絶体絶命ルビー・クールの逆襲<帝都大乱編>
十九世紀末の欧州。
クリスマスの二週間ほど前の土曜日、極悪テロ組織「無産者革命党」が、帝都平民区で一斉蜂起した。いわゆる「帝都大乱」の勃発である。警察機能は停止し、街は無法地帯と化した。
赤毛の美少女ルビー・クールは、平民区の孤児院で慈善活動をしていたときに、無産者革命党に襲撃される。孤児院の子どもたちを人質に取られたルビー・クールは、絞首刑台広場に連行される。広場を埋め尽くしているのは、無産者革命党の党員や支持者の男たち1万人以上。
ルビー・クールは、首に絞首刑用ロープをかけられ、処刑直前の状況だ。
無産者革命党の司令官は、ルビー・クールと共に、孤児院の子どもたちも処刑することを宣言した。
孤立無援で絶体絶命の窮地の中、孤児院の子どもたちを救うため、死刑台の上から今、ルビー・クールの逆襲が始まる。
絶体絶命ルビー・クールの逆襲<帝都大乱編> - <第七章 第二話>
<第七章 第二話>
「ボンジュール、マドモアゼル」
ダリアが平然と、金髪美女に声をかけた。そして、言葉を続けた。
「あなた、外国から来た旅行者かしら? ひどいときに帝都に来てしまったわね。今度この国に来るときは、旧都ウィーンの観光をお薦めするわ。旧都ウィーンは帝都と違って、歴史的建築物や歴史的名所がたくさんあるし、なんと言っても、世界で一番の音楽の都(みやこ)よ。オーケストラも、オペラも、世界最高よ」
「世界最高の都は、パリよ。音楽に関してもね」
「そうね。パリは素晴らしい都だったわ。祖父に連れられて、十二歳の夏休みに、一ヶ月間ほど滞在したわ」
「それは、すてきな経験だったわね」
金髪美女が、微笑みながら、言葉を続けた。
「話を戻すと、あたくしは外国から来たけれど、旅行者ではないわ」
ルビー・クールは、静かに少しずつ、左ななめ奥に移動し始めた。金髪美女から距離を取るために。
この金髪美女は、危険だ。
なぜなら、この銃火器店は、多数の無産者革命党員が、包囲している。彼らは極貧層出身で、女に飢えており、金持ちを憎んでいる。高級な毛皮をまとった若い美女を、襲わないわけがない。
だがこの女は、無傷だ。それに、精神的に余裕がある。何人もの凄腕ボディー・ガードに守られて店に来たのか。あるいは、ルビー・クールと同等、あるいはそれ以上の戦闘能力があるのか。
ダリアが問いかけた。
「夫の仕事で帝都に来たのかしら?」
「まだ未婚よ」
「あら、それは失礼」
金髪美女が、笑みを浮かべた。だが彼女の目は、笑っていない。
「無駄話はやめて、本題に入りましょう。自由革命党のみなさん」
その瞬間に、ダリアの表情が一変した。
「あなた、何者?」
ダリアが、そう尋ねた。金髪美女を、にらみつけながら。
「それでは、自己紹介をしましょう」
金髪美女が、言葉を続けた。もったいぶりながら。
「あたくしは、共和国の女工作員にして、愛の女革命家ローズよ」
「おかしいわ」
ダリアが、すぐさま口を挟んだ。
「外国の工作員が、自分の正体を明かすなんて」
「おかしくないわ。正体を明かすのも、作戦の一部よ」
「その作戦って、どんなものよ」
「本日の無産者革命党の一斉蜂起は、共和国の諜報機関が、資金と武器を援助し、助言を与えて実行させたのよ」
ルビー・クールは、心の中で、半泣きになった。
まずい、まずい、まずい。こんな話、聞きたくない。この展開だと、国家間の諜報戦争に巻き込まれてしまう。
「そんなこと、あたしたちに話したら、帝国と共和国が戦争になるんじゃないかしら? あなた、本当に共和国の工作員なの?」
「ええ。本物の共和国の工作員よ。あたしたちの目的は、帝国を激怒させて、共和国に宣戦布告させること。そして帝国軍を、共和国領内に侵攻させること」
「そんな状態になったら、せっかくの共和政が、崩壊するわよ」
「崩壊なんてしないわ。逆に、再生するのよ。偉大なる革命国家としてね。新しい革命によってね」
「新しい革命? なに言ってるのか、わからないわ。共和国は、一世紀前に革命に成功し、現在は、民主主義の共和政という素晴らしい政治体制を築いているわ。これ以上、いったい何が必要だというの?」
「だから、新しい革命よ。それには、悪の帝国による侵略が必要なのよ」
「理解できないわ」
ダリアが、首を左右に振った。
だが、ルビー・クールは理解できた。資本家が支配する資本主義国家から、より左傾化した国家体制にしたいのだ。有産労働者と自作農中心の国家なのか、あるいは、無産者中心の国家体制なのか。
帝都の無産者革命党を支援したのであれば、思想的には彼らと近いのだろうか。
もしそうならば、極めて危険だ。
私的所有権の否定は、人間から生きる術(すべ)を奪うからだ。
私的所有権が完全に否定されれば、すべての人間は、指導者という名の独裁者の許可がなければ、家に住むことも、服を着ることも、パンを食べることもできない。
なぜなら、家も服もパンも、自分の所有物ではないからだ。
すべての物は、国有、公有、共有の名の下に、国家や組織の指導者の管理下に置かれる。
ゆえに、誰に何を、どの程度、使用させるのかは、指導者が決める。
よって、私的所有権を完全に否定した社会では、すべての人間は、実質的に、指導者の奴隷となる。
思わず、口を挟んだ。
「その新しい革命とやらは、共和国政府が求めているのかしら? それとも、あなたたちが求めているだけなのかしら?」
ローズが、ルビー・クールに視線を向けた。妖しげに、ニタリと微笑みながら。
その微笑みに、恐怖で鳥肌が立った。
しまった。口を開くんじゃなかった。危険な女の注意を、自分に向けてしまった。
ルビー・クールは、後悔した。顔には出さないようにしたが。
「その制服、帝国魔法学園の制服ね?」
「ええ、そうよ」
「それなら、魔法を見せてくれないかしら? 帝国の魔法を見たいわ」
まずい、まずい、まずすぎる。
この女、こちらの魔法の実力を見極めるつもりだ。実力が低ければ、その場で殺されかねない。虫けらのように。
なぜならこの女は、諜報機関に属する工作員なのだ。
ルビー・クールの魔法の実力は、ダリアと比べれば雲泥の差だ。外国の女工作員と魔法対決をして、勝てる気など、まったくしない。
いったい、どうすればいいのか。この状況を打開するには。
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