氷の相棒と穏やかな日々 〜追放された召喚士、ただ一人の騎士と生きる道〜
氷の相棒と穏やかな日々 〜追放された召喚士、ただ一人の騎士と生きる道〜
三十歳の召喚士グレンは、たった一体のリビングアーマーしか喚び出せないという理由で、Bランクパーティ『紅の牙』を追放される。リーダーのゼクスは冷たく言い放った。「お前の召喚じゃ前線が保たない」。グレンはただ「そうか」とだけ呟き、抗わずに去っていった。
しかし、彼が十五年もの間、全魔力を注ぎ込んできたリビングアーマーは、密かに自我を持つ上位存在――“リビングナイト”へと進化を遂げていた。グレン自身もまた、凄まじい鍛錬の末に通常の魔導士の三倍の魔力容量を有し、敵の動きを阻害する氷結魔法を得意としていた。相棒のリビングナイトは重騎士として振る舞い、絶対零度の斬撃を放つ斧と、主を守る鉄壁の盾を操る。二人の絆は、とうの昔に主従を超え、戦友と呼ぶべきものになっていた。
街外れでひっそりと杖工房を開いたグレンは、そこで天職を見出す。素材と刻印を客の魔力に緻密に調律するその手腕は、駆け出しの火魔法使いアリサや、Bランクの風魔導士クラウスなど、様々な冒険者たちの信頼を集めていった。一方、氷による妨害と盾防御という要を失った『紅の
氷の相棒と穏やかな日々 〜追放された召喚士、ただ一人の騎士と生きる道〜 - 手記と火球
工房の中は、まだ薄暗い朝だった。
窓から差し込む光は弱く、空気はひんやりとしていて、木の匂いと、昨夜まで灯っていた炉の残り香が、静かに混ざり合っている。
グレンは、壁際の棚の前でしゃがみ込んでいた。
手にした麻布で、棚の奥に積もっていた埃を拭っている。開業から数ヶ月。最初はがらんどうだったこの工房も、今では素材の在庫や道具で、棚という棚が埋まってきていた。魔導樹の枝、魔石粉の瓶、刻印用の鏨、革ひもの束。それらが、種類ごとに、彼にしか分からない規則で整然と並べられている。
(そろそろ、この棚も手狭だな)
心の中で呟きながら、一番上の棚に手を伸ばした。
指先が、棚の奥、壁との隙間で、何か固いものに触れる。
「……?」
本、だった。
いや、本というにはあまりに古びている。革の表紙は白く濁り、ところどころ罅割れている。背表紙の文字は擦り切れて、もう何と書いてあるのかも判然としない。明らかに、最近この工房に持ち込まれた物ではない。
グレンはそれを両手で引き出した。革表紙に触れた指に、乾いた感触が伝わる。ざらりとして、それでいて、どこか懐かしい。
数秒間、手のひらの上でその重さを確かめる。
それから、作業台の前に運び、椅子に腰を下ろした。
ギシ、と木が鳴る。
表紙を開いた。
古い紙と革の匂いが、ふわりと立ちのぼった。
最初のページに、見覚えのある名前が記されていた。
アルフレッド・グレイソン。
「……祖父さんの」
掠れた声が、静かな工房に落ちる。
元A級冒険者。生涯現役の剣士で、グレンが物心ついた時には既に引退していたが、その背中はいつも、少年の目にまっすぐに映っていた。
ページを繰る。
古い紙の擦れる音が、時間を遡る。
そこに書かれていたのは、剣士としての狩猟記録だった。日付、場所、獲物の種類。ニーレ川渓谷での岩蜥蜴、灰煙の森の外縁での苔狼、そして、カザルーン山脈南麓での大物——灰熊。どれも、彼が若い頃に経験した依頼の数々だろう。
文字は几帳面で、無駄がなかった。曖昧な表現は一つもなく、事実だけが淡々と記されている。戦闘の経過、相手の弱点、逃げ方、そして、どうすれば生き延びられるか。それは手記であると同時に、一人の剣士が命を懸けて集めた生きた教科書だった。
グレンは、幼い頃、この手記を幾度も読み返したことを思い出していた。
意味の分からない言葉を祖父に尋ねては、その膝の上で、剣の握り方や構え方を教わった。木刀を振り回し、庭の木の枝を相手に、一日中剣士ごっこに興じた。
(いつか、祖父さんみたいに)
それが、少年だった頃の、たった一つの願いだった。
手記の後半。
狩猟記録が終わり、白紙のページが続いた後。
最後の数ページに、狩猟記録とは違う筆致で、しかし確かに同じアルフレッドの文字で、こう記されていた。
『真の強さとは、何も倒すためにあるのではない。真の強さは、他者を護る時にこそ、その輝きを放つ』
『剣を振る手は、誰かの盾の代わりにはなれない。だが、剣を振る意志は、誰かの心の盾になる』
『守りたいものがある限り、その者の剣は折れぬ』
グレンは、その一文を、指先でなぞった。
紙の繊維が、指に絡む。
——十五年前。
十五歳の夏。
街の広場で行われた、魔法適性検査の日。
試験官の声が、まだ耳の奥に残っている。
『剣士適性、なし。召喚士適性、高値』
あの時の、自分でも驚くほど静かな自分の声を。
『……そう、ですか』
その夜、グレンは一晩中、この手記を抱えて泣いた。
部屋の隅で、膝を抱えて、声を押し殺して。
剣士になれない。祖父のような男になれない。誰かの盾になれるどころか、自分は、後ろから魔法で支援することしか許されないのだと。
涙で滲むページの端。
それでも、夜が明ける頃。
グレンは手記を閉じた。
そして、涙の跡が残った顔を上げて、決意したのだ。
剣を振るえなくても、誰かを守る方法を、探そうと。
——。
グレンは、静かに手記を閉じた。
革の表紙が、ぱたん、と小さな音を立てる。
作業台の向こう、工房の隅。
壁際に、リビングジェネラルが立っていた。
蒼黒い重鎧。
クラーゲン坑道での進化から、もう随分と経つというのに、その姿は未だに、夜明けの薄闇の中に、濃い影のように佇んでいる。
兜の奥の蒼い光が、静かに脈打っていた。
グレンは、その兜を見つめながら、ぽつりと呟いた。
「俺は……剣士になりたかったんだよな」
言葉は、誰に届けるでもなく、ただ、工房の空気に溶けていった。
「十五の時に、適性が無いって言われてね。その時はもう、世界が終わったような気分だったよ」
彼は、自分の右手のひらを見た。
無数の小さな傷跡と、たこ。杖の調整を続けてきた、職人の手だ。
「でも、諦めきれなくてさ。前に出ることを、やめたくなかった」
剣が駄目なら、杖で。
誰にも教わらず、ただ、己の身体と、召喚体と、そして魔力だけで。
杖の先端に氷の刃を形成し、槍のように、剣のように、前線へ踏み込む。
笑われた。
魔法師の分際で、と。
それでも、十五年。
ただ、誰かを守るために。
グレンは、右手を握り、開いた。
「……今は、この道で良かったって、そう思えるんだ」
その時だった。
それまで微動だにしなかったリビングジェネラルが、ほんの少しだけ、兜を傾けた。
まるで、グレンの言葉に、静かに耳を傾けるように。
兜の奥で、蒼い光が、一度だけ、強く脈打った。
どくん、と。
心臓の鼓動のように。
グレンは、その光を見つめた。
(ああ、そうか)
心の奥で、何かが静かに落ちていく。
自分は今、杖術という形で、確かに誰かを守る道を選んでいる。
その選択を、もう、否定していない。
グレンは、手記を胸元にしまい込んだ。
そして、作業台に向き直る。
「まあ、いいか。仕事、仕事」
小さく呟いて、木槌を手に取った。
コン、コン、コン。
規則正しい音が、再び工房に響き始める。
——。
午後。
陽射しが、窓から斜めに差し込んでくる時間になった。
工房の扉が、控えめに、ノックされた。
トントン、と、どこか遠慮がちな音。
グレンは、彫刻刀を置き、顔を上げた。
「どうぞ、開いてますよ」
扉が、ゆっくりと開く。
そこに立っていたのは、小柄な女性だった。
肩口で切り揃えられた、くすんだ亜麻色の髪。両側に、編み込みを垂らしている。瞳は、焦げ茶色で、大きな目が、こちらの反応を窺うように、わずかに揺れていた。服装は、見慣れた初心者冒険者向けの軽装。その上から、薄いマントを羽織っている。
アリサ。
開業当初からの、数少ない常連客の一人だ。
「あの、グレンさん……こんにちは」
彼女は、おそるおそる、といった様子で、工房の中へと一歩足を踏み入れた。
「やあ、アリサさん。いらっしゃい。今日は、杖の調子でも見ますか?」
グレンがそう尋ねると、アリサは、胸の前で両手をぎゅっと握りしめた。
「あの、今日は、その……報告があって来ました」
彼女の声は、少しだけ上ずっていた。
グレンは、作業台の前の椅子を示した。
「とりあえず、座ったらどうだい? 話はそれからでも」
アリサは小さく頷き、おずおずと椅子に腰を下ろした。
背筋が伸びていて、両肩には、まだ力が入っている。
グレンは、カウンターの内側にある小さな水差しから、木のカップに水を注いで、彼女の前に置いた。
「それで、報告というのは?」
アリサは、カップを両手で包み込むように持った。
指が、微かに震えている。
「……私、初めて、ソロの討伐依頼を受けたんです。Dランクの、苔狼の駆除です」
「ああ、ニーレ川渓谷の近くで、群れが出てたやつだね」
苔狼は、E〜Dランクの冒険者にとって、初めての壁になることの多い魔獣だ。群れで行動する上に、足が速く、一対一では簡単に間合いを詰められる。ソロでの討伐は、初心者にはなかなか骨が折れる。
「それが……あの、倒せたんです。二体とも」
アリサは、声を震わせながら、それでも、まっすぐにグレンの目を見て言った。
「グレンさんに調整してもらった杖で、火球を撃ったら……、狼の群れが、その、一瞬で……!」
彼女は、身振り手振りを交えて、その時の様子を語り出した。
川辺の岩場。夕暮れ迫る時間に、正面と、左手の茂みから、二体の苔狼が同時に飛び出してきたこと。
心臓が張り裂けそうで、手が震えて、呪文の詠唱が、一度、途中で消えかけたこと。
でも、グレンに調整してもらった杖を握っていると、まるで彼が背中を押してくれているような気がして、最後まで、魔力を込められたこと。
そして、杖の先端から放たれた火球が、自分でも目を見張るほどの速さと威力で、一匹目の狼を吹き飛ばし、返す刀で、二匹目の鼻先に炸裂したこと。
「私、今まで、あんなに魔法がすんなり出たこと、なかったんです……! 杖が、熱くならなくて、それに、魔力の流れが、すごく滑らかで……!」
彼女の頬は紅潮し、大きな瞳はきらきらと輝いていた。
さっきまでの緊張は、もう、どこにもない。
グレンは、黙って、彼女の話に耳を傾けていた。
時折、相槌を打ちながら。
(いい顔をするようになったな)
心の中で、そう思った。
初めて工房に来た時のアリサは、もっと、こう、自信がなさそうだった。自分の魔力に、自分の杖に、何もかもに怯えているような、そんな雰囲気だった。
それが、今では。
自分の力で獲物を仕留め、その喜びを、こうして彼に報告しに来ている。
その変化が、ただ、嬉しかった。
「よくやったな、アリサさん」
彼が、普段より少しだけ柔らかい表情で、そう言った。
アリサは、ぱっと顔を輝かせた。
「はい……! ありがとうございます、グレンさん……!」
彼女は、マントの内側から、小さな革袋を取り出した。
じゃら、と、中で硬貨が擦れる音がする。
「あの、これ……初めての報酬です。まだ、少しだけですけど……」
革袋の口を開け、中から、銀貨を数枚、作業台の上に置いた。
銀貨二枚と、銅貨が数枚。
Dランクのソロ討伐依頼の報酬としては、妥当な額だ。
グレンは、その硬貨を一瞥し、それから、アリサの顔を見た。
彼女の指は、まだ微かに震えている。
それは、恐怖のせいではない。
自分の手で初めて掴んだ報酬を、初めて自分の意思で誰かに渡す、その緊張と誇りで、震えているのだ。
グレンは、黙って硬貨を受け取った。
手のひらに、ずしり、と重い。
「確かに受け取ったよ。杖の調整代として、これで十分だ」
彼は、銀貨を一枚ずつ、丁寧に数え直してから、カウンターの奥の、小さな木箱に入れた。
「それで、アリサさん」
「は、はい」
「次の調整は、いつにする? 今日の戦いで、杖の芯材に熱が溜まってるかもしれない。一度診ておきたい」
アリサは、一瞬きょとんとしたが、すぐに嬉しそうに微笑んだ。
「お願いします! それじゃあ、えっと……明後日の午後は、どうですか?」
「ああ、空いてるよ。待ってるね」
アリサは、何度も頭を下げながら、工房を後にした。
扉が閉まり、彼女の足音が、通りへと消えていく。
グレンは、木箱に仕舞った硬貨の感触を、指先で確かめた。
杖職人として、商売人として、初めて受け取った依頼料とは、また違う重みだった。
(あの子が、初めて稼いだ金で、僕の仕事に払ってくれた)
それは、金銭の価値以上のものをもたらしていた。
信頼、という、形のないもの。
グレンは、静かに、作業台に向き直った。
「……よし。俺も、負けてられないな」
小さく呟いて、未完成の杖を手に取る。
——。
夕方。
空の色が、西の空から、深い紫色に変わり始めていた。
工房の中は、夕闇に沈みかけて、作業台の上の道具も、輪郭が曖昧になり始めている。
グレンは、棚の前に立ち、明日使う素材を選別していた。
(この銀菩提樹は、芯材に使うには少し乾燥が足りないな)
手にした枝を、光に透かして、年輪の密度を確かめる。
その時だった。
視界の端に、黒い影が差した。
工房の入り口。
薄暗い戸口の外に、人が、立っていた。
いつからそこにいたのか。
グレンは、枝を置いた。
ゆっくりと、顔を上げる。
「……何か、御用ですか?」
声をかけると、その影は、一歩、室内へと踏み入ってきた。
男だった。
深くフードを被り、顔は、目元以外、ほとんど見えない。ただ、口元だけが、薄暗い笑みの形に歪んでいるのが、辛うじて見えた。体にぴったりと張り付くような、黒い革の外套。そして、腰には、剣ではなく、奇妙な形をした短剣が、二本、交差するように差してあった。
男は、工房の中をぐるりと見回した。
鼻を、ひくつかせる。
「……へえ、噂通りの、ささやかな工房だな」
低い、湿った声だった。
聞く者の耳に、じっとりと張り付くような、不快な響きがある。
「ご依頼でしたら、受け付けますが。今は、もう閉店の時間ですよ」
グレンは、静かに言った。
男は、肩をすくめる。
「閉店時間か。そいつは、失礼した」
全く悪びれた様子もなく、男は、作業台に近づいてきた。
無遠慮に、積み上げられた杖の材料に、手を伸ばす。
黒い指袋越しに、魔導樹の枝を、一本、掴み上げた。
「だが、俺は客じゃない。お前の技術を、買いに来たんだよ、杖職人」
「……技術を?」
男は、持っていた枝を、軽く放り投げた。
枝は、カラカラと音を立てて、作業台の上に落ちる。
「お前が作る、特注の杖。その、魔力伝達効率を上げるって製法があるだろう。あれを、俺たちに回せと言っている」
男の口元の笑みが、深くなった。
「もちろん、タダとは言わん。悪いようにはしない。お前が向こう百年、杖を作らなくても暮らしていけるだけの金を、今すぐにくれてやる」
グレンは、男の目を見た。
フードの奥で、暗い瞳が、獲物を値踏みするように、じろりと光っている。
「お断りします」
間髪入れずに、グレンは答えた。
声は、いつもと変わらず、穏やかだった。
「それは、僕の技術であり、僕の仕事の根幹です。顧客一人一人に合わせて調整している。売り物には、できない」
男は、低く笑った。
「くく……、断る、か。若いのによく言う。自分の置かれてる状況が、分かっていないと見える」
男は、一歩、グレンに近づいた。
作業台を、間にして。
身長は、グレンとさほど変わらない。
だが、この距離で感じるこの男の圧力は、並のならず者とは明らかに違っていた。
「なあ、グレン。お前は、追放された身だ。紅蓮の牙も、もう無い。後ろ盾のない、街外れの、ただの職人じゃないか」
男は、グレンの出自を知っていた。
「そんなお前に、この話を断る権利があるとでも? お前の工房なんて、誰かが火の粉を一つ落とせば、それで終わりだ。お前の常連客も、火事になった店からは離れていく。……そうは思わないか?」
グレンは、黙っていた。
男の口元が、にぃ、と裂けた。
「これは、脅しじゃない。取引だ。賢い選択をするべきだぜ」
静かなる威圧が、工房の中を満たしていく。
「……最後に、一つだけ聞かせてください」
グレンが、口を開いた。
男は、片眉を上げる。
「あなたは、誰の使いです?」
男は、一拍置いて、笑った。
「教えてやるよ」
フードの奥で、暗い瞳が、ぎらりと光った。
「ゼクス様が、お前の技術を必要としている」
その名前を聞いた瞬間。
グレンの心の中で、冷たいものが走る。
ゼクス。
紅蓮の牙の元リーダー。
かつて彼を戦力外通告で、この世界の隅に追いやった男。
その名前を、この男は、確かに、出した。
「お前の元リーダーだ。懐かしいだろう?」
男は、楽しそうに言った。
「あの方は、今、お前の技術を欲している。お前がかつて、俺たちのパーティを支えていた頃のように。なあ、グレン。悪い話じゃないだろう? もう一度、あの方の役に立てる機会だぞ」
グレンは、男の目を、じっと見つめ返した。
そして、言った。
「……出て行ってください」
声は、低く、冷たかった。
「今すぐに。この工房から。そして、二度と、その顔を、僕の前に見せないでください」
男は、数秒間、グレンの顔を眺めていた。
そして、やがて、小さく、ため息を吐いた。
「……残念だよ。お前なら、賢い選択をすると思っていたんだがな」
男は、ゆっくりと、背を向けた。
「だが、覚えておくことだ。あの方のご意思は、決して、揺るがない」
戸口まで歩き、男は、振り返らずに言い放った。
「また、来るぜ。今度は、もっと、分かりやすい話を携えてな」
男の気配は、夕闇に溶けるように、消えた。
——。
工房に、静寂が戻る。
グレンは、しばらく、その場に立ち尽くしていた。
それから、ゆっくりと息を吐き出す。
長い、息だった。
(……ゼクスの名を、出した)
ゼクスの名前を使って動く、組織的な脅威。
男のあの手口は、単なる恐喝ではなかった。計算があった。こちらの情報、弱み、状況。そして、俺の過去。
紅蓮の牙は、もう無い。
ゼクスは、どこかへ消えた。
ならば、今、ゼクスの名を使って、俺の杖技術を寄越せと要求してくる勢力とは、一体何なのか。
(闇ギルド……)
その言葉が、脳裏をよぎった。
グレンは、リビングジェネラルを呼び寄せた。
蒼黒い騎士が、音もなく、彼の隣に立つ。
「……しばらく、工房の戸締まりは、厳重にしないとな」
彼は、相棒の兜に、そっと手を当てた。
金属の冷たさが、手のひらに心地良い。
兜の奥で、蒼い光が、静かに、しかし強く、脈打っていた。
まるで、主の決意に、応えるかのように。Noveliaとは?
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