絶体絶命ルビー・クールの逆襲<帝都大乱編>
十九世紀末の欧州。
クリスマスの二週間ほど前の土曜日、極悪テロ組織「無産者革命党」が、帝都平民区で一斉蜂起した。いわゆる「帝都大乱」の勃発である。警察機能は停止し、街は無法地帯と化した。
赤毛の美少女ルビー・クールは、平民区の孤児院で慈善活動をしていたときに、無産者革命党に襲撃される。孤児院の子どもたちを人質に取られたルビー・クールは、絞首刑台広場に連行される。広場を埋め尽くしているのは、無産者革命党の党員や支持者の男たち1万人以上。
ルビー・クールは、首に絞首刑用ロープをかけられ、処刑直前の状況だ。
無産者革命党の司令官は、ルビー・クールと共に、孤児院の子どもたちも処刑することを宣言した。
孤立無援で絶体絶命の窮地の中、孤児院の子どもたちを救うため、死刑台の上から今、ルビー・クールの逆襲が始まる。
絶体絶命ルビー・クールの逆襲<帝都大乱編> - <第七章 第四話>
<第七章 第四話>
ダリアが、口を開いた。ローズを不審そうな目で見つめながら。
「無産者革命党は、あなたの命令に服従するのかしら?」
「命令するんじゃないわ。説明して説得するのよ。高級住宅街の警備は固いから、プチ・ブルを先に断罪しよう、ってね」
「説得に失敗したら?」
「そのときは、そのときね」
「いい加減ね。そんな取引は、乗れないわ」
「しかたないわね。あなたたちは、ここから生きて出て行く機会を失ったわね」
ローズの口調は、淡々としていた。
「あなたこそ、この場で殺してもいいのよ」
ダリアの口調が、厳しくなった。
「あら、できるかしら」
ローズが妖しげに微笑んだ。
ダリアが、魔法詠唱を始めた。魔法の弓矢が、出現した。
ほぼ同時に、ローズも魔法詠唱を始めた。
「大革命魔法奥義、地獄の業火(ごうか)!」
ローズがそう叫んだ瞬間、店中が魔法の炎に包まれた。床から天井まで。
絶叫した。ダリアの部下たちが。それに、ルビー・クールも。
凄まじい火力だ。このままでは、心臓が持たない。
魔法攻撃は、視界の外にいる者に対して、攻撃することはできない。
早く、ローズの死角に入らなければ。
最も近い遮蔽物は、正面のショーケースだ。ガラスの部分は上と手前だけで、奥側は、展示品を見えやすくするための白い板だ。そのためショーケースは、物理攻撃の遮蔽物にはならないが、魔法攻撃の遮蔽物にはなる。
駆け出した。正面のショーケースに向かって。
その瞬間、心臓に痛みが走った。後ろから。
魔法攻撃だ。大きさからすると、魔法の投げナイフだ。
前のめりに、床に倒れた。
だが、ルビー・クールの心臓は、止まらなかった。背中を向けて駆け出す際に、左肩にかけたショルダーバッグを、背中の左側、すなわち心臓の後ろに、あてていたからだ。
魔法の刃(やいば)は、本物の刃で貫通できない物は、貫(つらぬ)けない。
ショルダーバッグの中には、鉄板を入れてある。三十二口径の拳銃弾ならば、防げるほどの強度だ。そのため、ローズが魔法で、ルビー・クールの心臓に、ナイフで刺される幻痛を与えても、ルビー・クールの痛みは半減し、耐えることができたのだ。
ルビー・クールは、立ち上がった。再び駆け出した。魔法の炎の中を。ショルダーバッグを、背中の左側にあてながら。
後頭部に、激痛が走った。魔法の投げナイフが、刺さったのだ。
よろめいたが、倒れなかった。走り続けた。魔法の炎の海から逃れるために。
次々に、魔法の投げナイフが刺さった。背中や首の後ろに。何本も。
だが、耐えきった。正面のショーケースの背後に、回り込んだ。
やはり、思った通りだった。正面ショーケースの背後には、魔法の炎はなかった。ローズの死角だからだ。
匍匐(ほふく)前進で移動した。ショーケースの後方にある木製レジカウンターの裏へ。
ダリアの部下たち全員が、倒れていた。魔法の炎で上半身を燃やされて、心臓が止まったのだ。
ダリアが、呼びかけていた。金髪大男の傍(かたわ)らに、ひざまずいて。
「フランク、しっかりしなさい! これはただの魔法攻撃よ! 意識をしっかり持ちなさい!」
「心臓マッサージよ!」
ルビー・クールが叫んだ。
ダリアが振り返った。
「それって、どうやるのよ!」
「あたしがするわ。あなたは、あの女工作員の魔法攻撃を止めて!」
「わかったわ」
ダリアが立ち上がった。魔法詠唱し、魔法の弓矢を出現させた。
ルビー・クールは、ひざまずいた。仰向(あおむ)けのフランクの脇に。
両手で、上から左胸を押した。全体重をかけて。一回、二回、三回、と。
だが、フランクの心臓は、動かない。
もう一度、心臓を押した。全体重をかけて。
一回、二回、三回。
左手でフランクの鼻の穴をとじ、右手で口をこじ開けた。大きく息を吸い込んでから、自分の息を吹き込んだ。人工呼吸だ。
その直後、フランクが咳き込んだ。息を、吹き返した。
ルビー・クールは、すぐさま、隣の男のもとへ移動した。心臓マッサージと人工呼吸を繰り返した。
だが、息を吹き返さなかった。
もう、手遅れか。他の男のもとへ移動するか。それとも、もう、全員ダメだろうか。
フランクが、上体を起こした。
「おまえ、何をやってるんだ?」
「心臓マッサージと人工呼吸よ。これで、あなたを生き返らせたのよ」
ダリアが悲鳴をあげた。身体が硬直した。まるで棒きれのように、硬直したまま後方に倒れ始めた。
「お嬢!」
慌ててフランクが、倒れるダリアに向かって駆け出した。Noveliaとは?
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