絶体絶命ルビー・クールの逆襲<帝都大乱編>
十九世紀末の欧州。
クリスマスの二週間ほど前の土曜日、極悪テロ組織「無産者革命党」が、帝都平民区で一斉蜂起した。いわゆる「帝都大乱」の勃発である。警察機能は停止し、街は無法地帯と化した。
赤毛の美少女ルビー・クールは、平民区の孤児院で慈善活動をしていたときに、無産者革命党に襲撃される。孤児院の子どもたちを人質に取られたルビー・クールは、絞首刑台広場に連行される。広場を埋め尽くしているのは、無産者革命党の党員や支持者の男たち1万人以上。
ルビー・クールは、首に絞首刑用ロープをかけられ、処刑直前の状況だ。
無産者革命党の司令官は、ルビー・クールと共に、孤児院の子どもたちも処刑することを宣言した。
孤立無援で絶体絶命の窮地の中、孤児院の子どもたちを救うため、死刑台の上から今、ルビー・クールの逆襲が始まる。
絶体絶命ルビー・クールの逆襲<帝都大乱編> - <第五章 第四話>
<第五章 第四話>
「もっとおもしろいものって、なに?」
ジャッカルの娘が尋ねた。興奮した面持(おもも)ちで。
「無産者革命党のアジトに乗り込んで、大暴れするのよ。あたしと、あなたとでね」
奇声を発した。ジャッカルの娘が。白目をむきながら。興奮しているようだ。
「いいわね、それ。一緒に同じことをするってことは、それって、あたしとあなた、友達になるっていうことかしら?」
異常で危険な女と、友達づきあいは、したくない。絶対に。
「友達ではなく、戦友よ。今日だけ、だけどね」
また、奇声を発した。
「戦友、いいわね。その話に乗るわ。あなたのこと、ルビーって呼んでいいかしら?」
「ええ、いいわ。あなたのことは、なんて呼べばいい?」
「エルザ。もちろん、学園内で使っている偽名だけどね」
ジャッカルの娘、いや、エルザが言葉を続けた。
「ところで、あいつらのアジトの場所、知っているの?」
「知らないわ。だけどその前に、行くところがあるわ」
「どこ?」
「銃火器店よ。弾丸を補充しにね」
* * * * * *
南三区には、銃火器店は、一店しかない。場所は、南北大通りと、東西大通りが交差する南三区の中央付近だ。孤児院のある北東エリアの一番南西のあたりだ。孤児院からは、徒歩で二十分くらいの距離だ。あらかじめ、南三区の地図を見て、場所は把握してある。万が一、非常事態が発生し、弾丸が尽きたときに備えてだ。
銃火器店の近くまで来たときだった。
突然、通りに、二人の男が現れた。
一人は、中年の小男で、もう一人は、若いやせた男だった。
二人とも、服装から、労働者のようだ。
中年小男が、口を開いた。
「お嬢ちゃん、悪いことは言わない。今すぐ家に戻って、じっとしていな」
ルビー・クールは、わざと、にっこりと微笑んだ。
「通してくれないかしら。ちょっと、向こうの店に用事があるのよ」
「ここから先は、危険だぜ。なにせ、無産者革命党の連中が、山ほどいるからな。お嬢ちゃんのような若い美女を見たら、奴ら、共有を叫んで襲ってくるぜ」
ルビー・クールは、その言葉で確信した。
にっこりと微笑み、呼びかけた。
「ごきげんよう。労農革命党のみなさん」
労農革命党は、熟練労働者と自作農が結成した非合法の革命組織だ。
二人の男が、驚いた表情を見せた。
「なぜオレたちが、労農革命党の党員だとわかったんだ?」
「あたしは、女革命家ルビー・クールよ」
二人の男が、絶句した。
「女革命家ルビー・クールは、フィクションだろ!」
若い男が、そう叫んだ。
「実在するわよ」
ルビー・クールは、微笑みながら答えた。
「タブロイド紙の報道は、全部、捏造だろ!」
「捏造部分もあるけれど、真実も含まれているわ」
再び、二人の男は絶句した。
若い男が、口を開いた。
「日傘で、敵をバッタバッタと倒したというのは、本当か?」
「ええ、本当よ」
「そんなバカなことがあるか! 日傘が折れるだろ!」
「折れないわ。日傘は特注品で、傘の骨は、鋼鉄製だから。今持っているこの雨傘も特注品で、傘の骨は鋼鉄製よ。持ってみる? 重いわよ」
右手に持っていた赤い雨傘を差し出した。
十月の市民ホール占拠事件では、特注品の白い日傘が、大活躍した。冬になり、日傘を持ち歩くのは変だと思い、雨傘を発注した。傘の色は悩んだ。黒にしようかと思ったのだが、黒だと、紳士用雨傘だと思われる。女が紳士用雨傘を持ち歩くのは、変だ。そこで、自分の髪の色と同じ、赤にした。
若い男が、手を伸ばした。赤い雨傘を渡した。
思わず、落としそうになった。雨傘を。若い男が。
「何キロあるんだ? この傘は!」
「五キログラムよ。傘の骨は鋼鉄製だから、重いのよ」
ルビー・クールは、雨傘を返してもらった。
若い男が、さらに問いかけた。
「タブロイド紙の報道では、女革命家ルビー・クールは、クライマックスで、銀色の二挺拳銃で、無産者革命党の戦闘員をバッタバッタと倒した。おまえは、拳銃を持っているのか?」
「ええ。持っているわ」
ルビー・クールは、左手でロングスカートの太ももあたりをつかんで、左裾を少し持ち上げた。
突然、左膝を高く蹴り上げた。左足首のホルスターから、銀色の物体が飛び出した。
腰の位置で、左手でつかんだ。銀色の三十二口径リボルバーを。
労農革命党の男たちが、息をのんだ。
「右足首にも、ホルスターを装着しているわ」
すぐに、拳銃をホルスターに戻した。
中年小男が唸った。
「赤毛の女革命家ルビー・クールが、実在したとは。それで、同志ルビー・クール、どこへ行くつもりなんだ?」
「銃火器店よ。弾丸を補充するためにね」
中年小男が、言い切った。
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