絶体絶命ルビー・クールの逆襲<帝都大乱編>
十九世紀末の欧州。
クリスマスの二週間ほど前の土曜日、極悪テロ組織「無産者革命党」が、帝都平民区で一斉蜂起した。いわゆる「帝都大乱」の勃発である。警察機能は停止し、街は無法地帯と化した。
赤毛の美少女ルビー・クールは、平民区の孤児院で慈善活動をしていたときに、無産者革命党に襲撃される。孤児院の子どもたちを人質に取られたルビー・クールは、絞首刑台広場に連行される。広場を埋め尽くしているのは、無産者革命党の党員や支持者の男たち1万人以上。
ルビー・クールは、首に絞首刑用ロープをかけられ、処刑直前の状況だ。
無産者革命党の司令官は、ルビー・クールと共に、孤児院の子どもたちも処刑することを宣言した。
孤立無援で絶体絶命の窮地の中、孤児院の子どもたちを救うため、死刑台の上から今、ルビー・クールの逆襲が始まる。
絶体絶命ルビー・クールの逆襲<帝都大乱編> - <第七章 第五話>
<第七章 第五話>
後頭部が床に衝突する直前に、抱き留めた。ダリアを。フランクが。
ダリアが泣きそうな声を出した。
「あの女、あたしの魔法攻撃が、まったく通じないわ」
ルビー・クールは、心臓マッサージの手を止めた。もう、この男は救えない。
ダリアに向かって叫んだ。
「だったら、物理攻撃よ! ダリア、あなたが魔法の防壁を作って! あたしが拳銃で仕留めるわ」
ダリアが、泣き始めた。
「ダメよ。両足が動かない。神経をやられたわ。魔法のナイフが頭に突き刺さったのよ」
ルビー・クールが叱咤激励した。
「だいじょうぶよ。魔法攻撃では、障害者には、ならないわ」
「なるわよ!」
ダリアが泣き叫んだ。
「あなたは、ならないわ。なぜなら、魔法攻撃を受けて後遺症が出るのは、魔法耐久力の弱い人たちだけよ。あなたには、あるでしょ。強い魔法耐久力が。幼い頃から、母にしごかれて」
ダリアが、泣き止んだ。
「少しだけ、時間をちょうだい。魔法攻撃で切断された神経を、魔法で修復するわ」
ルビー・クールは、右足首のホルスターから、三十二口径のリボルバーを取り出した。
レジカウンターから、頭を出した。拳銃の銃口と共に。床に片膝をついたまま。
その瞬間、額(ひたい)に突き刺さった。魔法の短剣が。
ルビー・クールは、後方に倒れた。意識を失って。
「赤毛! しっかりしろ!」
金髪大男のフランクが、怒鳴っていた。
ルビー・クールは、両目を開いた。
視線を向けた。フランクはまだ、ダリアを抱きかかえている。
「何秒、寝てたかしら?」
「二秒くらいだ」
ルビー・クールは、上体を起こした。両手の指を、動かした。次に、両足を動かした。
だいじょうぶだ。後遺症はない。
やはり、魔法の防壁がないと、女工作員と戦えない。
ダリアに声をかけた。彼女が、答えた。
「両足の感覚が戻ってきたわ」
ダリアはフランクに背中を支えてもらいながら、ヨロヨロと立ち上がった。魔法詠唱しながら。
魔法のナイフが飛んできた。ダリアの顔面に向かって。
だが魔法のナイフは、空中で止まった。ダリアの半メートルほど手前で。
魔法の氷の板が、空中に浮かんでいた。魔法のナイフが突き刺さり、少しヒビが入った。
「もう少し大きい氷の板を出して。あたしの頭もカバーできるくらい」
「あなたが、あたしの近くに来なさいよ」
ルビー・クールが、ダリアのそばに移動した。姿勢を低くし、頭がレジカウンターの上に出ないように、気をつけながら。
ダリアは魔法詠唱を続けた。氷の板は、徐々に巨大化し始めた。
充分な大きさだ。
ルビー・クールは、頭と銃口を、レジカウンターの上に出した。
魔法のナイフが、飛んできた。ルビー・クールの顔面に向かって。
だが、魔法の氷の板に、突き刺さった。
ルビー・クールは、銃口を向けた。女工作員ローズに。
右肩に狙いをつけた。
発砲した。
だが、あたらなかった。十メートルくらいしか離れていないのに。
ローズが左手に一歩、移動したからだ。
もう一発、発砲した。
また、あたらなかった。ローズが一歩、移動したために。
今度は、身体の真ん中を狙った。
引き金を引いた。
だが、またもやあたらなかった。一歩、移動したからだ。
「へたくそ! 俺が仕留める」
フランクが吐き捨てた。
片手でダリアの背中を支えながら、フランクが銃口をローズに向けた。
発砲した。
だが、あたらなかった。
フランクは、次々に発砲した。あっという間に、全弾、撃ち尽くした。
しかし、一発もあたらなかった。
ローズは、笑っていた。笑いながら、フランクが撃った銃弾を、すべて回避した。一歩移動することで。
フランクが怒鳴り散らした。
「なぜあたらない! これは魔法なのか!」
「違うわ」
ルビー・クールが答えた。
「あの女は、移動して銃弾を回避しているのよ」
「そんなこと、できるわけないだろ!」
「あの女は、できるようね。おそらく、あたしたちが引き金を引く直前に、拳銃の射線から移動することで、弾丸を回避しているのよ」
フランクが、唸った。常識的にはありえないが、常人離れした動体視力と反射神経があれば、理論的には可能だからだ。
「あたしの魔法防御力、限界が近いわ」
そうつぶやくと、ダリアはカウンターの裏に身を隠した。
「もう、終わりかしら? 帝国は、魔法少女も戦闘員も、たいしたことないわね」
共和国の女工作員ローズが、高らかに笑った。
ダリアほどの魔法少女でも、魔法攻撃が通じない。そのうえ、拳銃の弾丸も、あたらない。
いったい、どうすれば倒せるのか。あの女工作員を。ルビー・クールは、頭を抱えた。Noveliaとは?
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