異世界娼館で生きる
異世界娼館で生きる
サキは日本の平凡な学生だったが、気がつくと異世界の奇妙な森の中で目を覚ました。状況を理解する間もなく、盗賊に襲われ、集団で犯された。泣き叫び、意識を失った。再び目を開けると、奴隷商人のガロンが彼女を見つけ、「また商品が手に入った」と笑っていた。首には奴隷の刻印が焼き付けられ、逃げ道はなかった。
移送中、ガロンは何日もサキを飢えさせた。パン屋の前で空腹に耐えかね、パンを乞うと、店主は「金か、体か」と言った。飢えが羞恥心を押しつぶした。店の裏で、一斤のパンのために彼に口で奉仕した。自らの意思で堕ちたのは、それが初めてだった。
続いてガロンの「調教期間」が始まった。荷馬車や宿屋で、彼はサキの体を使い、この世界の性的技巧と魔法の媚薬を教え込んだ。「これで高く売れる」と言いながら、何度も彼女を犯した。抵抗する意思は消え失せた。
町では、荒くれの冒険者たちが市場でサキに目をつけた。ガロンは止めもせず、彼らはサキを路地に引きずり込み、集団で犯した。その後、ガロンはただ「この世界では普通のことだ」と言った。
サキは高級娼館「月光亭」に売られた。先輩の娼婦カミラは冷たかった
異世界娼館で生きる - 跪く夜
明かりが消えた天幕の中、サキは寝台の端で膝を抱えていた。三日間、まともに食べていない。腹の奥が痛みを通り越して、ただ空洞になっている。手が震える。指先が冷たい。喉が渇きでひりつく。
前の夜、ヴァルターが囁いた言葉が頭の中で繰り返されていた。
「[whispers]お前は賢い」
その言葉の意味を、サキはよく知っていた。賢い奴隷は飼い主に従う。従順な家畜は餌をもらえる。従わなければ──何も与えられない。
天幕の布が揺れた。日光が一瞬差し込み、人の形が影を落とす。サキは膝を抱えたまま、顔を上げなかった。
無言の兵士が、水の入った椀だけを地面に置いた。椀が石の床に当たる小さな音。食事はなかった。昨日も一昨日も同じだ。
兵士は去った。
サキはゆっくり手を伸ばし、椀を持ち上げた。水はぬるい。でもそれだけが、今日一日のすべてだった。
(腹が減った)
口に出さない。声を出す力も惜しい。椀に唇をつけ、少しだけ飲む。冷たくもない水が喉を通る感覚だけが、まだ自分が生きている証拠だった。
──二日目の朝。
指先の感覚が薄れていた。うつむいたまま椀を握る手が、力なく震える。
腹はもう痛くなかった。空腹を通り越して、感覚そのものが消えていた。頭の中で考えがまとまらない。日本語の単語が時々浮かんでは消える。
(がっこう)
なぜそんな言葉が浮かぶのか、もう忘れていた。
日が沈む。夕暮れの薄明かりがテントの中を染める。遠くから兵士たちの笑い声が聞こえる。肉を焼く煙の匂い。
サキは目を閉じた。
天幕が開いた。
でも今度は──違う。
静かな足音だった。他の兵士の乱暴な足音とは違う。ゆっくりと、落ち着いた歩み。
ヴァルター・グレーフェ。
サキは顔を上げなかった。冷たい金属のような灰色の瞳を知っていた。その静かな目が、殴らない。怒鳴らない。ただ、見ている。
彼は寝台の端に腰を下ろした。近い。服から硝煙と鉄の匂いがする。
「[whispers]食事はどうだ」
サキは答えない。膝を抱える手に少しだけ力を込めた。
「[whispers]水だけだろう。兵士にはそう命じてある」
当たり前のように言う。感情はない。ただの事実として、口にする。
「[whispers]お前は賢い女だ。自分がどうすればここでマシな扱いを受けられるか──もう分かっているはずだ」
サキの指が震える。
「[whispers]自分から俺を欲しがれ。そうすれば扱いは良くなる」
声は低く、静かだった。
サキは唇を噛んだ。乾いた唇が切れて、かすかに血の味がした。それだけが生の感覚だった。
ヴァルターは立ち上がった。それ以上何も言わない。天幕の布を押し開け、外へ出る。
一人。
サキは額を膝に押しつけた。涙は出なかった。怒りも遠い。ただ腹の奥が空洞で、指先が冷たかった。
──三日目。深夜。
水だけが三日目の朝も置かれていた。
立とうとした。膝が笑って立てない。腕に力が入らず、寝台の端にへたり込んだまま動けない。
視界が時々ぼやける。焦点が合わない。日本語の記憶──学校、友達、未来──それらがぼんやりと遠ざかっていく。
(あたしは)
首の奴隷刻印が、かすかに脈打っている。所有者から逃げられない魔法の枷。自由は最初からなかった。
生きること。自分を守ること。どちらを選ぶか。
選ぶための力すら、もう残っていなかった。
外で風がテントを叩く。遠くから見張りの足音だけが、規則正しく聞こえる。
──四日目の夕刻。
日が沈みかけた光が、天幕の布を赤く染める。
サキは寝台に倒れ込んでいた。もう起き上がれない。目の焦点が合わず、天井の染みが滲んで見える。
水も今朝は椀に半分だけだった。
天幕が開く。
あの静かな足音。
ヴァルターが入ってくる。彼はサキを見下ろしながら、腰を下ろした。いつものように、感情のない灰色の瞳。
「[whispers]四日目だ」
声が遠く聞こえる。
「[whispers]お前はまだ首を縦に振らない。だが身体は限界だろう」
彼が口を開きかけた瞬間──。
サキの手が動いた。
震える指が伸びる。冷たく、骨ばった手。その指先が、ヴァルターの膝に触れた。
軍服の布の感触。固く、ざらついていた。
サキはゆっくりと寝台から降りた。いや、落ちた。足が床につく。石の冷たさが這い上がってくる。
膝をついた。
両膝が石の床に当たる。手をヴァルターの膝に置いたまま、顎を引く。うつむいたまま、口を開いた。
「[whispers]お願い……します」
声は掠れて小さく、息継ぎのように短かった。
四日分の飢えがその声に全て込められていた。
ヴァルターは答えない。
サキの内側で──音がした。
砕ける音。
それはプライドでもなかった。自尊心でもなかった。もっと深いところにあった、サキがサキであるための芯のようなもの。それが今、音もなく、跡形もなく──砕けた。
涙は出なかった。
代わりに、サキは顔を上げた。
ヴァルターの冷たい灰色の瞳を見上げ、唇に笑みを作る。顔の筋肉が強張って、震えながら──それでも歪んだ笑顔を作り出した。
生きるために。
ただ、それだけのために。
ヴァルターは表情を変えなかった。ただ数秒間、サキを見下ろす。値踏みするように。
それから彼は手を叩いた。
乾いた音が天幕に響く。
外から兵士が入ってきた。手には木の皿。パンの塊と、湯気の立つスープの椀。灯りを持った別の兵士も入ってくる。
「[cold]食え」
サキの前に置かれたパンとスープ。
四日ぶりの食べ物だった。
手が震える。パンを掴もうとして、指がうまく動かない。それでも引きちぎり、口に入れる。固い。でも噛むたびに、小麦の味が口に広がる。スープを啜る。ぬるい野菜の味。
ヴァルターは黙って見ていた。
サキは夢中で食べた。涙は出なかった。ただ、自分の変化を薄々と感じていた。食える──媚びたから。これからは、媚びれば生き延びられる。
食事が終わると、ヴァルターは立ち上がった。灯りを消す。暗闇が戻る。
「[whispers]今夜は自分から動いてみろ」
耳元で静かな声。
サキは震えながらも、寝台へ向かう。ヴァルターの軍服の上着に手を伸ばした。指が震えている。
(自分から)
ここ数日で覚えた動きを、今度は自分の意志で。いや、意志ではなかった。もっと原始的な、生存の計算として。
腰を動かす。甘い息をつく。学んだ媚び声を出す。
ヴァルターはほとんど声を出さなかった。ただ、暗闇の中でサキの変化を観察しながら、黙って受け入れている。
短い夜だった。
それでも──違った。
三日前の夜より、ずっとましだった。暴力はなかった。命令はなかった。ただ、自分から動いただけだった。
その事実が、サキの心に静かに染み込んでいく。
──夜明け。
天幕の隙間から、朝の光が細く差し込んだ。
サキは寝台の端で目を開けていた。まだ身体は重い。痣と古傷が疼く。でも──。
天幕が開き、兵士が木の皿を持って入ってきた。パンとスープ。温かい湯気が立っている。水ではなく、湯気の立つ食事が届くのは、ここに来てから初めてだった。
サキは黙ってそれを受け取った。
パンをちぎる。温かいスープを啜る。味がした。野菜の甘み。塩の加減。
噛みしめながら、昨夜の記憶を辿る。
あれは苦痛だったか。確かに苦痛だった。でも──三日前の夜よりは、ずっとましだった。
(媚びれば、食える)
(自分から動けば、殴られない)
歪んだ計算式が、頭の中で少しずつ根を張り始めている。
サキは空になった椀を見下ろした。指先はまだ震えている。
自分の名前を、声に出して呟いてみる。
「[whispers]サキ」
それが自分のものかどうか、少しだけ曖昧に感じた。
泣かなかった。
それが何を意味するか、自分でも薄々わかっていた。自分の中に新しい何かが植え付けられた朝。壊れた芯の代わりに、冷たくて歪んだ何かが根を下ろし始めた朝。
天幕の隙間から差し込む朝の光を見つめながら、サキはゆっくりと息を吐いた。
あたしは──まだ、生きている。