絶体絶命ルビー・クールの逆襲<帝都大乱編>
十九世紀末の欧州。
クリスマスの二週間ほど前の土曜日、極悪テロ組織「無産者革命党」が、帝都平民区で一斉蜂起した。いわゆる「帝都大乱」の勃発である。警察機能は停止し、街は無法地帯と化した。
赤毛の美少女ルビー・クールは、平民区の孤児院で慈善活動をしていたときに、無産者革命党に襲撃される。孤児院の子どもたちを人質に取られたルビー・クールは、絞首刑台広場に連行される。広場を埋め尽くしているのは、無産者革命党の党員や支持者の男たち1万人以上。
ルビー・クールは、首に絞首刑用ロープをかけられ、処刑直前の状況だ。
無産者革命党の司令官は、ルビー・クールと共に、孤児院の子どもたちも処刑することを宣言した。
孤立無援で絶体絶命の窮地の中、孤児院の子どもたちを救うため、死刑台の上から今、ルビー・クールの逆襲が始まる。
絶体絶命ルビー・クールの逆襲<帝都大乱編> - 第七章 女工作員登場で絶体絶命<第一話>
<第七章 第一話>
共闘の交渉が始まった。互いに、情報交換もした。貴重な情報を得た。自由革命党は、十月の市民ホール占拠事件以降、無産者革命党を警戒し、彼らの情報を精力的に収集していた。
南三区北東エリアを担当する無産者革命党の部隊は、第六師団だ。無産者革命党の師団は、高級住宅街を除く平民区八エリアで、一個師団ずつ編成している。よって、全部で八個師団だ。一個師団五千人のため、戦力は合計四万人だ。他に、数十名から百数十名の遊撃隊が、いくつかあるようだ。
第六師団の最も重要な任務は、党友たちの前で、貴族を公開処刑することだった。貴族の公開処刑を見せつけて興奮させることで、多くの党友たちを無産者革命党に入党させ、党員にする計画だ。
無産者革命党における党員と党友の違いもわかった。党員は指導者の指示に従わなければならないが、党友は、指導者の呼びかけに、自分のできる範囲で協力するだけで良い。
昨年までの無産者革命党は、多くの支部があり、それぞれの支部は、独立性が高かった。最高意志決定機関である理事会は、各支部に対し、具体的な命令を出すことも、ほとんどなかった。
だが、ここ数ヶ月間で、軍隊的な組織に再編された。党員数も、急激に増加した。
党員数の増加については、新聞でも、報じられていた。六月に発生した検問所襲撃事件後、犯行声明を出したことで、無産者革命党に注目が集まった。貴族区と平民区を隔てる常設検問所、通称ゲートの襲撃は、貧困に苦しみ、社会に不満を持つ若者たちの支持を集めた。
本当の襲撃犯は、ジャッカルの娘エルザの部下なのだが。襲撃の目的は、殺人事件の犯人エルザの顔を見たルビー・クールを、殺すことだった。
無産者革命党の悪名を一気に広め、極貧層の若者たちを熱狂させたのが、十月の市民ホール占拠事件だ。結果的には、犯行グループの無産者革命党帝都遊撃隊は壊滅し、犯行目的も実現できなかった。ルビー・クールの活躍によって。
しかし、上級貴族の市長に重傷を負わせ、平民富裕層のブルジョア市民を三十名以上も殺害した。貴族と資本家を憎む極貧層の若者たちにとって、無産者革命党は、希望になった。
自由革命党の最新の推計では、六月からの半年間で、無産者革命党の党員数は、五倍に増えた。南三区全体では、三千人から一万五千人への増加だ。貴族の公開処刑に成功すれば、党友一万人が一気に入党し、南三区全体で二万五千人規模になる。さらに、貴族処刑の噂が広がれば、社会に不満を持つ若者数万人が、新たに入党する可能性が高い。自由革命党の分析によれば。
その話の最中に、ダリアがつぶやいた。
「今頃もう、貴族が公開処刑されて、党員がさらに一万人、増えたのでしょうね」
ヒヒッと、エルザが気味悪く笑った。
「貴族の公開処刑は、失敗したわよ。南三区ではね」
エルザのその言葉に、ダリアが少しばかり驚いた表情を見せた。
「あなた、早耳(はやみみ)なのね」
「あたし、その場で見てたのよ。北東エリアの絞首刑台広場でね」
「貴族の拘束に、失敗したの?」
「違うわ。貴族女を絞首刑台に立たせ、その女の首に、絞首刑用のロープをかけたわ。それから、死刑執行人がレバーを倒して、足下(あしもと)の床板が下に開いたわ」
「それなのに、失敗したの? ロープが切れたとか?」
「違うわ。絞首刑台の貴族女は」
そこまで言ったところで、エルザはルビー・クールに視線を向けた。
ダリアも、ルビー・クールに視線を向けた。
しかたがないので、ルビー・クールが答えた。
「その女は、あたしよ」
ダリアが絶句した。
エルザが、ニタニタと気味の悪い笑みを浮かべた。
「興奮したわ。ルビーが、司令官を殺したときは。司令官の首から血しぶきがほとばしってね。もっと近くで見たかったわ」
「いったいどんな魔法を使って、絞首刑から逃れたの?」
驚くダリアの問いに対し、ルビー・クールは、ばつが悪そうな顔で答えた。
「魔法じゃないわ。強(し)いて言えば、腕力よ」
数秒間絶句したあと、ダリアが口を開いた。
「あなたらしいわね」
「そんなことよりも、共闘の話に戻しましょう」
「さっき、司令官を殺したって、そこの彼女、エルザが、言わなかった?」
「ええ。あたしが殺したわ。副司令官もね」
「彼らは、第六師団のリーダーたちのはずよ。あなたたちの話が本当なら、第六師団はもう、組織的な行動は、とれないはずよ」
「まだ、序列第三位の師団参謀がいるわ。革命家名はジャン=ジャック。絞首刑台広場では、一個連隊千人が、彼の命令に従い、組織的な行動を取っていた。だから、アジトに乗り込んで、彼を無力化する必要があるわ」
そのときだった。店の玄関ドアが、開いた。
振り返った。
目があった。金髪の美女と。高級な毛皮を着ている。その美女が、妖しげな笑みを浮かべた。
見た瞬間に、わかった。この美女は危険だ、と。
「ボンジュール」
その金髪美女は、外国語で挨拶した。
まずい、まずい、まずい。
この女は危険だ。直感で、わかる。
今すぐ、逃げ出したい気分だ。
だが、逃げ道はない。
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