絶体絶命ルビー・クールの逆襲<帝都大乱編>
十九世紀末の欧州。
クリスマスの二週間ほど前の土曜日、極悪テロ組織「無産者革命党」が、帝都平民区で一斉蜂起した。いわゆる「帝都大乱」の勃発である。警察機能は停止し、街は無法地帯と化した。
赤毛の美少女ルビー・クールは、平民区の孤児院で慈善活動をしていたときに、無産者革命党に襲撃される。孤児院の子どもたちを人質に取られたルビー・クールは、絞首刑台広場に連行される。広場を埋め尽くしているのは、無産者革命党の党員や支持者の男たち1万人以上。
ルビー・クールは、首に絞首刑用ロープをかけられ、処刑直前の状況だ。
無産者革命党の司令官は、ルビー・クールと共に、孤児院の子どもたちも処刑することを宣言した。
孤立無援で絶体絶命の窮地の中、孤児院の子どもたちを救うため、死刑台の上から今、ルビー・クールの逆襲が始まる。
絶体絶命ルビー・クールの逆襲<帝都大乱編> - <第六章 第二話>
<第六章 第二話>
「第四ブロックにあるローゼンベルク孤児院って、知っているかしら。先ほど、無産者革命党に襲撃されて、子どもたち十人が拉致されたわ。あたしはこれから、無産者革命党のアジトに乗り込んで、拉致された子どもたちを奪還するつもりなの。そのために、たくさんの銃と弾丸が必要なのよ」
ホイールとナットの全身が、一瞬、震(ふる)えた。
まるで、雷にでも打たれたかのように。
ルビー・クールの回答を、誤解したのだ。
彼らは、ルビー・クールを、ローゼンベルク孤児院の出身だと思ったに違いない。そうでなければ、孤児院の子どもたちのために、自分の命を賭けるわけがない。
計算して話したわけではないが、偶然先ほど、父が前回の戦争に従軍したことを口にした。その話は、孤児院出身と矛盾しない。
幼いときに、父が戦争で戦死した。母は一人で幼子を育てようとしたが、生活に行き詰まり、孤児院にあずけた。あるいは、母は幼子のために無理を押して働いて、体調を崩して病死した。それにより、孤児院で生活することになった。
おそらく一瞬のうちに、彼らの脳裏に、そうしたストーリーが思い浮かんだはずだ。
不幸な境遇で育った女が、不幸な境遇の子どもたちのために、自分の命を顧(かえり)みない。
その脳内ストーリーが、彼らの心の琴線を震わせたのだ。
ホイールが、つらそうな顔で、言葉を押し出した。
「同志ルビー・クール。奴らのアジトに乗り込むなんて、自殺行為だ」
「あたしが死んだら、子どもたちを救出できないわ。だから、できるだけ多くの人々を、味方につける必要があるのよ」
一呼吸してから、ホイールが答えた。
「わかった」
その言葉には、力がみなぎっていた。何かを、決意した顔をしていた。
「同志ルビー・クール。オレたちも、微力ながら、あんたに協力する。オレたちにできることがあれば、何でも言ってくれ」
「ありがとう。同志ホイール」
「オ、オレもだ。同志ルビー・クール」
「ありがとう、同志ナット。それでは、二人にお願いがあるわ。この近くの労農革命党の臨時作戦本部に、連絡を頼めるかしら」
連絡内容を説明した。ルビー・クールは、これから、自由革命党が占拠している銃火器店へ行き、共闘の交渉をする。交渉が成立すれば、自由革命党は、かなりの量の銃と弾薬を、労農革命党に提供する。両者共に、銃で武装した戦闘部隊を、無産者革命党のアジトに派遣する。共闘により、南三区北東エリアの無産者革命党を殲滅し、街を自分たちの手に取り戻す。
ホイールとナットが、臨時作戦本部まで行ってくれることになった。
ナットがルビー・クールに向かって言った。
「同志ルビー・クール、気をつけろよ」
「ええ、ありがとう。あなたもね」
ホイールが、ジャッカルの娘エルザに声をかけた。男装のエルザは、ルビー・クールのななめ後方三メートルの位置に立ち、フードを目深(まぶか)にかぶっている。ホイールたちと出会ってから、一言も発していない。
「よお。若い兄さん、同志ルビー・クールを、守ってやってくれよな」
エルザは、フードを目深にかぶったまま、無言でうなずいた。
男装したエルザは、一見、ふつうの若い男性労働者に見える。ルビー・クールのボディ・ガード役だと思ったのだろう。
ルビー・クールとエルザは、ホイールたちと別れた。
別れてすぐ、数十秒後に、歩きながら、エルザが声をかけてきた。
「女革命家、同志ルビー・クール」
そう言って、ククッと笑った。
「おかしいかしら?」
「凄いわ、あなた。半年前とは、全然違う。半年前も、ただの女じゃなかったけど。あたしが何度も殺し損ねたんだから」
「あれからも、いろいろあったからね」
「ねえ、ねえ。同志ルビー・クールって、呼んでいい?」
「革命家の前で、だけよ」
「あたしのことも、同志エルザって呼んでくれるかしら」
「革命家の前でだけならね。学園内で、革命や同志なんて言葉使ったら、たいへんなことになるわよ」
貴族は皆、革命勢力を目の敵(かたき)にしている。帝国魔法学園の教員は全員、貴族だ。
ヒヒッと、気味悪く笑った。エルザが。
「同志、同志、同志」
エルザは楽しそうに、つぶやいている。
危険で気味の悪い女だが、敵に回すより味方に引き込んだほうが良い。
いったん、南北大通りに出てから、銃火器店に向かって、南下することにした。そうすれば、無産者革命党の大軍に会わずにすむからだ。
南北大通りに出る前に、一個中隊百名と出くわした。この程度は、想定内だ。
ルビー・クールが、エルザに声をかけた。
「殺しちゃダメよ」
「なぜ?」
「死人は、泣き叫んで逃げ出したりしないからよ」
エルザが奇声をあげた。笑ったようだ。
「わかるわ。とってもわかる。泣き叫ぶ声が聞きたいのね。あたしもよ。恐怖と苦痛で、苦しむ顔が見たいのね」
もちろん、違う。多数の負傷者が泣き叫んで逃げ出し始めれば、部隊は総崩れとなり撤退するはめになる。戦場では、敵兵を殺すよりも、負傷させるだけのほうが、戦術的には効果的なのだ。
だが、めんどうなので、否定するのはやめておいた。
* * * * * *
あっという間だった。いや、正確には、三十数秒ほどか。ルビー・クールとエルザが、無産者革命党一個中隊に襲いかかってから、潰走させるまでの時間は。
無産者革命党側の武器は、主として刃物だった。ルビー・クールは雨傘で、エルザは二本の細身のナイフで、それぞれ十数人を負傷させた。わずか十数秒で。
三十名ほどが負傷したところで、中隊長が、ふところからリボルバーを取り出した。彼が銃口を向ける前に、ルビー・クールが、左膝を真上に向かって蹴り上げた。次の瞬間には、腰だめで、左手のリボルバーを発砲していた。中隊長の右腹部を、弾丸が貫通した。
ルビー・クールが声をかけた。恐怖で凍(こお)りついている部下たちに。
「中隊長を早く病院に運びなさい。早く手当をすれば、彼の命は助かるわよ」
その一言で、一個中隊は撤退した。中隊長を病院に運ぶという口実のもとに。
* * * * * *
銃火器店に着いた。エルザは労働者姿のため、中に入らず、少し離れた場所で待っていてもらうことにした。無産者革命党の党員だと間違われ、いきなり撃たれる可能性があるからだ。
ルビー・クールは、ベージュ色のロングコートのボタンをすべてはずし、帝国魔法学園の制服がよく見えるようにした。平民区で、帝国魔法学園の女学生を見かければ、誰もが、平民富裕層の娘だと思うはずだ。そのため、資本家を中心とした自由革命党の戦闘員は、発砲してこないはずだ。
ルビー・クールは、店の木製玄関ドアを開けた。声をかけながら。
「こんにちわ。銃と弾丸を買いたいのだけれど」
目があった。目つきの鋭い金髪の大男と。
「おまえ、あのときの赤毛か!」
まずいな、と思った。
だが、それを気取られないように、にっこりと微笑んだ。
「二ヶ月ぶりね。頭のたんこぶは、直ったかしら」
「このアマ、ぶっ殺してやる」
大男が、銃口を向けた。
血の気が引くのを感じた。
まずい、まずい、まずすぎる。このままでは、射殺されてしまう。なんとかしなければ。Noveliaとは?
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