絶体絶命ルビー・クールの逆襲<帝都大乱編>
十九世紀末の欧州。
クリスマスの二週間ほど前の土曜日、極悪テロ組織「無産者革命党」が、帝都平民区で一斉蜂起した。いわゆる「帝都大乱」の勃発である。警察機能は停止し、街は無法地帯と化した。
赤毛の美少女ルビー・クールは、平民区の孤児院で慈善活動をしていたときに、無産者革命党に襲撃される。孤児院の子どもたちを人質に取られたルビー・クールは、絞首刑台広場に連行される。広場を埋め尽くしているのは、無産者革命党の党員や支持者の男たち1万人以上。
ルビー・クールは、首に絞首刑用ロープをかけられ、処刑直前の状況だ。
無産者革命党の司令官は、ルビー・クールと共に、孤児院の子どもたちも処刑することを宣言した。
孤立無援で絶体絶命の窮地の中、孤児院の子どもたちを救うため、死刑台の上から今、ルビー・クールの逆襲が始まる。
絶体絶命ルビー・クールの逆襲<帝都大乱編> - <第五章 第三話>
<第五章 第三話>
何度も殺されかけた。女殺し屋「ジャッカルの娘」に。六ヶ月前のあの夜。平民区の南三区で。殺人現場を目撃したばかりに。
だが、逃げ切った。何度も戦って。
それ以来、筋トレで筋肉を強化し、木剣や射撃の練習もした。
彼女の襲撃に備えて。
ある日突然、再会した。三ヶ月ほど前だ。帝国魔法学園の校舎内で。
彼女は、帝国魔法学園に入学していたのだ。
まさか校舎内で襲っては来ないだろうが、それ以来、念のために気をつけ、彼女とは物理的に距離を取るようにしていた。
ルビー・クールは、男装したジャッカルの娘に対し、わざと強気の言葉を吐いた。
「残念だったわね。あたしが絞首刑にならなくて」
「だけど、楽しめたわ。あなたの大立ち回り」
「あら、そう。それは良かったわね」
「ええ。興奮したわ。司令官を殺したり、梁(はり)の上で、男たちを次々と転落させたり。距離があったので見えなかったけれど、梁の上では、魔法攻撃をしたのかしら」
魔法の幻覚が見えるのは、音声の届く範囲内だけだ。魔法詠唱が騒音でかき消されると、近距離であっても幻覚は見えない。
「ええ、そうよ」
「炎の魔法?」
「違うわ。釘(くぎ)の魔法よ。魔法の釘を、相手の目に突き立てたのよ」
突然、奇声を発した。ジャッカルの娘が。笑っているようだ。
「あなた、最高ね。魔法の針よりも痛そうだわ。今度、あたしも練習してみるわ。魔法の釘で、他人の目を突き刺す練習」
しまった、と思った。余計なことを言うんじゃなかった。この女は、危険だ。
だが、ふと思った。なぜこの女は、あの広場にいたのか、と。
「ねえ、なぜあなたは、あの広場にいたのかしら?」
「決まってるわ。無産者革命党が、貴族たちを公開処刑すると宣伝していたからよ。だから正午頃から、あの絞首刑台広場で待っていた。そうしたら、絞首刑台に立たされたのが、あなただった。めちゃくちゃ興奮したわ」
ということは、無産者革命党は、しばらく前から孤児院のクリスマス・イベントの日程を把握し、訪れた貴族を捕らえて、公開処刑する予定だったわけだ。
まあ、孤児院出身のアンジェリカがいれば、日程の把握など容易だ。孤児院のクリスマス・イベントは、毎年、クリスマスの二週間ほど前の土曜日なのだから。
「ちょっとそこ、通してくれないかしら。あたし、急いでいるのよ」
「どこへ行くの?」
「無産者革命党のアジトに乗り込んで、拉致された十人の子どもたちを救出するのよ」
奇声を発した。ジャッカルの娘が。両目とも、白目をむいている。爆笑しているのだ。
実に、気味の悪い女だ。
笑いながら言った。ジャッカルの娘が。
「あなた、最高よ。最高のバカだわ。あいつらが何人いるか知っているの? このエリアだけで、一個師団五千人よ。五千人の戦闘部隊相手に、どう戦うのよ」
「一個師団?」
「ええ、そうよ。あいつら無産者革命党は、今回の一斉蜂起に備えて、各エリアに五千人の戦闘員を配備したのよ。軍隊のように編成してね」
「詳しいのね」
「ええ。パパがピリピリして、情報を収集していたからね」
「マフィアの幹部が、なぜ、革命勢力を警戒するのかしら」
「決まってるでしょ。あいつら無産者革命党は、すべての共有を主張しているからよ。あいつらが一斉蜂起したら、多くの商店を襲って、商品を強奪するわ。共有の名の下に、自分たちで使用するためにね。パパは多くの酒場や娼館を経営しているし、それ以外の多くの一般の店から、用心棒代を取り立てているからね」
なるほど、そういうことか。用心棒代を取り立てている店が略奪にあったり、店主が殺されたりしたら、マフィアとしてのメンツが潰れる。そのため、警戒して情報収集していたのだ。
新聞情報によれば、帝都最大マフィア銀狼会の幹部ジャッカルの縄張りは、主として、南三区の南側のはずだ。
「一斉蜂起って、南三区全体なのかしら?」
「違うわ。平民区全体よ。南一区でも、訪問予定の貴族を公開処刑するって宣伝してたわ。南二区では、資本家の大量虐殺を宣伝してた」
一つの区は、四つのエリアに分割される。平民区と通称される区は、南一区から南三区の三区だ。したがって、平民区のエリアは全部で十二だ。各エリアに五千人ならば、合計六万人か。
いや、違う。南一区の北東エリア、南二区の北西と北東エリア、南三区の北西エリアは、高級住宅街だ。住んでいる労働者は少ない。居住している労働者は、富裕層の屋敷の住み込み使用人や、高級店の従業員が中心だ。彼らが、極貧テロ組織の無産者革命党に組みするとは思えない。
ゆえに一斉蜂起は、高級住宅街を除く八エリアで、合計四万人か。
それだけの数ならば、警察は鎮圧できないだろう。帝国陸軍が治安出動するはずだ。
そのとき、ふと、疑問に思った。
「あの広場には、五千人ではなく、一万人以上いたわよ」
「戦闘員の党員は、千人しかいなかったわ。党友の一万人は、サーカスでも見るような気分で、この缶バッチを買った者たちよ」
ジャッカルの娘は、ポケットから、赤い缶バッジを取り出した。
「この缶バッジ、三キャピタ(著者注:三百円相当)で売ってたのよ。この缶バッジを買って党友になれば、貴族を処刑する日時と場所を教えてくれるのよ」
「それであなたは、その缶バッジを買った」
「ええ、そうよ。貴族の公開処刑なんて、本当に実行できたら、おもしろいじゃない。まあ、無理だろうと思って、話半分、いえ、半分以下の期待でここに来たのだけれどね。ところが、おもしろいものが見られたわ。たった三キャピタで。南一区では、今頃本当に、貴族が公開処刑されているかもね」
心が痛んだ。母のような下級貴族女性が、孤児院に慈善活動で来たところを狙われて、捕らえられて殺されているかもしれない。そう思うと、つらかった。
だが今は、自分にできることをするしかない。それは、拉致された孤児院の子どもたちを救出することだ。
一計を、思いついた。
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