絶体絶命ルビー・クールの逆襲<帝都大乱編>
十九世紀末の欧州。
クリスマスの二週間ほど前の土曜日、極悪テロ組織「無産者革命党」が、帝都平民区で一斉蜂起した。いわゆる「帝都大乱」の勃発である。警察機能は停止し、街は無法地帯と化した。
赤毛の美少女ルビー・クールは、平民区の孤児院で慈善活動をしていたときに、無産者革命党に襲撃される。孤児院の子どもたちを人質に取られたルビー・クールは、絞首刑台広場に連行される。広場を埋め尽くしているのは、無産者革命党の党員や支持者の男たち1万人以上。
ルビー・クールは、首に絞首刑用ロープをかけられ、処刑直前の状況だ。
無産者革命党の司令官は、ルビー・クールと共に、孤児院の子どもたちも処刑することを宣言した。
孤立無援で絶体絶命の窮地の中、孤児院の子どもたちを救うため、死刑台の上から今、ルビー・クールの逆襲が始まる。
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絶体絶命ルビー・クールの逆襲<帝都大乱編> - <第十六章 第三話>
<第十六章 第三話>
ルビー・クールは、左手に持っていた刃渡り十センチの小型ナイフを、右手に持ち替えた。鋼鉄製雨傘を持ったローズを、にらみつけた。
拳銃の弾丸は、あたらない。
肉弾戦でも、敵(かな)わない。しかも、二対一でも。
もちろん、魔法攻撃力では、太刀打ちできない。
とてつもない、バケモノのような魔女だ。
この女には、勝てない。
そう思った瞬間に、心が折れそうになった。
思わず、泣きそうになった。
ローズが、妖しげに微笑んだ。
「赤毛ちゃ~ん。もう、あなたの命もここまでね。散々手こずらせてくれたお礼に、なぶり殺しにしてあげるわ。あなたのこの雨傘でね」
そう言いながら、雨傘を何回か振った。
「この雨傘、かなり重たいわね。中身は鋼鉄かしら?」
「ええ、そうよ。重量は五キログラムよ」
「あら、そんなに重量があれば、女の骨くらい、簡単に折れそうね」
「普通の女ならね。だけど、あたしは普通じゃない女よ。あたしの骨は、折れないわ。あなたの腕力程度ではね」
「言ってくれるじゃない。あたし、スリムに見えても、脱いだら、筋肉が凄いのよ」
そう言いながら、ローズはジリジリと、迫ってきた。右足を前に一歩出すたびに、後方の左足を一歩引き寄せて。雨傘は、右手に持ち、剣のように構えている。
ルビー・クールも、少しずつ後退した。窓辺に向かって。
大会議室にいる敵は、すでにローズだけになっていた。ルビー・クールがこの部屋に飛び込んだ時点では、ジャン=ジャックの取り巻きの少年たちや若い男たちが、二十名から三十名ほどいた。だが、いつの間にか、彼らは逃げ出していた。
ジャン=ジャックは、ルビー・クールの右手の方角に、倒れている。アンジェリカがその傍(かたわ)らに座り込み、スカーフやハンカチなどで、脇腹の傷口を押さえている。ジャン=ジャックは、もしまだ生きていたとしても、瀕死の重傷だろう。
共和国戦闘員七名は、倒れたままピクリとも動かない。全員死亡だ。
ルビー・クールは、チラリと後方の窓辺を見た。ロープで縛られ猿ぐつわを噛まされた子どもたちは、窓辺の長机の上に、四名、へたり込んでいる。残り六名は、いつの間にか、長机の下に隠れている。自分で机の上から降りたのか、それとも転落したのか。だが、ケガはしていないようだ。セーターの上にオーバーコートを着て着ぶくれており、毛糸の帽子もかぶっているためだ。とはいえ、全員、泣きじゃくりすぎて、すでに涙は涸れている。
子どもたちの姿を見た瞬間に、ルビー・クールの心が奮(ふる)い立った。
自分が死ねば、この子どもたちは用済みとなり、殺されてしまう。
子どもたちを守る。絶対に。そのためには、この闘いで生きのびなければ。
ルビー・クールは、後退をやめた。背筋を伸ばした。
表情が、一変していた。再び、闘う女剣士の顔に戻った。
「赤毛ちゃん、戦意が戻ったみたいね。そのほうが、おもしろいわ」
ローズはそう言いながら、さらにジリジリと迫ってきた。よく見ると、重心は、後方の左足にかかっている。
ローズはなぜ、すばやく近づかないのか。その理由は、明白だ。右足を負傷しているからだ。銃火器店では、エルザのナイフが、かなり深く刺さっていた。かなりの重傷だったはずだ。手当てをしても、かなりの痛みは残る。それに、傷口を縫っていても、強い衝撃があれば、傷口は開いてしまう。そうなれば出血量が増え、身体への負担が増加する。出血量が多くなりすぎれば、意識を失う。
だからローズは、右足に負担を掛けないために、ゆっくりと近づいているのだ。
ローズとの距離が、五メートルまで縮まった。
ルビー・クールが魔法詠唱しながら、右手のナイフを投げつけた。
ローズが左手で、顔面に飛んできた魔法のナイフを防いだ。
その瞬間、絶叫した。ローズが。
視線を、自分の左足に落とした。
小型ナイフが、突き刺さっていた。ローズの左足の甲に。
ルビー・クールは、魔法のナイフをローズの顔面に投げるのと同時に、本物のナイフをローズの左足の甲に投げつけたのだ。
刃渡り十センチの小型ナイフは、五センチほど、ブーツの甲にめり込んでいた。ブーツの皮の厚さなども考慮すると、左足の傷は、深さ三センチ前後か。重傷では、ないかもしれない。だがこれで、今までのような動きは、できなくなるはずだ。
「よくもやったわね!」
怒りの形相(ぎょうそう)で、ローズが接近してきた。
右足で、踏み込んできた。振り上げた雨傘を、振り下ろした。ルビー・クールの脳天に対して。
ルビー・クールは、右腕を頭上にあげ、受け止めた。
その次の瞬間、右手で、雨傘をつかんだ。
右足を大きく踏み込み、ローズの右足の踵(かかと)にあてた。自分の踵を。
次の瞬間、ローズがバランスを崩した。床に、右肩から落下した。
ルビー・クールの足払いが、決まったのだ。剣術で使う足払いだ。
奪い返した雨傘で、ローズの顔面を突こうとした。
間一髪、ローズは回避した。床の上を、横に転がって。
すぐさま立ち上がると、ローズは後方に大きく跳躍した。右足で一回、左足で一回の合計二回。
六メートルは離れた。だが今の跳躍で、負傷した左右の足には、かなりのダメージが加わったはずだ。
にらみつけながら、尋ねてきた。ローズが。
「赤毛ちゃん、右袖に何か隠してるでしょ」
「ええ、そうよ」
ルビー・クールは冷ややかな笑みを浮かべながら、左手を、右腕外側の袖の中に入れた。
袖の中から、取り出した。両刃の短剣を。刃渡りは十五センチしかないが、刃(やいば)は幅広で、肉厚だ。そのため、けっこうな重量がある。同じものを、左腕にも仕込んである。この短剣なら、ローズの毛皮のコートも、貫通するはずだ。
形勢逆転か、と思ったときだった。
ローズが魔法詠唱を始めた。突然、空中に、魔法のナイフが出現した。
その数、十本以上。それが、急速に増加した。
あっという間に、三十本以上になった。
それでもローズは魔法詠唱を続け、魔法のナイフは、さらに増加し続けた。
まずい、まずい、まずすぎる。
あの数は多すぎる。全部は防ぎきれない。意識を失った瞬間に接近されて、本物のナイフで殺される。
その上、後方には、子どもたちがいる。
子どもたちから、遠ざからないと。
右方向へ駆け出そうとした。
その瞬間だった。窓の外から、魔法詠唱が聞こえた。
振り返った。
ダリアがいた。魔法の弓矢を構えて。Noveliaとは?
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