異世界娼館で生きる
異世界娼館で生きる
サキは日本の平凡な学生だったが、気がつくと異世界の奇妙な森の中で目を覚ました。状況を理解する間もなく、盗賊に襲われ、集団で犯された。泣き叫び、意識を失った。再び目を開けると、奴隷商人のガロンが彼女を見つけ、「また商品が手に入った」と笑っていた。首には奴隷の刻印が焼き付けられ、逃げ道はなかった。
移送中、ガロンは何日もサキを飢えさせた。パン屋の前で空腹に耐えかね、パンを乞うと、店主は「金か、体か」と言った。飢えが羞恥心を押しつぶした。店の裏で、一斤のパンのために彼に口で奉仕した。自らの意思で堕ちたのは、それが初めてだった。
続いてガロンの「調教期間」が始まった。荷馬車や宿屋で、彼はサキの体を使い、この世界の性的技巧と魔法の媚薬を教え込んだ。「これで高く売れる」と言いながら、何度も彼女を犯した。抵抗する意思は消え失せた。
町では、荒くれの冒険者たちが市場でサキに目をつけた。ガロンは止めもせず、彼らはサキを路地に引きずり込み、集団で犯した。その後、ガロンはただ「この世界では普通のことだ」と言った。
サキは高級娼館「月光亭」に売られた。先輩の娼婦カミラは冷たかった
異世界娼館で生きる - 笑顔の数え方
天幕の布が、朝の光に薄く透ける。
サキは寝台の端で手のひらを見下ろしていた。白い指。細く、骨ばった指。その指を一本ずつ折りながら、彼女は唇を動かす。
八十六。
十七話で跪いてから、八十六日目の朝だ。
サキは顔を上げない。目だけを動かして、天幕の入り口を見る。布の外から、兵士たちの話し声が聞こえていた。
「並んでるのか」
「当たり前だろ。ここ最近、あの娘は評判いい」
「へえ」
三人。一人目は声が若い。二人目は掠れた声。三人目は無言。
サキは口の端を上げた。
笑顔を作る。
顔の筋肉が、教え込まれた通りに動く。目尻を少し下げる。口角を上げすぎない——それが自然に見えると学んだから。
(今日も、がんばろ)
心の中で呟く。かつては震えていた指が、今は動かない。
天幕の布が開いた。
最初の兵士が入ってくる。若い。まだ二十歳を過ぎたくらいだ。顔に傷はなく、でも目が虚ろだ。前線で何かを見てきた者の目。
サキは寝台から降りた。膝立ちで近づく。ゆっくりと。
「[gentle]お疲れさま。癒してあげる」
甘い声。喉の奥を震わせるように——そう覚えた。
兵士は一瞬だけどぎまぎする。でもすぐに、目を細めて手を伸ばした。
サキは自分から、その手を取る。
粗い指。爪の間に泥が詰まっている。戦場の匂い——硝煙と、乾いた汗と、血の混じった匂い——が、この空間には染みついていた。
サキは軍服の上に手をかけた。
指が勝手に動く。解く。留め具を外す。もう見なくてもできる。何百回も繰り返した動作だ。
(九つ。十)
頭の隅で数字を数える。
身体は別の動きをしている。
薬はいらない。紅夢粉を打たれなくても、今は勝手に動けるようになった。それがいいことなのか悪いことなのか——もう、わからない。
兵士の息が荒くなる。
サキは腰を動かした。甘い息を漏らす。学んだ吐息。「あっ」という短い声。それも技術の一つだ。
(十一。十二)
頭の中の数字は続く。
それが、かろうじて自分に残っているものだった。
日数を数えること。ただそれだけが、サキをサキにしている。
——。
二人目。三人目。
四人目の兵士を見送ったのは、昼を過ぎた頃だった。
サキは水の椀を手に取った。冷たい水が喉を通る。ぬるい。でも、それだけでいい。
テントの外から声が聞こえた。
「俺も並んだ方がいいのか?」
「そりゃそうだ。あの娘はいいぞ——」
「何がいいんだ?」
「そりゃお前、試してみろよ」
笑い声が続く。
順番待ちの列。
ヴァルターが言った通りになった。お前の評判が上がれば、扱いも良くなる。その言葉は正しかった。暴力はない。三食届くようになった。水だけじゃない。パンと、時には肉の切れ端が浮いたスープが、ちゃんと椀で届く。
(これが、正解だから)
サキは椀を置いた。
目を閉じる。ふと、自分の名前を思い出そうとした。
サキ。
それは確かに自分の名前だ。でも——それが自分に紐付いている感覚が、ひどく薄い。
ダガンへの憎しみ。
思い出そうとする。野盗団のリーダー。鉤爪の義手。自分を犯し、売り飛ばした男。
出てこない。
感情が、ない。
マダム・ヴェスパへの恨み。
霞んでいる。月下の館の支配人。冷たい目でサキを見下ろした女。彼女が自分を軍に売った。
(どうでもいい)
心の中で言葉が浮かぶ。
(あの人たちは、もう関係ない)
残っているのは、今日が八十六日目ということと、次に来る兵士は三人ということだけだった。
サキはもう一口、水を飲んだ。
次の兵士を迎える準備を始める。服を整えて、髪を撫でつける。笑顔を作る練習を、もう一度。
——。
夕刻。
キャンプの空気が変わった。
遠くから荷馬車の車輪の音が聞こえる。物資補給の時間だ。いつもなら気にも留めない。でも——今日は、何かが違った。
サキは天幕の布の隙間から、外を覗いた。
夕日が赤く、キャンプを染めている。
荷降ろしをしている兵士たちの中に——見覚えのある姿があった。
太った体。黒い服。汗で光る額。
奴隷商人のガロンだ。
心臓が——跳ねなかった。
かつてのサキなら、震えただろう。唇を噛み、憎しみに拳を握っただろう。でも今は——何も感じない。ただ、知っている顔だと思っただけだ。
ガロンが歩いてくる。荷馬車を監督しながら、キャンプの中を進む。兵士たちと言葉を交わしている。商売の話だ。
サキの天幕のそばを通りかかったとき——。
布の隙間から、彼女と目が合った。
一瞬、ガロンの足が止まる。
月下の館で売り飛ばした小娘だ。あの日、床に叩きつけられて震えていた——恐怖と怒りを目に宿していた小娘が。
今は違う。
サキは微笑んでいた。
自然な微笑み。目尻が柔らかく下がり、唇が小さく弧を描く。まるで、ずっとそうだったかのように。
ガロンが笑った。
「[laughing]やっと商品らしくなったじゃねえか」
嘲笑う声。
サキは笑顔のまま、小さく頭を傾けた。
「[gentle]ありがとうございます」
自然に、口から出た。
ガロンの笑いが——固まった。
何かが違う。
怯えて従っているのではない。本当に、自然にそこにいる。自分が売り飛ばした少女の残骸が——微笑んでいる。
ガロンは何か言いかけて、やめた。
「……使えるようになったな」
吐き捨てるように言って、歩き去る。
サキは、その背中を見送った。
笑顔のままで。
(あの人が、たじろいだ)
その事実に、サキは気づかなかった。気づく感情が、もうなかった。
——。
夜が来る。
一人、二人と兵士が去った後——天幕の布が静かに開いた。
ヴァルター・グレーフェだ。
短く刈り込んだ黒髪。鋭い顎の線。冷たい灰色の瞳。いつもと変わらない、無表情な顔。
天幕の中に立ち、正面からサキを見下ろす。
サキは自分から動いた。
膝をつく。
石の床の冷たさが膝に這い上がる。でも、震えはない。迷いもない。
顔を上げて、微笑む。
学習した通りの笑顔。
ヴァルターは数秒、無言でサキを見下ろした。
彼の目には、満足の色はない。
感情が、ない。
ただ——冷たい観察がある。まるで実験の結果を確認する科学者のように。
「[cold]よくできている」
低く、短い声。
サキは頭を下げた。まるで褒め言葉に感謝するように。
ヴァルターは静かに手を伸ばし、サキの顎を持ち上げた。
冷たい指。骨ばった感触。
灰色の瞳が、サキの目を覗き込む。
虚ろで、澄んだ目。怒りも、恐怖も、何も残っていない目。
ヴァルターは無言で灯りを消した。
暗闇が降りる。
サキは自分から動いた。軍服に手をかけ、習得した通りの甘い声を出す。腰を動かし、学んだ吐息を漏らす。
ヴァルターはほとんど声を出さない。
彼にとって、これは作業だった。支配の完成を確かめるための、冷たい確認。
サキにとっては——ただ今夜も生き延びるための動作だった。
——。
同じ夜。
マルケンハーフェンの歓楽街「紅灯区」。魔法灯の赤い光が石畳を照らす中、月下の館の二階——。
カミラは立ち止まった。
サキが使っていた小部屋の前だ。
扉に手をかける。開く。中は暗く、空気が澱んでいる。
残された荷物はそのままだった。小さな布の切れ端——日本のものだ。柔らかい繊維の感触。カミラが渡した薬草の包みも、隅に置かれている。
カミラはそれを手に取った。
しばらく、見つめる。
マダム・ヴェスパに聞いても、「軍に売った、それだけ」の一言で終わった。どの軍か、どこか——答えはなかった。
カミラは荷物を元の場所に戻した。
ゆっくりと、丁寧に。
扉を閉める。廊下に出た。
壁に背を当てる。
拳を握る。
指の関節が白くなる。爪が掌に食い込んで、小さな痛みが走る。でも——それだけが、今の彼女の感情を繋ぎ止めていた。
カミラは声を出さない。
泣かない。
ただ、その拳だけが——彼女の中にある全部を押し込めている。
「[whispers]あのバカ」
胸の中でだけ、呟く。
「[whispers]生きていろよ」
彼女がサキの痕跡を追い始めたのは、今夜からだ。
まだ、何も動いていない。
でも——彼女の拳は、決して緩まなかった。