……な、に?」
「私は、すでに、王都各地に、エクリプスの断片を仕込んであります。あなたが、ルクシオンを渡さなければ、それらを起動させ、王都の住民、約25万人の魔力回路を、停止させます」
セレスティーヌの声は、冷酷そのものだった。
「魔力回路が停止すれば、どうなるか。あなたなら、分かるでしょう? 魔法に依存する新人類の体は、生命維持すら、危うくなります。子供も、老人も、関係ありません。この街は、静かに、死の都へと変わる」
リオンは、全身の血が、音を立てて、引いていくのを感じた。
「てめえ……本気で、そんなことを!」
リオンは、アロガンツを起動しようと、腕輪に意識を集中させた。
しかし、体が、動かない。
(ダメだ……ここで、戦えば……)
リオンの脳裏に、ベッドで眠るアンジェリカの姿が浮かぶ。
医療院には、他にも、多くの患者がいる。
もし、ここで戦闘になれば、間違いなく、彼らに被害が及ぶ。
「賢明な判断です。今、あなたが私に攻撃を仕掛ければ、その時点で、断片を起動します。あなたの相棒の、演算も、まだ本調子ではないでしょう?」
セレスティーヌは、リオンの心の内を、見透かしたように言った。
リオンは、唇を噛みしめた。
血の味が、口の中に広がる。
「では、返事は、後日、聞きに来ます。それまで、よく考えておくことです。あなたの、その、偽りの絆とやらを、守る価値があるのかどうか」
セレスティーヌは、そう言い残すと、背を向けた。
金の髪が、翻る。
「ああ、それと、一つ、忠告を。あなたが、ルクシオンに、マスターと認められたのは、旧人類の遺伝子があったから。それだけの、ただの器。その事実から、目を背けてはいけませんよ」
最後の言葉を、リオンの胸に、深く突き刺して。
セレスティーヌは、病室から、出て行った。
カツ、カツ、カツ。
冷たい足音が、遠ざかっていく。
静寂が、再び、病室を支配した。
リオンは、その場に、立ち尽くしていた。
足に、力が入らない。
膝が、笑っている。
「……は、はは」
乾いた笑いが、口から漏れた。
(偽りの、絆、か)
(旧人類の、遺伝子。ただの、器)
セレスティーヌの言葉が、頭の中を、ぐるぐると回る。
リオンは、病室を出ると、廊下の壁に、背中を預けた。
ずるずると、体が、床へと、崩れ落ちていく。
膝を折り、床に、拳を、叩きつけた。
ガッ。
鈍い音が、静かな廊下に、響いた。
拳から、血が滲む。
痛みは、あった。
しかし、心の痛みに比べれば、何も感じないに等しかった。
「俺は……何のために、戦ってきたんだよ」
リオンは、うつむいたまま、呟いた。
「ルクシオン……お前にとって、俺は、ただの、都合のいい、道具だったのかよ」
腕輪からの返事は、なかった。
その沈黙が、リオンの心を、さらに深く、暗い穴へと、突き落とす。
「オリヴィアも、アンジェも……俺のことを、助けてくれる。でも、それも、俺が、聖女の力の、抑え役として、都合がいいからか? 公爵家に、恩を売っておきたいからか? ……そうだよな。俺みたいな、小物で、口が悪くて、金に汚い奴を、本気で想う奴なんて、いるわけないんだ」
リオンは、自嘲気味に、笑った。
「……俺は、お前たちにとっても、ルクシオンにとっても、都合のいい、道具でしかないのかもしれない」
その言葉を、口にした瞬間、リオンの心の、何かが、ぷつりと、切れた。
「リオンさん!」
突然、甲高い声が、廊下に響いた。
顔を上げると、亜麻色の髪を乱し、碧い瞳を、涙でいっぱいにした、オリヴィアが、こちらへ、駆け寄ってくるところだった。
彼女は、リオンの前まで来ると、その場に、膝をついた。
「リオンさん! 大丈夫ですか!? 手が、血が……!」
オリヴィアは、リオンの血まみれの拳を、両手で、包み込んだ。
彼女の手は、温かかった。
だが、その温もりが、今のリオンには、痛かった。
「……オリヴィア。来るな。俺に、構うな」
リオンは、オリヴィアの手を、振りほどこうとした。
「いやです! 離しません! リオンさんが、一人で、こんなに苦しんでるのに、私が、離れるわけないじゃないですか!」
オリヴィアは、リオンの手を、強く握りしめた。
「リオンさんのせいじゃない! 私が、もっと早く、リオンさんのそばにいれば……! アンジェリカさんを、一人で、行かせたりしなければ……!」
オリヴィアは、涙を、ぼろぼろと、こぼしながら、訴えた。
「違う……そうじゃないんだ」
リオンは、首を、横に振った。
「そういう、問題じゃ、ないんだよ」
その時、別の声が、聞こえた。
「……リオン」
弱々しい、しかし、凛とした声。
リオンとオリヴィアが、同時に、声のした方へ、顔を向けた。
そこには、病室から、よろめきながら、出てきた、アンジェリカの姿があった。
肩に巻いた包帯から、赤い血が、滲んでいる。
彼女は、看護師に、肩を支えられながらも、その力強い赤い瞳で、リオンを、真っ直ぐに見つめていた。
「アンジェ……お前、動いちゃ、ダメだろ! 傷が、開く!」
リオンは、思わず、立ち上がろうとした。
「黙りなさい! あなたが、そんな顔をしているのに、私が、じっと、寝ていられると、思っているのですか!」
アンジェリカは、一喝した。
その剣幕に、リオンも、オリヴィアも、看護師も、一瞬、言葉を失った。
アンジェリカは、看護師の手を、振りほどくと、ふらふらと、リオンの前まで、歩いてきた。
そして、リオンの目の前で、片膝をついた。
「アンジェ……!」
「リオン。あなたが、ルクシオンと、築いてきた日々は、偽物なんかじゃない。私が、保証しますわ」
アンジェリカは、リオンの目を、じっと見据えて、言った。
彼女の声は、傷の痛みに、かすかに震えていた。
それでも、その言葉は、揺るぎない、真実の重みを持っていた。
「アンジェ……」
リオンの心に、わずかな光が、差し込む。
(そうだ。アンジェが、そう言ってくれる。オリヴィアも、泣いてくれる。……でも)
セレスティーヌの言葉が、再び、リオンの心に、影を落とした。
(お前たちにとっても、都合のいい道具)
「……でも、俺は」
リオンは、うつむいた。
「俺は……お前たちにとっても、ルクシオンにとっても、都合のいい、道具でしか、ないのかもしれない」
リオンは、二人の手を、振りほどこうとした。
「リオンさん! 違います! リオンさんは、私にとって、道具なんかじゃない! 私が、リオンさんを想う気持ちは、本物です!」
オリヴィアが、リオンの腕に、しがみついた。
「ええ、そうですわ! あなたは、いつも、そうやって、一人で、抱え込んで! 私が、どれだけ、あなたに、助けられたと思っているのですか! あなたは、私の、恩人で、……大切な、人です!」
アンジェリカも、リオンの手を、強く握った。
二人の、必死の想いが、リオンの心に、届きかける。
しかし、リオンの心の傷は、深すぎた。
(そうやって、優しくされるほど……俺は、自分が、情けなくなる)
(俺は、二人の、その、真っ直ぐな想いに、応えられるような、人間じゃない)
「……やめてくれ。俺に、構わないでくれ」
リオンは、二人の手を、力なく、振りほどいた。
その時だった。
「……マスター。私は……」
腕輪から、ルクシオンの声が、響いた。
三人は、一斉に、腕輪を見た。
ルクシオンは、何かを言いかけて、しかし、言葉を止めた。
赤い一つ目が、ゆらりと、揺らめく。
「……マスターが、そう思うなら、私は、これ以上、何も言いません」
ルクシオンは、そう言って、沈黙した。
その言葉は、リオンへの、追い打ちだった。
(そうか。お前は、それで、いいんだな)
(俺が、どう思おうと、関係ない。俺が、ただの、道具なら、道具らしく、しておけばいい)
リオンの心は、完全に、閉ざされた。
「……もう、いい。俺は、一人で、どこかへ行く」
リオンは、二人に背を向けた。
「リオンさん!」
「リオン!」
二人の、悲鳴のような声が、背中に突き刺さる。
しかし、リオンは、振り返らなかった。
リオンは、医療院を、飛び出した。
外は、夕暮れだった。
茜色の空が、王都ヴェルムートの街を、赤く染めている。
リオンは、あてもなく、歩き出した。
夕暮れの街は、昼間の喧騒から解放され、どこか、物悲しい空気に包まれていた。
市場の露店は、片付けを始めている。
家路を急ぐ人々の姿が、影のように、伸びていく。
リオンは、人混みを避けるように、裏通りへと、足を向けた。
石畳の道。
古い建物。
路地裏からは、夕食の支度をする、生活の匂いがした。
(俺は、どこへ行けばいいんだ)
(何を、すればいいんだ)
セレスティーヌの脅迫。
王都の住民、25万人の命。
エクリプスの断片。
ルクシオンの沈黙。
そして、自分自身の、存在意義への、疑念。
それらが、リオンの心の中で、渦を巻いていた。
(俺は、どうすれば……)
リオンは、立ち止まった。
夕日に照らされた、自分の影が、長く、地面に伸びている。
その影は、ひどく、小さく、頼りなく見えた。
(でも、逃げるわけには、いかない)
(俺が、逃げたら、王都の人間が、死ぬ)
(オリヴィアも、アンジェも、……ルクシオンも)
リオンは、拳を握りしめた。
傷ついた拳から、再び、血が滲む。
その痛みが、今は、リオンを、現実に、引き戻してくれた。
(俺は、戦わなきゃいけない)
(たとえ、俺が、ただの道具だとしても)
(たとえ、誰にも、認められなくても)
(俺は、俺の、やるべきことを、やるんだ)
リオンは、顔を上げた。
夕日が、リオンの目に、突き刺さる。
その光は、暖かくも、優しくもなく、ただ、無情に、世界を照らし出していた。
王都ヴェルムートの夕暮れは、静かに、しかし、確実に、夜の闇へと、沈んでいこうとしていた。Noveliaとは?
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