絶体絶命ルビー・クールの逆襲<帝都大乱編>
十九世紀末の欧州。
クリスマスの二週間ほど前の土曜日、極悪テロ組織「無産者革命党」が、帝都平民区で一斉蜂起した。いわゆる「帝都大乱」の勃発である。警察機能は停止し、街は無法地帯と化した。
赤毛の美少女ルビー・クールは、平民区の孤児院で慈善活動をしていたときに、無産者革命党に襲撃される。孤児院の子どもたちを人質に取られたルビー・クールは、絞首刑台広場に連行される。広場を埋め尽くしているのは、無産者革命党の党員や支持者の男たち1万人以上。
ルビー・クールは、首に絞首刑用ロープをかけられ、処刑直前の状況だ。
無産者革命党の司令官は、ルビー・クールと共に、孤児院の子どもたちも処刑することを宣言した。
孤立無援で絶体絶命の窮地の中、孤児院の子どもたちを救うため、死刑台の上から今、ルビー・クールの逆襲が始まる。
絶体絶命ルビー・クールの逆襲<帝都大乱編> - <第七章 第三話>
<第七章 第三話>
「お断りよ。なぜなら魔法は、見世物じゃないからよ」
わざと、上から目線で回答した。
「あら、残念。もったいぶるのね」
妖しげな笑みを浮かべたまま、ローズは言葉を続けた。
「あなたの質問に答えるわ。あなたの言う共和国政府が、大統領や議会を意味しているのならば、否(いな)よ。議会は、腐敗堕落した資本家どもによって支配されている。けれども、共和国政府が、官僚組織、とりわけ諜報組織を意味するのであれば、話は別よ。あたしは共和国政府の指示に従っていると言えるわ」
ルビー・クールが、間髪入れずに尋ねた。
「それで、新しい革命によって、どのような社会を目指すのかしら? すべての私的所有権を否定して、すべてを共有する社会かしら?」
「違うわ。完全な能力主義社会よ。現在の共和国は、無能な資本家どもが、お金の力で、有能な我々を支配している。最初の革命は、無能な貴族と教会による支配から、人民を解放した。新しい革命は、無能な資本家どもをギロチンにかけて、我々有能な者たちが、無能な者たちを支配する国家を築くのよ」
そこで、ダリアが口を挟んだ。
「聞き捨てならないわね。資本家は勤勉で有能よ。だから、資本蓄積が進むのよ」
ローズが即答した。
「違うわ。資本は自己増殖するのよ」
ルビー・クールが思わず、つぶやいた。
「有能であろうと無能であろうと、誰かが誰かを支配する社会なんて、恐ろしいわね」
ローズが、驚いた顔で問いかけた。
「帝国の人間が、そんなこと言う? 皇帝と貴族に支配されているのに」
「あたしたちは、誰にも支配されていないわ。誰もが、自分のできることをして、支え合って生きているだけよ」
「あなたの言っていることも、理解できないわ」
ダリアが、ルビー・クールに視線を向けて、ため息をついた。
ローズが、ダリアに視線を戻した。
「革命論議はこの辺で脇に置いて、本題に入りましょう。自由革命党のみなさん、取引をしましょう。この店を占拠している部隊の指揮官を、ここへ呼んでちょうだい」
「ここの指揮官は、あたしよ」
ダリアが即答した。
「あなたが?」
「ええ。あたしは自由革命党の革命家ダリア。あたしの部隊は、自由革命党内では、遊撃隊的な位置づけよ。今回は、最前線の拠点防衛が任務だけど」
この店は、最前線基地として最適だ。北西エリアの高級住宅街を守る上で。言わば、出城(でじろ)的な位置づけだ。
もしこの店が陥落したら、無産者革命党は大量の銃を手に入れ、北西エリアを襲撃するはずだ。そうなれば、自由革命党の戦闘員だけでは、多勢に無勢で、守り切れない。
「では、あなたに要求を言うわ。この店を、無産者革命党に引き渡してちょうだい」
「バカ言わないで! そんなことするわけないでしょ!」
ダリアが、思わず大声を出した。
「あなたの心配もわかるわ。あなたたちは、武装した状態で、この店から撤退していいわ。それに、無産者革命党には、高級住宅街を襲撃させないわ」
「それは、無理ね」
ルビー・クールが、口を挟んだ。
「なにせ彼らは、資本家や金持ちに対し、恨み骨髄だから」
「だいじょうぶよ。彼らのルサンチマン(著者注:社会的強者に対する復讐感情)は、別の方面に向けて発散させるわ」
「どんな方面?」
「庶民エリアに向かわせ、商店や町工場(まちこうば)を襲撃させるわ。それに、小学校もね」
一瞬、震(ふる)えた。ルビー・クールの全身が。女工作員のその恐ろしい言葉に。
「彼らは資本家だけでなく、プチ・ブル(注:小ブルジョア)のことも憎んでいるわ。商店では、お金がないから買い物できない。町工場は、雇ってくれと頼んでも、バカにして見下し雇ってくれない。小学校に通う小学生たちを見ると、小学校に通えなかった過去を思い出し、屈辱でルサンチマンが膨(ふく)らんでいく。一度も会ったことのない資本家よりも、身近なプチ・ブルに対してのほうが、ルサンチマンは強いものよ」
ダリアが、口を開いた。
「ずいぶん詳しいのね。あなたも小学校に行けなかったのかしら?」
「まさか。共和国では、とっくの昔に、小学校の義務教育化と無償化を実現しているわ。極貧層のルサンチマンを低下させるために。それに加えて、優秀な人材を発掘する目的もあるわ。それによって発掘された者の一人が、あたくしよ。一方、帝国は、いまだに小学校の義務教育化を実現していない。帝国の小学生たちが、小学校に通えなかった者たちに虐殺されても、帝国の自業自得だわ」
自業自得?
子どもたちには、何も罪はない。子どもたちを殺して良い理由などない。
ルビー・クールの心の中で、怒りの炎が燃えあがり始めた。
とはいえ、たしかに帝国には、義務教育制度がない。小学校を義務教育化するべきだ、との主張も以前からある。だが、文字の読み書きは、親が子どもに教えるべき、との主張が強い。そのため、親が読み書きできず、民間の小学校に通うお金がない家の子どもは、文字の読み書きができないまま大人になる。そうした若者の多くは、まともな仕事に就けない。
ローズは、帝国の欠陥を的確に突いた。
しかし、だからといって、小学生たちを殺害して良いわけがない。そんなことを、絶対に許してはならない。
絶対に、阻止しなければ。
「ダリア、信じちゃダメよ。嘘に決まっているわ」
だが、ダリアは沈黙して答えない。
考えているのだ。どのような選択が、最善なのかを。自分たち資本家、あるいは自由革命党にとって。
まずい。これは、まずい。ダリアを、こちら側につけなければ。ローズの口車に乗せられたら、多くの庶民や子どもたちが虐殺されてしまう。
それを防げる機会は、今だ。
そして、防げるのは、自分しかいない。
だが、いったいダリアになんと言えば、説得できるのか。ルビー・クールは、心の中で頭を抱えた。Noveliaとは?
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