絶体絶命ルビー・クールの逆襲<帝都大乱編>
十九世紀末の欧州。
クリスマスの二週間ほど前の土曜日、極悪テロ組織「無産者革命党」が、帝都平民区で一斉蜂起した。いわゆる「帝都大乱」の勃発である。警察機能は停止し、街は無法地帯と化した。
赤毛の美少女ルビー・クールは、平民区の孤児院で慈善活動をしていたときに、無産者革命党に襲撃される。孤児院の子どもたちを人質に取られたルビー・クールは、絞首刑台広場に連行される。広場を埋め尽くしているのは、無産者革命党の党員や支持者の男たち1万人以上。
ルビー・クールは、首に絞首刑用ロープをかけられ、処刑直前の状況だ。
無産者革命党の司令官は、ルビー・クールと共に、孤児院の子どもたちも処刑することを宣言した。
孤立無援で絶体絶命の窮地の中、孤児院の子どもたちを救うため、死刑台の上から今、ルビー・クールの逆襲が始まる。
絶体絶命ルビー・クールの逆襲<帝都大乱編> - <第五章 第二話>
<第五章 第二話>
今日は、ローゼンベルク孤児院のクリスマス・イベントの日だった。一年のうちで、最も重要な慈善活動だ。
昨年までのクリスマス・イベントは、七名か八名の下級貴族女性のボランティアが、参加していた。ローゼンベルク夫人が主催する慈善団体のメンバーだ。彼女たちの多くは、現役の帝国魔法学園の女学生だ。彼女たちは、ボランティア活動を写真に収め、毎月発行する慈善団体のニュースレターに掲載する。
毎月発行のニュースレターは、寄付を集めるための重要なアイテムだ。特に、クリスマス・イベントの写真は、新規の寄付者を集めるためのチラシにも使われるため、とても重要だ。
だが今年は、ルビー・クール一人しか、参加しなかった。
ローゼンベルク夫人は、最近では、年に三回か四回しか、孤児院を訪れない。特に三年ほど前からは、十二月から三月までは、そもそも外出をしなくなった。理由は、冬は寒いため、体調を崩しやすいからだ。ローゼンベルク夫人は、五十歳代半ばだ。すでに、貴族女性の平均寿命に達している。冬の寒い日に出歩いて風邪を引き、それが肺炎に悪化し、あっという間に死んでしまう可能性がある。
ルビー・クールの母方の祖母が、そうだった。もう三年も前だ。母も、母方の祖母も、真っ赤な赤毛で、ルビーと呼ばれていた。祖母の初代ルビーは、ローゼンベルク夫人の学生時代からの親友だ。
三年前から、ルビー・クールの母が、クリスマス・イベントを仕切るようになった。母が、慈善活動の多くを担っていた。毎月発行のニュース・レターも、母がほとんど一人で編集・作成していた。
母も、十一歳の誕生日の月に、母の母、初代ルビーに連れられ、孤児院を訪れた。母はその後、慈善活動にのめり込んだ。その気持ちは、わかる。ルビー・クールも、同じだったからだ。
ルビー・クール自身も、十三歳頃から徐々に、孤児院での慈善活動に、のめり込むようになった。
いつしかルビー・クールにとって、孤児院の子どもたちは、とても大切な存在になっていた。
おそらく母も、学生時代から、同じような心境になったのだろう。だから、学生時代から、慈善活動に熱心に取り組むようになった。
だが母は、十月の市民ホール占拠事件のあと、体調を崩した。精神的に、参ってしまった。先月の十一月は、孤児院を訪れてボランティア活動をしたが、そのあと寝込んでしまい、ニュース・レターの編集が、一人ではできなかった。ルビー・クールが週末、ローゼンベルク邸で、文章の作成や編集を手伝った。その上、東区の印刷所まで行って、文章の最終校正までした。
今月も体調が悪いのに、母は無理を押して、孤児院を訪れようとした。ルビー・クールが、必死になって止めた。母の代わりを、自分一人ですることにした。
とはいえ当初は、昨年までと同様に、数人の下級貴族女性が、ボランティアとしてクリスマス・イベントに参加する予定だった。
だが、一部は早い段階で、残りは直前になって、参加をキャンセルした。
理由は、治安の問題だ。二ヶ月前の無産者革命党による市民ホール占拠事件は、貴族に対し、大きな不安を与えた。それに加え、クリスマスにあわせて、十二月に、無産者革命党が大きなテロ事件を起こすようだとの噂が、広がっていた。そのため、他の下級貴族女性は、キャンセルしたのだ。
それにより、ルビー・クールが一人で、孤児院のクリスマス・イベントを担うことになった。一人で、七面鳥とケーキを焼くことになった。シスターにも手伝ってもらったが。
もっとも、ケーキを焼く前だった。アンジェリカに手引きされた無産者革命党が、孤児院に来たのは。
* * * * * *
万全の準備を整えた上で、孤児院を出た。拉致された子どもたちを救出するために。
孤児院を出て、すぐだった。
通りに、一人の少年が立っていた。凄(すさ)まじい殺気を、放っていた。
紺色のフード付きハーフコートを着ていた。ハーフコートの下から伸びる足は、ダボダボのジーンズだ。靴は、下層労働者がよく履(は)く布靴だ。
フードを目深(まぶか)にかぶっているため、顔は見えない。
その少年が、口を開いた。
「赤毛ちゃ~ん」
背筋の毛が、総毛立った。恐怖で。
その声は、女殺し屋「ジャッカルの娘」だった。
「あなたの絞首刑、見たかったわ」
ルビー・クールは、恐怖で全身に鳥肌が立った。Noveliaとは?
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