絶体絶命ルビー・クールの逆襲<帝都大乱編>
十九世紀末の欧州。
クリスマスの二週間ほど前の土曜日、極悪テロ組織「無産者革命党」が、帝都平民区で一斉蜂起した。いわゆる「帝都大乱」の勃発である。警察機能は停止し、街は無法地帯と化した。
赤毛の美少女ルビー・クールは、平民区の孤児院で慈善活動をしていたときに、無産者革命党に襲撃される。孤児院の子どもたちを人質に取られたルビー・クールは、絞首刑台広場に連行される。広場を埋め尽くしているのは、無産者革命党の党員や支持者の男たち1万人以上。
ルビー・クールは、首に絞首刑用ロープをかけられ、処刑直前の状況だ。
無産者革命党の司令官は、ルビー・クールと共に、孤児院の子どもたちも処刑することを宣言した。
孤立無援で絶体絶命の窮地の中、孤児院の子どもたちを救うため、死刑台の上から今、ルビー・クールの逆襲が始まる。
絶体絶命ルビー・クールの逆襲<帝都大乱編> - 第三章 石打ち刑で絶体絶命<第一話>
<第三章 第一話>
絞首刑台の前には、幅十メートルほどの空きスペースがある。そのスペースは、太い縄で規制線が張られ、広場と区切られている。興奮した群衆が、絞首刑台に殺到しないようにするためだ。
左腕に赤い腕章を巻いた党員たちの大部分は、その規制線の前後にいる。
絞首刑台の正面の空きスペースには、死んだ司令官の部下たち約百名がいる。
半数は、司令官を取り囲んで大声で呼びかけている。傷口をハンカチやスカーフで押さえているが、その程度では、大量出血は止まらない。
今はまだ失神しているだけだが、もうしばらくたてば失血死する。
残りのもう半数は、慌てふためき、意味もなく右往左往している。
左手側には、副司令官とその部下約百名がいる。
右手側は、参謀とその部下百名と、アンジェリカだ。
それに、人質に取られた孤児院の子どもたち五十名あまりと、年老いたシスターが立ちすくんでいる。彼女は孤児院の院長で、ローゼンベルク夫人とは、三十年来の友人だ。
規制線の向こう側には、党員が横五列に並んでいる。
広場は、一辺が約百メートルの正方形のはずだ。帝都の都市設計は、どの区も基本的には同じだからだ。
よって、規制線の向こう側の党員は、約五百名。
彼らは、党友、というより群衆が、絞首刑台に殺到しないように、その場所に配備されているのだろう。
広場の向こう側の馬車道には、百名ほどの党員のグループが二つ、配備されている。馬車道の右手側と左手側だ。遅れてやってきた党友たちの誘導をしている。だがおそらく、主な目的は、後方の警備だ。
また、空き瓶が飛んできた。ビールの小瓶のようだ。
あたらなかったが、次々に投げつけられると、そのうちあたってしまう。
正面にいる司令官の部下の一人が、他の党員に何かを命じている。その男は、百人隊長だろう。その命令は、手渡しのリレー方式で、空き瓶を最前列まで運べ、というものだ。それを、リレー方式の伝言で、後方に次々に伝えるつもりだ。
たしかに、遠くから投げるよりも、近くから投げつけたほうが、あたる確率は高まる。
群衆の中には、あちらこちらに、ビール瓶らしき小瓶を手にしている男たちがいる。人数は、数十名から百名弱ほどか。彼らは、サーカスでも見に来るような感覚で、貴族の絞首刑を見に来たのだ。だから、ビール瓶を手にしている。
まずい状況だ。最前列に百近い空き瓶が集まり、一度に投げつけられたら、怪我をして転落してしまう。
なんとか、状況を打開しなければ。空き瓶が最前列に集まる前に。
副司令官が、部下に怒鳴る声が聞こえた。
視線を向けた。どうやら、「石を投げろ」と命じたところ、部下の一人が、「石がありません」と返答した。それに対し、副司令官が怒鳴りつけたようだ。「石畳を剥(は)がせ」と。
その一言で、数名の部下が、手斧やナイフを使って、広場の足下の石畳を剥がし始めた。
まずい、まずい、まずい。これは、空き瓶よりもまずい。
広場は石畳で覆(おお)われている。よって、石畳の石は大量にある。大量に剥がして大量に投げつけられたら、大怪我をして転落する。
なんとかしなければ。それも、今すぐだ。
もう、時間がない。早くしないと、最初の石畳が剥がされてしまう。
一瞬、石打ちの刑が脳裏に浮かんだ。
罪人に対し、群衆が次々に石を投げつけて殺害する古代の処刑方法だ。即死せず、長時間にわたって苦痛が続くため、極めて残酷だ。異教徒の国では、今でも実施されている国もある。
以前、何かの本でそのことを読んだとき、恐怖した覚えがある。
心の中に広がる恐怖を、無理矢理、振り払った。
今、必要なことは、恐怖に震(ふる)えることではない。戦うことだ。
ルビー・クールは、決断した。
本当は、温存しておきたかった。数に限りがあるためだ。だが、しかたがない。
今が、使うべきときだ。
梁(はり)の上を、移動した。左へ。副司令官に接近するために。
梁の一番左端まで、移動した。
右足が前で、左足が後方の状態で、梁の上に左膝をついた。左手で梁をつかんだ。転落防止のためだ。
右手で、制服のロングスカートの右裾を、少しまくった。
右足首が、スカートから露出した。黒革のロング・ブーツが現れた。右足首の外側には、黒革のホルスターが装着されている。ホルスターのボタンをはずし、銀色の三十二口径リボルバーを右手で取り出した。
右腕をまっすぐに伸ばし、副司令官を狙った。距離は、十メートル強だ。
距離は近いが、高低のある場所からの射撃は、初めてだ。慎重に狙いをつけた。
副司令官が、気づいた。驚愕の表情を浮かべた。
「なぜ、拳銃を持っているんだ!」
副司令官が、そう怒鳴った。
ルビー・クールは、冷ややかに答えた。
「護身用よ。あなたたちのような悪党から、自分を守るためにね」
慌てて副司令官は、自分のふところからリボルバーを取り出した。
引き金を引いた。
銃声が響いた。Noveliaとは?
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